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第七章 ダンジョン

144 料理を確保

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 宿屋に戻った翌日、朝食の時間にドロップ品について清算には時間がかかることだけを伝え、軽く耳を叩いた。
 さすがにこれ以上話すには周囲に人がいすぎるためだ。

 全員が頷いたところで通話魔法を繋ぐ。
 いつも通り、ザザっとノイズ音がして繋がった。

『んでどんくらいかかるんだ?』
『とりあえず二週間、でもそれも調べる時間だからその日に決定するかはわからないな』
『見たことないものだし、仕方ないわね』
『仕方ないです』
『そうだな。それはいいとして、もう一つ報告がある――』

 俺はヒルデさんとルーカスさんについて説明した。

『ま、いいんじゃね? 誓約魔法してんなら大丈夫だろ』
『そうね、今後誰もいない階層に私たちはいくから、必要な人たちね』

 そうしてその他報告などを終え、通話魔法を切った。

「じゃ、とりあえず今日含め五日は休養期間ということで」
「ええ」
「おう」
「はいです!」

 朝食をとり終えたところで、俺はみんなに声をかけた。

「ああ、そうだ。これから俺は食材の購入にいくけど、一緒に行く人いるか?」
「あら、いいわね、私はいこうかしら」
「私もいくですー」
「あー俺もそうすっかな」

 結局全員で買い出しにいくことになった。

「ダンジョン以外で普通に全員で一緒に出掛けるの結構久々だよな」
「そういえばそうね」
「久々ですー。ちょっと楽しいです」
「確かにそういやそーか」

 ガヤガヤと話ながら俺たちは市場へとたどりついた。
 ダンジョンに潜ってる間に使った食材などを購入していく。
 ミハエルは人に提供する予定の食材ばかりを買っていた。
 ダンジョンに潜っていたときは、俺だけじゃなくフィーネたちも何かを作ってくれたりしたのだ。
 ミハエルは料理は一切しない。

 一度ミハエルに料理をさせたことがあるが、天才的なほどにまずくなった。
 横で見ていて味付けにも問題がないのになぜかまずくなる。
 それ以来ミハエルは一切料理はしなくなった。
 俺たちもそれに対して何も言わない。
 人には向き不向きがあるのだから、俺たちが料理をすればいいだけなのだ。

「よし、それじゃ屋台広場へいこうか」
「ええ」
「おう。でもなーもう屋台の食いもん飽きたんだよなー」
「それはあるですー」
「確かにそれはあるな。とりあえず屋台の料理も買うとして、何点かは作り置きするか?」
「それはいいわね。でもそうなるとお台所をどうしようかしら」
「俺の実家の台所を借りよう。ついでに調味料の補充もしたいし」
「いいの? お邪魔にならないかしら?」
「数点作るだけだし、その日のご飯分を俺たちが作ればいいから、大丈夫だぞ。俺が作り置きで台所借りるときはいつもそうしてるからな」

 そうして俺たちはある程度作り置きすることに決め、さらに追加で食材を買った。
 というかほとんどミハエルが購入してくれた。
 ミハエルは作らないのでその代わりらしい。
 別に気にしなくてもいいのだが、気持ちもわかるのでありがたくお金を出してもらった。

 そのあとは屋台広場である程度の料理を購入し、そのまま俺の家へと向かった。
 ドアを開けて中へ入る。

「ただいま。母さんいる?」
「あら、おかえり、ルカ」
「みんな来てるんだけどいい?」
「あらあら、いいわよ」

 母さんの許可が下りたのでみんなを家へと招いた。

「お邪魔します。お久しぶりです」
「お邪魔します!」
「うす。お久しぶりっす」

「まぁまぁ、みんな久しぶりね。元気にしてたのかしら?」
「はい。おかげさまで」
「はいですー」
「うす」

 みんながそれぞれ返事をしていると天使が現れた。

「いーね」

 トテトテと歩いてきたリリーはフィーネの足にしがみつき、見上げている。

「あら、リリーちゃん」

 フィーネが微笑みかけるとリリーは手を上げて抱っこをせがんだ。
 フィーネがそんなリリーを優しい目で見つめ抱き上げる。

「ふふ。リリーはフィーネちゃんが大好きね」
「私も好かれて嬉しいです」
「リリーちゃん、エルナだよー」

 エルナがそう言ってリリーに小さく手を振ると、リリーがフィーネにしがみついていた片手を放して、エルナに手を伸ばした。

「えうなー」
「可愛い~」

 エルナは目尻を下げてリリーの伸ばした可愛らしいもみじのような手に自分の手を伸ばして握手している。

「いーねしゅき、えうなしゅき」
「嬉しいわ、私もリリーちゃん好きよ」
「私もリリーちゃん好きだよー!」

 そんな微笑ましい光景を見ている俺はというと嫉妬をしている。

「むぅ」

 そんな俺を見てみんなが苦笑しているが、俺より好かれている二人を見たら嫉妬するのは当然である。

「ほら、リリーちゃん、お兄ちゃんよ」
「や! いーねがいー」

 リリーの言葉に俺はリアルに膝から崩れ落ちた。

「ただいまー」

 もう一人の天使の声に俺は顔を上げると抱き着いた。

「え、なに。あ、兄ちゃん?」
「カールー」

 俺が抱き着いて離さないでいると、カールが俺にかまわず周囲をみて状況を理解したらしい。
 さすが俺の弟で天使、賢い。

「ああ、なるほど。お久しぶりです! フィーネお姉さん、エルナお姉さん、ミハエルさん」
「お久しぶりね、カール君」
「おはようー、カール君」
「おう、久しぶりだな、カール」

