闇の世界の住人達

おとなのふりかけ紅鮭

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第八十五話　暴力

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　セイに向かって飛んできたのは、男の放った蹴りだった。
　男の放った蹴りはセイを軽く吹き飛ばした。

　吹き飛ばされたセイは壁にぶつかり地面に落ちる。
　蹴られたせいで、嘔吐し、痛みでそのまま蹲ってしまう。
　テトもイーナもあまりの恐怖に声をあげて泣いてしまった。

　蹴り飛ばしたセイを見もせずに、声をあげて泣く子供達を見て男は怒鳴った。

「ああ！うるせぇなぁ！クソガキが素直によこさねぇからわりぃんだろうが！黙れ！ブチ殺すぞ！」

　その怒声にさらに怯えたが、テトは必死に口を噤み、イーナはテトにしがみついて必死に嗚咽を抑えようとした。

「おい、もううるせぇからさっさと金とって行こうぜ、酒がのみてぇ」

　セイを蹴った男とは違う男がそう言った。

　蹴られたわき腹を押さえ、イーナを守ろうと立ち上がりかけていたセイはその言葉で愕然としてしまう。
　この男は自分達が銀貨を持っている事を知っているのだ。
　迂闊だった。浮かれて道中でお金の話しをしてしまっていた。
　セイは深く後悔していた。
　せっかく優しいにーちゃんにお金をもらったのに、自分の迂闊さのせいで無駄になってしまった。
　イーナやテトにも怖い思いをさせてしまった。
　自分は一番年上なのに、みんなを守らないといけないのに。
　涙を目にいっぱい溜めながらも、必死に立ち上がろうとした。

　そんな一方でセイを蹴った男は興奮していたのか、イーナに手を伸ばしていた。
　それを見たテトはいつもセイの陰にいたが、イーナを守らないと！と涙をこぼしながらもイーナを庇って前に出た。

　それを見た男は益々いらつき、テトの顔を殴った。

「うぜぇな、邪魔すんな」

　殴られたテトは簡単に吹き飛ばされて転がった。
　イーナは恐怖で立ちすくみ、何もできなかった。
　そんなイーナの胸倉を男は掴みあげる。
　イーナは大事に抱えていたパンを落としてしまった、あまりの恐怖に力が入らないのだ。

　落ちた袋からは甘いパンの半分が転がり出た。
　男はそんなパンを踏みつけ、そのままイーナを裏路地に連れて行こうとする。
　他の男たちがそんな男の行動を見て、少々呆れた顔をしていた。
　一人がイーナを連れた男に声をかける。

「おい、もういいだろ、そんなガキやんのか？」

　しかしイーナを連れた男は振り向きもせずに答える。

「うるせーな、いらつきがおさまんねぇんだよ、やらねぇとおさまらねぇ」
「はぁ、仕方ねぇなぁ、んじゃ俺らはこいつらから金回収して先に酒場いってんぞ？」
「ああ、俺もやったら後で行く」

　そうして裏路地にイーナと男は消えて行った。
　残されたセイとテトは男達にポケットに大事にしまっていた銀貨を奪われた。
　セイは痛みを堪えて、イーナの後を追おうとしたがそれに気づいた男に殴られて気を失ってしまった。

　テトはイーナを助けたいが、いつも頼りにしてたセイが気を失い、恐怖でその場から動けなくなっていた。

「セイにーちゃん、セイにーちゃん、セイにーちゃん」

　もうそれしか言えなくなっていた。
　そんなテトも目障りだったのか蹴飛ばされ壁にぶつかり意識を失った。

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