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第百二十九話 再びの山頂

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 城から出た一行は、気持ちを表面だけでも切り替えると、もう一度リトーフォウがいる生息地に向かう事になった。
 サーシャも会いたいと言ったのと、本当に短い時間しかフォウに交流させてあげれなかった事、あとはあのケガしたリトーフォウだ。
 問題はないと思うが、出来れば目覚めた姿を確認しておきたい。

 後ろ髪を引かれる思いはあるが、いつまでも悲しんでもいられない。
 きっとあの子は幸せになれるだろうし、もし何かあれば命を賭けてでもあの子を助けるし、守るつもりだ。
 いずれエルも共にいれなくなる、その後は自主性を強くした小鳥と小さい虫をファニーの近くにつける予定だ。
 そうでもしないと不安でたまらない。
 人間の一生はそう長くもない、あの子が結婚して幸せに暮らしてくれればそれでいい。

 ほんの少ししんみりとしつつも街を出て、山へ向けて移動を始めた。
 今回も日が沈む前くらいには中腹へと辿り着くだろう。

 日が沈みかけた頃、予定通り山の中腹に辿り着いた。
 晩御飯はサイリールが作った。
 これから山へ登るのであまり重くならないようにサンドイッチにした。
 食べ終わったら山頂目指して移動を開始する。
 さすがに足元が悪いのでサーシャは抱き上げていく。

 前回とは違い急ぐわけでもないのでアソートは歩いていくようだ。
 馬車も馬も闇で包んでおいたので問題はないだろう。
 歩きながらもサイリールに抱き上げられたサーシャとフォウはキャッキャと遊んでいるようだ。

「ねー、パパ。フォウのおともだちがいっぱいいるの?」
「うん、ともだちがいっぱいるよ。フォウはまだ子供だから小さいけど、大人のリトーフォウもいるよ。でも野生の動物だからね、大きい声を出したり、無理に触ろうとしたり、走ったりしない事、いいね?」
「うん!わかった!フォウ、たのしみだね!」

 サーシャの声にフォウもぴぃと鳴いた。
 そういえば大人のリトーフォウはぴぃとは鳴かなかった。
 クゥクゥと喉の奥で鳴いているような独特の声であった。
 フォウは親と早く別れたのでこうやって大人のリトーフォウと交流するのはとてもいい事だ。

 そうこうしているうちに草木の生えない地帯までやってきた。
 もう少しいけばリトーフォウと交流した場所につくだろう。

「パパ、サーシャもあるくー!」
「はいはい、こけない様に気をつけるんだよ。アソートと手をつないでね」
「うん!」

 サーシャを降ろすとアソートとぎゅっと手を繋いだ。
 さすがに身長差がありすぎるので、サイリールとサーシャでは手を繋ぐ事はできないのだ。

 そうしてサーシャの速度に合わせてゆっくりと登り始めた。
 このままでいけばあと数十分で山頂につくだろう。
 そう思ってのんびりと山を登っていると、どこからかクゥクゥと独特の鳴き声がした。
 その声にフォウが反応してぴぃと鳴き返している。
 さらにまたクゥクゥと声がし、フォウが鳴き返す。
 しかしその後はもう声はしなくなった。
 フォウも鳴く事もなく、落ち着いているので、フォウかどうかの確認をされたのかもしれない。
 とくにフォウも気にしていないようなので、こちらも気にせずに山頂を目指した。

 しばらくして山頂に辿り着くと、そこにはすでに数匹のリトーフォウが穴の側で待っていた。
 少し離れた場所で止まり、そっとフォウを地面に降ろした。

 数匹のリトーフォウがいる方へフォウは駆けて行く。
 サーシャとアソートと小声で会話をしてフォウが戻るのを待つ事にした。
 そうしてしばらく小声で会話していると、フォウが1匹のリトーフォウを連れて戻ってきた。

 ぴぃと鳴いて何かを欲しがっている。

「ああ、紙?」

 サイリールの言葉にフォウがコクコク頷いた。
 土の上で文字を書くのは大変なので板を出し、その上に紙を置いて固定した。
 フォウは器用に口にペンを咥えると紙に何かを書き出した。

「ああ、なるほど。この間のケガしてた子がその子なんだね。良かった。元気そうで」
「あ、あの時の子かぁ。良かったねぇ、とても元気そうで安心したよ」

 サイリールとアソートがそう言うとフォウがそのリトーフォウに何かぴぃぴぃと言っている。
 どうも翻訳をしてくれているようだ。
 フォウの言葉を聞いたそのリトーフォウはサイリール達に近づいてくると、親愛を示す行動をとった。
 全員の手や足に体をこすりつけている。
 全員にこすり付け終わると、今度はフォウにも顔をこすりつけている。
 前回はケガをして丸まっていたのでよく見ていなかったが、胸元の銀色の毛にひと房だけ茶色い毛が生えていた。
 そして目の色はフォウよりは薄いが青空のような明るい青色だ。
 観察していると、そのリトーフォウはフォウに何かを話し始めた。
 フォウが頷き、また紙に何かを書き始めた。

「え?名前が欲しいの?」

 どうやらこのリトーフォウは名前をつけて欲しいらしい。
 どうもそれも親愛を示す行動から来るもののようだ。
 いい名前がないものか、とアソートやサーシャにも相談してみた。

「あ、シーニーってどうかな?どこの言葉か忘れてしまったんだけど、青って意味だったと思う。ほら、綺麗な青空みたいな目の色をしているから、いいかなって」

 アソートの言葉にサーシャもサイリールも賛成した。
 それをフォウに告げて翻訳してもらうと、シーニーはとても喜んでいた。
 再びサイリール達に体や顔をこすりつけ親愛を示してくれた。
 そうして満足気にはずむような足取りでシーニーは穴へ向かって戻って行った。

 その後は少し慣れたのか、若そうな個体のリトーフォウ達が近寄ってきてくれた。
 そっと体を撫でると嬉しそうな顔をしていた。
 サーシャもフォウへの対応で、リトーフォウの撫でると気持ちいいポイントを心得ているようでサーシャに撫でられているリトーフォウはみな気持ちよさげにしている。

 しばらくそうしてリトーフォウ達とゆっくり過ごし、明け方近くには別れ、山を下りていった。
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