「今日はどうしたんですか?」

 カールの質問に、フィーネが言い淀み、ミハエルが突っ込んだ。

「今日は……」
「あー、おいルカ。お前そろそろ元に戻れよ」

 そう言われて渋々カールから離れてマリーに言った。

「今日ちょっとダンジョンに潜るときの料理をいくつか作り置きしたくて、台所借りにきたんだ、かまわない?」
「そうなの? ええ、いいわよ」
「ありがとう、代わりに昼と夜の分は作るよ」
「まぁ、助かるわ。ありがとう」

 そうして料理を作ることになったのだが、リリーがフィーネにしがみついて離れなかった。

「俺がまず作るから、フィーネたちはしばらくリリーと遊んであげててくれ」
「わかったわ。ごめんなさいね」
「いや、リリーが喜んでるから大丈夫」

 リリーの喜びはお兄ちゃんの喜びですとも。

 とりあえずは、何を作るか。
 そう思ったところでミハエルから声がかかった。

「とりあえずこないだ作った豚汁は頼む」
「ああ、猪肉のやつか。あれはうまかったからな。一つはそれにするか」

 そうして俺は豚汁を作り始めた。
 作り方は以前と同じだが、今日は家族の夜の分も作る。

 自分たちの分を作りアイテムボックスにいれ、家族の分も作ってとりあえずアイテムボックスに収納しておく。
 あとは、トンカツに、からあげ、肉じゃがに、ああ、餃子もいいな。
 昼はからあげでいいな。

 結局その日は俺しか作る時間がなく、次の日も台所を借りることになった。
 マリーは作らなくていいから楽だわと喜んでくれたのでよしとしよう。


 そうして翌日。
 今日はさすがにリリーは最初からマリーに抱っこされ、フィーネのそばにはいけないようにされている。
 ぐずって泣いていたが、マリーが気にしないで大丈夫と笑っていた。
 俺としては心が痛いのだが、仕方ない。
 今度リリーに何かキラキラした物を買ってこよう。

「フィーネたちは何を作るんだ?」
「そうね、シチューと、魚系かしら」
「魚系?」
「ええ、ルカが肉料理が多かったでしょう? だから私たちは魚系にしたの」
「なるほど」

 さすが女の子だな。
 俺は単純に食いたいものばかりで油ものや肉系料理ばかりになってしまった。
 当然以前作った照り焼きバーガーも作ったし。
 そう考えると俺のチョイスはあまり体にいいとはいえない物が多いかもしれない。
 でも一応サラダはたくさん作ったのでセーフのはずだ。

 お、魚の味噌焼きか。うまそうだな。
 俺の腹の虫が盛大に鳴いた。

 フィーネが振り返り苦笑する。

「お昼はこれにしましょうか?」
「頼む」

 俺の即答にフィーネとエルナは笑った。
 仕方ないじゃないか、おいしそうだったんだ。

 昼になり、フィーネとエルナの作った白身魚の味噌焼きを頂いた。
 実においしかった。
 またダンジョンで食べれるのかと思うと楽しみだな。

 そのあと、フィーネとエルナで数点料理を作り上げ、夕方になって俺たちは家を出て宿屋へと帰った。
 宿屋で夕食を食べ、裏庭で訓練したあと風呂に入り部屋へと戻る。

 ソファーに座り、なんとなく考えごとをする。
 毎回実家で台所を借りているが、それもダンジョンの焚火での料理が難しいからなんだよな。
 コンロとか作れないかなぁ。
 ガスを魔力に置き換えればいけないだろうか。
 しかし魔力を缶に保管というのは難しい気がする。

 となると何に保管するか。
 魔力を通せるミスリルか、魔石か?
 ああ、ミスリルで缶を作ればいいんじゃないか?
 多分できる、が、その魔力をどう火に変換する?
 あー、確か魔石に風だの氷を封じ込めれば使えたよな。
 火を閉じ込めても威力は弱い、閉じ込めた魔石に魔力を送ることで火の勢いを強くできるか?

 うーん。どうだろうな、作ってみないことにはなんともだなぁ……。
 小さい魔石だと耐えられなそうだし、となると普通の魔石あたりで実験してみるべきか。
 えーと、普通の魔石はどの階層ででたっけな。

 確か四十六階のヘーレギガントあたりで出た気がするな。
 よし、明日は四十六階で狩りをしてみよう。
 ある程度魔石が確保できたらダンンジョンのセーフゾーンで実験をするかな。

 ふと視界の隅にある時計を見ればもう夜もだいぶ更けている。
 時間を認識した途端眠気が襲ってきた。
 そんな自分に苦笑しつつも俺はベッドに潜り込み目を瞑った。
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