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第百三十八話 フェローの仕事(中編)

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 屋敷に戻った俺はハンナと別れ、庭道具を手にすると、再び木々の手入れをし始めた。
 手入れをしていると、屋敷周辺に配置している俺の使い魔からの合図があったので使い魔に意識を向ける。
 どうやら注文していた家具屋が家具を届けに来たようだ。
 セドリックに回線を使って連絡を入れつつ、俺は応対する為に門に向けて足を運んだ。

 俺が家具屋の応対をしていると、セドリックが到着したので、後を任せた。
 そうして俺はふと、初めて使い魔が反応した時の事を思い出した。

 この屋敷を旦那様が購入なされて少し経った頃、外でこちらを伺う男が現れるようになった。
 最初の頃はまだ外で様子を伺っているだけだったのだが、ある日内部に侵入しようとしてきたのだ。
 当然そんな事を俺が許すはずもなく、即座に男を眠らせて捕らえた。

 庭の片隅には、俺とセドリック達、そして旦那様しか知らない地下室が存在している。
 中へ入れるのは基本は俺とセドリックだけとなっている。
 その地下室へ男を運び込み、その記憶を覗いた。
 記憶を覗いた俺は即座にセドリックに闇の回線を使って連絡を入れた。

『ちょっといいか?セドリック』
『どうされましたか?フェロー』
『今屋敷に侵入しようとした男を捕らえたんだ。ただの物盗りならこのまま始末するか記憶を消して捨ておこうと思ったんだが、どうも貴族から送られてきた男みたいなんだ』
『なるほど、そちらへ参りますので少しお待ち下さい』

 そうして回線が切れ、俺はセドリックを待った。
 男はいまだ眠ったままである。
 しばらくして地下室の入り口の扉が開いた。

「お待たせしました」
「いや」
「彼がそうですか」
「ああ、どうしたものか、始末も出来ない」
「そうですね……。まずは彼が命令を受けた時点からの記憶を奪いましょうか。その後は主人に連絡しなければいけないという記憶を植えつけて街の外に転がしておけばよいでしょう」

 セドリックの言葉に目線で理由を問う。

「殺すのはまずいですし、ここに侵入してからの記憶を奪うと私達が関係していると推測が出来てしまいます。なので、今回はその対策ですね」
「なるほど。しかしそうするとまた侵入しに来ないか?今日でなくとも別の日に」
「ええ、来るでしょうね。その為に植えつける記憶です」
「なるほど、こいつが帰る時に使い魔をつけておけば……」
「ええ、そういう事です。この男に我々を調べる理由などは教えられてはいませんからね。そうなれば貴族を見るしかありません」

 そうして俺はセドリックと今後の対策を話し合った。
 だが、まずは貴族がこちらを探る理由を知る事からだろう。
 それを知らねばどうにもならない。
 単独で行っているのか、国からの指示か、多分旦那様を調べているのだろうとは思うが。
 旦那様はこの国で二人しかいないAランクのうちの一人だ。
 一人は国に仕えている。
 となれば、旦那様を仕えさせたいか……、もしくは愚かにも自分の私兵にしたいか。
 まずはどちらかを調べねばなるまい。
 俺とセドリックは、男の記憶を奪い、別の言葉の記憶を植えつけて、街の外に転がしておいた。
 あの場所であれば闇獣に襲われる事もあるまい。

 その日から数週間経った頃、使い魔の1匹から合図があった。
 あの男につけた使い魔だ。
 俺は木々の手入れを一旦やめて、木にもたれかかり目を閉じて、意識をそちらに移す。
 どうやら早馬を飛ばしてどこかの街についたようで、男は急いだ様子でどこかを目指して移動している。
 男に張り付いた使い魔から男の表層の意識を読み取る。
 ここはやはりフレンスブルクの街のようだ、今男が向かっているのはこの街に居を構える貴族の屋敷であろう。

 これまで貴族など気にした事はなかったが、この男を捕らえてからは主にセドリックが貴族の情報を集めていた。
 そこで分かったのが、この男の主はかつて旦那様が居を構えていらっしゃった場所の近くにある、エドンの町を含める地方の支配者である、フレンスブルク地方のアッヘンバッハ伯爵家だった。

 この、アッヘンバッハ家は他の地方の辺境伯家と違い、他国と接していない。
 海に面してはいるが、他国とは遠すぎて交易はほとんど出来ていない。
 更に海はあるが、それも王が治める中央と、ポシュナー家が治める地方も海に面しているので有利となりえない。
 なのであまり裕福な地方ではないのだ。
 しいて言えば、独占ではないが鉱山があるのでなんとか潤っているという所だろうか。


 男は平民が住む区画を過ぎる辺りで一気に気配を薄くした。
 そのまま、己の主が住む屋敷を目指すのだろう。
 俺は一度意識を戻すと、庭具を片付けて庭の一角にある地下室へと向かった。
 少し時間がかかりそうなので、セドリックにその旨を伝えると俺は地下室にある椅子に腰掛け、目を閉じた。
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