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第七章 ダンジョン

134 ルカとミハエルの試合

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 翌朝、体はリラックスしてはいるが、心が少しだけ緊張している。
 いや、緊張ではないな、高揚してる、が正しいな。

 レオンのときとはまた違うワクワクがある。
 ずっと俺の前を走るミハエルを、俺の全力で倒したい。

 階段を下りると、珍しくすでにミハエルが席についている。
 俺を見ると、二ッと笑って手をあげた。

「よー」
「おはよう、みんな」
「おはよう、ルカ」
「おはようございます」

 席につき朝食を頼む。

「珍しいな、ミハエルが先に起きてるなんて」
「なーんか楽しみでよー、目が覚めたんだよ」
「今日あなたたち試合するんでしょう?」
「ああ」
「おう」
「私たちも見にいってもいいですか?」
「かまわないよ」
「レオンとはまた違った試合が見れそうね」
「そうだな、正直俺自身もわからないが、ミハエルと同じで楽しみだ」
「だろ、俺もなんか楽しみなんだよな」
「二人でまともに試合って初めてなの?」
「ああ、初めてになるな」
「そうなのね」

 朝食をとったあと、はやる気持ちを抑え、しばらくゆっくりとする。

「じゃ、そろそろ行こうか」
「おう」
「はいです」
「ええ」

 宿屋を出て、真っ直ぐに南門へと向かう。
 しばらく歩いて森に入り、俺たちは空へと飛びあがった。
 ミニマップを確認しつつ、開けた場所の周囲に人がいないのを確認し、俺たちは軽く体を動かす。

「さて、フィーネたちはここから前に出ないでくれよ」
「ええ」
「はいです」

 フィーネたちの前に数枚のヴァールシールドを張っておく。
 ミハエルはすでに離れた場所で待機している。
 俺も同じ場所へと移動した。

「なんか、レオンとやるときよりワクワクしてんだけど」

 そう言ってミハエルが笑う。

「ああ、俺も同じだ。なんでだろうな?」

 そう言って俺も笑った。
 レオンとはまったく違う楽しみがある。

 己よりも強いであろう相手と戦うワクワクとはまた違う。
 どう表現していいかがわからない。
 ミハエルの全てを知っているのに、まったく勝ち筋が見えない。

 剣では常に先を歩かれているが、俺には魔法がある。
 でも、俺の魔法は全てミハエルが知っている。
 それでも、ミハエルは俺の魔法を受けたことはない。

 ああ、でもそれでもミハエルは対応してくるんだろうな。
 楽しみだ。
 俺の全てをぶつけよう。
 でも、リストレインは最後の切り札だ。
 もしこれを使う場面になったらある意味で俺の負けだな。

「さぁ、始めようか、ミハエル」

 お互い十歩離れ、振り返る。

「おう、いいぜ」

 レオンのときのように、小石を投げる。
 小石はスローモーションのようにゆっくりとあがり、落ちていく。

 小石が地面についた瞬間、俺はヴァールシールドを発動して大きく後退する。
 俺のヴァールシールドが発動した瞬間ミハエルの剣がヴァールシールドにぶつかっていた。
 レオンと違って速攻でくると思ったゆえのヴァールシールドだ。

 離れる瞬間、ミハエルから舌打ちをする音がした。
 やっぱりな。

 俺は後退しながらミハエルにジャベリンを撃ち込み、ある程度離れたところで円を描くように走る。
 ミハエルは俺に視線を合わせたまま、同じように走る。
 ジャベリンは牽制にもならずに躱された。

 そのままバレットを連続して撃ち込むが、ミハエルは自身に当たりそうなものだけ剣で叩き落している。
 本当に厄介だな。
 来る、そう思った瞬間俺はヴァールシールドを発動して、オーラバーンを撃つ。
 予想通り、ミハエルは俺に突っ込んできていた。
 しかし、ヴァールシールドを避けようとしたところで、すぐにそれを止め、俺のオーラバーンを回避した。

 俺のオーラバーンは俺自身が発動したヴァールシールドにあたりミハエルを守る。
 が、そもそもこれは想定済みで、俺の目的は爆風で後退することだ。
 爆風で後退しながら、イラプションを撃ち込む。

 しかしミハエルはオーラバーンの発動後にすでに移動しており、爆風の中から飛び出し走っている。
 ああ、本当に厄介だ。
 ミハエルの走る方向にインフェルノを発動し、ミハエルが移動するであろう場所にアイスゾイレを展開、その後アイスゾイレの上にイラプションを発動させる。
 アイスゾイレ発動までは俺の予想通り進んだが、上に逃げると思ったミハエルは足元の氷の剣山を切り裂いて下に逃げた。
 そうくるか。

 レオンもミハエルも同じだが、接近されたら俺に勝ち目はない。
 剣技で劣るのだからそれは当然だ。
 逆に、レオンやミハエルは俺に接近さえできれば勝てる。

 だからこそ俺は近づかせないように戦うしかない。
 走りながらミスリルの剣を斜めに振り、避けるしかないように氷結槍を複数撃ちだす。
 ミハエルは見た瞬間に切り払うのを諦め転がるように避けていく。
 その間に俺は距離を稼ぎ、再び魔法を撃ち込んでいく。

