上 下
93 / 288

第九十三話 一番年上だから 前書き編集

しおりを挟む
 部屋から出たセイは、サイリールから貰ったお金がたくさん入った小袋を自分が普段から使っていた腰の小袋と入れ替えた。

 不思議なもので本当にお金が入っているのかというくらい膨らみもなく音もしない。
 それでも改めて手を突っ込んでみるとたくさんの銅貨に指が当たるのだ。

 小袋から目を離して弟達を見ると皆こちらを見ている事に気づいた。

「なんだよ、おまえらどうした?」

 イーナと一番仲の良かったリーアがおずおずと口を開いた。

「セイにいちゃん、イーナちゃんは……?」
「……まだだ。でもきっとよくなる。にーちゃんはすげぇひとだからな!」

 ニカっと笑って弟達を励ますセイ。
 セイのいつもの笑顔に皆ほっとした。
 口々に良かった、イーナねーちゃんたすかるんだ!と騒いでいる。

 それを見たセイは自分の中にある不安を押し殺し、笑顔で弟達に食い物を買ってくると告げた。
 その言葉に子供達は一斉にお腹を鳴らす。
 これまでは明るくしていても皆不安でいっぱいだったのだ。
 今は安心してお腹が空いているのを思い出したのだろう。

「なんだよ、みんなきゅうだな!じゃあくいもんてにいれてくるから、みんなはまきのようい、しておいてくれよな!」

 セイの声に皆、笑顔で頷いた。
 その姿を見届けてからセイは家を出て行った。

 セイにはする事があった。
 まずは弟達の腹ごしらえを先にしないといけないが、その後にサイリールに頼まれた事がもうひとつあった。
 彼の家族への伝言だった。
 本当は先に伝言に行くつもりだったのだが、サイリールがまずは腹ごしらえをしてからと言ったのだ。

 伝言は、今日の家族の移動ルートを聞いたのでそこを周り、いなければ宿に行って伝える予定だ。
 とはいえ、多分宿には入れないだろう。
 高級な宿と言っていたし、きっと知り合いだと言っても入れてくれない。

 ただ、セイにはそんな時の為にサイリールから渡されている不思議な小鳥がいる。
 その黒い小鳥は小袋の中に入っている。
 彼が作った小鳥だそうで、宿に行く時は宿の近くでこの小鳥を放てば、アソートが宿から出てくるという話しだった。
 アソートというのはあの時一緒だった、イーナが懐いていたにーちゃんの事だろう。

 そんな事を考えながら、セイはスラム街の近くにある裏市へと急いだ。

 スラム街の近くにある市場は裏市と呼ばれ、一般的な市場とは違い、基本的に質のいい物は売っていない。
 だからこそ、安く買う事が出来るのだ。
 安く買う事も出来るが、時折危険な物を売っている店もある。
 所詮管理されていない違法な市場なのでそれは仕方ない事だ。

 セイは手早く萎びた野菜や硬いパン、肉の切れ端を購入すると急いで家へと戻った。
 サイリールからはゆっくりご飯を食べた後で伝言に行ってくれればいいと言われていたが、自分達の為にここまでしてくれる彼に報うべく、出来るだけ早く行動しようと思っていた。

 家に戻ると、台所の窯近くに小枝などが積み上げられていた。
 弟達が近くの林から集めてきた分を出しておいてくれたのだろう。
 この小枝は乾燥も兼ねて裏の物置に置いてあった分だ。
 薪代わりの小枝もまた林に取りに行かねばなるまい。
 街中の木からも多少小枝を集めれたりはするが、そんな物では足りないのだ。

 薪など購入する余裕がない彼らはいつも街の外の林で薪となる小枝を集めていた。
 もちろん行くのは年長組みだけだが。
 本当は林に行くのは危ないのだが、それ以外にあまり方法がないので注意を払いつつもいつも薪集めをしている。

「お、まき、だしてくれたんだな、ありがとうな、おまえら。」

 セイの言葉に幼い弟や妹達はニカーっと笑顔になる。

「よっしゃ、きょうはたくさんかえたから、にくもちょびっとだけどいれたぐだくさんのスープをつくってやるからな!」

 弟達からは喜びの声が上がった。
 普段あまり食べさせてやれてないので、セイはそんな弟達の声に笑顔になるのを抑えきれなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...