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第百一話 家を買おう

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 セイ達を守ろうと決めたサイリールはセイが落ち着くまでひたすら抱きしめ、頭を撫で続けた。
 その間に、セイに頼んでアソートに届けられた黒い小鳥に半分意識を飛ばす。

 小鳥は部屋のテーブルの上にいるようだった。
 アソートを探して視線を巡らそうとした時、近くからファニーの声がした。

「これーぱぱにあげるのー」
「パパをおどろかせるためにあっちにかくしておこう?ファニー」
「うん!おどろかすー!」

 そんな声の方に視線を移すと、走り去る子供達の姿が見えた。
 愛しい子供達のそんな言葉にサイリールは心が温かくなった。
 改めてアソートを探そうとしたらふわりと掴まれる感触があった。
 視線を動かすと、それはアソートだった。

 サイリールが口を開こうとしたら、アソートがしっと言って自らの口に人差し指を当てていた。

「ここは子供達がいるから、部屋で話そう」

 小声でそう呟くアソートにサイリールは小鳥の首を縦に振った。


 部屋の一つに移動するとアソートは小鳥をそっとベッドの上に放した。

「それで、どうしたの?サイリール。あの子は……?」
「イーナは体の治療は終わったけど、心はまだ……。これからセイに協力してもらう事になる。」

 そうして少しだけ今のイーナの状況を説明した。
 説明を聞いたアソートは顔を両手で覆うと気持ちの高ぶりが抑えきれないのだろう、譲渡してアソートの一部となった闇がぶわりと体から漏れ出している。

「アソート、今は落ち着いて。イーナの記憶を消去したら、やつらを殺しに行くから、その時はアソートも一緒に行こう」

 サイリールの言葉を聞いてアソートは深く深呼吸を繰り返した。

「ふぅー。うん、ごめんね、サイリール。君だって、いや、むしろ現場でイーナちゃんを見てる君の方が憤っているだろうに」
「いいんだ。そうやってアソートは同じように怒ってくれるのを分かっていたから、僕はまだ気持ちを抑えきれたしね」

 サイリールは小鳥だから表情はわからないが、お互い目を合わせて微笑みあった。

「イーナについてはこれからが勝負なんだけど、あとひとつ。エルにも話しておいて欲しいんだけど、ここまで関わってあの子達を放置しておくというのが出来ないんだ。あの子達を守ってあげたいんだ」
「うん、分かってた。大丈夫。エルもそれは気づいていたみたいだよ。というか、多分だけどエルはあの子達の面倒を勝手に見る気だったのかもね」

 アソートの言葉にサイリールは驚いた。
 アソートは小鳥を見ながら、エルについて話した。

 アソートが屋台広場であの子達に再度渡そうと甘いパンを買った時、エルがさりげなく時間停止機能がついている袋を渡してきてこう言ったのだ。

『アソート様、そのままですとまたいらぬ諍いに巻き込まれる可能性がございます。ですので、あの子と出会ったらこちらの袋にいれて持ち帰るようにお伝えしてはいかがでしょう?』

 アソートもそれについてはいい考えだと思ったので素直に受け取った。
 そしてセイが伝言を伝えに来てくれた時、パンと共に袋も渡したのだが、そこでエルがたくさんの食材を取り出してセイに譲渡していた。

 そこでエルが言った言葉があの子達への終わりない援助の申し出だったのだ。

『食材が減ったなと思ったら足しておきます』

「そう、言ってたんだ」
「そうか、うん。僕は僕の家族をとても誇らしく思うよ」
「うん、いっそさ、ここで家を購入しない?」

 アソートの言葉に小鳥の首がカクリと傾いた。

「家?」
「そう、家。確かに森の中の家は安全だしいいと思う。けどさ、あの子達を森の家に連れて行くのは人との交流がなくなってしまうだろ?いずれあの子達も大きくなって自立する時が来るから、その時人とのかかわりもなく大きくなるのはダメだと思うんだ」

 アソートの言葉にサイリールも小鳥の首を縦に振った。
 それを確認してアソートは言葉を続けた。

「小さい町だと色々と人とのしがらみや目がよくあるけど、大きい街は意外と人って見ていないんだ。だから家を買うならこういう大きな街がいいと思う。だけど、今のボク達は旅の途中だから、あの子達とは一緒にいられない。」

 その言葉にサイリールも頷いた。
 確かに今はファニーを帰す旅の最中だし、その旅にあの子達まで連れてはいけない。
 そうすると家を買うのはいいが、誰があの子達の面倒を見ればいいのか。
 僕が守ると決めたばかりなのに……。
 そこまで考えた所でアソートが再び話し始めた。

「だからね、サイリール。ひとつ、提案があるんだ」

 そう言ってアソートが話し始めた内容に、サイリールは驚きつつも了承したのだった。
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