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第十四話 洞窟への侵入

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 洞窟までの短い距離を歩きながら彼は考えていた。
 どうして、彼女の事でこんなにも自分の気持ちが乱れているのか。
 昨日助けた女とは何が違うのか。
 あまりにもひどい状態だったからだろうか。
 だが、もし他の女がああなっていても自分はここまで心が乱れるとは思わない。
 本当に不思議だ。
 なぜこんなに心が乱れるのか、やはり彼女に直接会って見てみるしかないだろう。
 濃い闇を飛ばせばすむ話しなのだが、なぜか直接触れて彼女の事を知りたかった。

 となると、山賊はどうするべきか。
 男はすべて栄養としてしまおう。
 記憶を盗んだ男よりは剣術について知らないが、試し切りにはちょうどいいか。
 そう、どうせ切られても死にはしないのだから。

 檻に入っていなかった女達はどうするか。
 記憶を覗いて自ら望んであの場にいる場合は栄養にしてしまおう。
 そうでなければ逃がそう。

「うん、そうなるといちいちみるのはたいへんだ。うすくしたやみをあのどうくつのなかにはなとう」

 そして彼は薄く薄くした闇を洞窟に向けて放った。
 薄まった闇は洞窟に辿り着くとさらに薄く広く、中を満たしていった。
 洞窟内すべてが満ちたと感じた彼は檻に入っていない女の記憶の表面を見た。
 薄くして広げているせいか深くまでは見れないが、どうも全ての女が望んであの場にいるわけではなさそうだ。
 一人の女を除いて、あの場にいる女は無理やり連れてこられているらしい。
 夜は檻に戻されているか、特定の男の相手をさせられているみたいだ。
 ただ、それでもよりはまだマシだと、皆そう考えていた。
 そして、に申し訳ないという感情も持っていた。
 というのは檻の中のあの彼女の事だろう・・。

 洞窟が見える距離まで来た彼は、とりあえず入り口の二人でまずは肩慣らし、あとは闇に取り込んだり練習がてら切り倒せばいいと考えたが、闇の中にアソートを匿っている事を思い出した。

 闇の中は広い、区分けしてしまえば問題はないし、アソートに危険も及ばない。
 しかし、それでも彼に闇の中で匿うと言っておきながら、危険な人間を区分けしているとはいえ、同じ闇の中に放り込むのはだめだろう。

「そうなると……ぜんぶころせばいいか」

 やる事が決まった彼は軽い足取りで進んだ。

 彼があまりにも堂々と歩いてきたせいだろうか、洞窟前の二人の見張りは彼がかなり近づくまでぽかんとしていた。
 ハッとした見張りの一人が彼に向けて叫んだ。

「おい!てめぇ!そこで止まりやがれ!」

 もう一人の見張りがその声を聞いて慌てて腰にさしている剣を抜く。
 彼はさして気にする様子もなく手から剣をスルリと生やし柄を握る。
 それを見た最初に声をあげた見張りも剣を抜いて叫んだ。

「おいおい、てめぇなんなんだよ!勝てるとでもおもってんのか?おい、やっちまおうぜ」

 見張りの二人は彼が一人だから、舐めたのだろう。
 だが、それは間違いだった。
 彼が剣を一閃した。
 見張りは驚いたが、別に何もない、はずしやがったなと薄く笑って声を出した。

「へっなんともね……」

 そこまで言って彼は視界がぐらりと傾くのを感じた。
 え?と声を出したつもりだったが、声は出ず、どんどん視界が下がっていく。
 なんだ、なにをされた?そう思った山賊の見張りだったが、ふと気づくと首から大量の血を噴出した自分の体が見えた。

 ドンと、驚愕の表情を貼り付けた首が地面に落ちた時には見張りの一人の意識は永遠に閉ざされていた。

 その首から血の噴水を上げる仲間の死体を見て固まっているもう一人の山賊へ向けてさらに一閃、彼は剣を振りぬいた。

 さらにもうひとつ、首から血の噴水をあげる死体が出来上がった。
 それを見やりながら彼は首を傾げた。

「あのおとこのきおくと、なんだかちがうな?なぜだろう?」

 それはそうだった。
 彼の力は、人間とは比べようもなく強かった。
 彼はそこにまったく気づいていなかった。
 その力で剣をふるえば、剣速は人間には出せない程の速度になるし、彼が作った剣は、骨すらも軽々と断つのだ。
 だけど、彼がそれに気づくのはもう少し後になる。

 首を傾げながらも死体ならいいかなと闇の中にいるアソートに声をかけた所、回収については後で相談と言われたので放置した。
 すでに広げていた闇でどこに人間がいるかはわかるので左右の部屋で寝ている山賊の部屋へと入り、サクリと胸に剣を突き立てて行く。

 最初のT字路までの間にいた山賊は五人、全員ベッドの上で胸を貫かれて死んでいる。
 彼は迷わずT字路を右へと向かった。

 あれからそんなに時間は経っていない。
 きっとまだ彼女の所にあいつらはいるだろう。
 あの二人は手足を切り落としてやろう。
 簡単には死なせない。
 そんな事を考えながら彼は足を進めた。
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