 ミハエルは左右に避けながらこちらに迫る。

「レオンもミハエルも! なんでそう簡単に避けてくんだよ!」
「わかんねーよ! なんか感じんだよ!」
「なんだそれ!」

 文句を言いながらもインフェルノとイラプションを撃ちながらサンダーレインも撃つ。
 ミハエルの移動ルートにアイスゾイレを展開して距離を稼ぐ。

 さすがのミハエルも俺の弾幕に距離をとった。

「くっそ、まじで無限に魔法撃ってくんなよ!」
「それを言うなら、ミハエルだってなんか感じるで魔法避けんなよ!」
「うっせ! なんかこう、感じんだよ! 説明できっか!」
「俺だって爆死を乗り越えてんだよ! 無限に魔法くらい撃たせろ!」
「知ってんよ! 友達になれて良かったよ!」
「俺もだよ!」

 意味のわからない舌戦をしてミハエルは走り出し、俺はミハエルに再び魔法を撃ち込む。
 俺の魔法をことごとく避けていくミハエルに対しどうするべきか。
 レオンもミハエルも野生の勘が凄すぎるだろう。

 とにかくインフェルノ、イラプション、アイスゾイレと展開していく。
 アイスゾイレはもうだめかもな、剣を盾にされる。
 レオンのせいだな。

 とはいえ、それでも足を僅かに止められているのは事実だ。
 そろそろグラビティを撃ち込むべきか。
 しかし単体だと対象が一メートル内でないと意味はない。
 だが、あれほど動き回るミハエルに当たるか?
 範囲の方がいいかもしれない。
 威力は下がるが、五メートルの範囲があればミハエルも逃げきれないだろう。

 俺はわずかに走る軌道を変える。
 グラビティヴァイトは対象との距離制限があるのだ。
 狩りではまだ一度もグラビティヴァイトは使ってないからミハエルもわからないはずだ。

 もう少し、入った!
 グラビティヴァイトを発動させる。
 ミハエルが何かに気づいたのか避けようと動いたが、遅い、もう俺の範囲内だ。
 ミハエルが強力な重力によって地面に倒れる。
 そこに俺はイラプションを撃ち込む。

 爆発寸前に見たのは体を丸めているミハエルの姿だった。
 爆風で土が舞い上がり、風で土煙が消える寸前、土煙からミハエルが飛び出してきた。
 やっぱりか。
 すでにヴァールシールドを張っていたので後方に跳躍する。

 ミハエルの剣は俺のヴァールシールドにぶつかり止まる。
 が、俺は追い打ちはせずにその場で待機する。
 ミハエルは大きく肩で息をしてその場に剣を刺し、膝をついている。
 もしここでミハエルが膝をついていなくて俺に向かってきていたら、俺はもうリストレインを使うしかなかった。

「俺の勝ちで、いいか? ミハエル」
「おう……」

 そのままミハエルが倒れ込み、俺もミハエルにハイヒールをかけてその場に倒れ込んだ。
 心臓が痛いほどに鼓動を鳴らし、俺の肺が酸素を求めて上下する。

 少し離れた場所からはミハエルのゼエゼエという呼吸音がしてくる。
 きっとミハエルには俺の激しい呼吸音が届いているだろう。

 フィーネとエルナがやってきたが、俺もミハエルも答える気力がなかった。
 俺は目を閉じて呼吸を整える。
 とにかく息を落ち着けないと過呼吸になりそうだ。

 しばらくして、ミハエルの声があがった。

「あー負けたなぁ。グラビティもうまく抜け出せたのになー」
「抜けてくると思ったからな。ヴァールシールド張ってたんだよ」
「やっぱばれてたか」
「爆発寸前に体丸めてただろ。爆風で範囲外に抜けて俺にくると思ったんだよ」
「くっそー。グラビティはずるいぞ」
「うるさい。剣技で勝てないんだから、魔法で頑張るしかないだろ」
「次は対策考えてやるからな」
「やめてくれ。魔法考えるの大変なんだぞ。レオンもミハエルも一度見た魔法をあっさり対策してくるから困るんだよ」
「知らん! 次は俺が勝つ!」
「ほんと、レオンとミハエルは魔法使い殺しだよ。なぁ、エルナ」
「私は最初から勝てる気がしないので気にしません!」

 堂々とそう言うエルナに俺は苦笑した。

「エルナ、それは堂々と言うもんじゃないだろ」
「仕方ないのです。でもルカさんは頑張ってください」
「まじか。俺だけ頑張るのか」
「はいです。同じ魔法職として応援するです」
「こら、エルナ。無責任に煽らないのよ」

 そう言ってフィーネがエルナの頭を軽く叩いた。

「うー。ごめんなさい」

 エルナが頭を抱えて謝っている。
 そんな二人の声を聞きながら俺は笑った。

「はは。まぁ、応援してくれてるし次も頑張るしかないなー」
「じゃ、フィーネは俺を応援してくれよ」
「そうね、私は後衛だけど、魔法職じゃないからミハエルを応援しようかしら?」
「フィーネも俺を応援してくれ」
「おい、ずるいだろ、ルカ」
「いいんだよ、俺はリーダーだからな」
「ひでー」

 俺とミハエルのじゃれ合いにフィーネもエルナも笑っている。
 ああ、楽しかったな。
 俺は上半身をゆっくりと起こす。

「あー、体中が痛い」

 すでに数個の魔法は解除しているが、筋肉痛のような痛みがある。
 ミハエルも起き上がり顔をしかめている。

「俺もいてぇ。打撲みたいな痛みがあるな」
「まぁ、筋肉の疲労だろうな。疲労までは癒せないからな」
「ヒールも案外完璧じゃねぇよなー」
「傷が治るだけすごいだろ」
「まぁな」

 周囲を見回すと、見事なクレーターがあちこちにできている。

「あー……また整地しないとだな」
「ん? ああ、すげぇボコボコだな。地面が焼けてるとこもあるし」
「落ち着いたら手伝って欲しいですが、とりあえずは私が整地しておきますね」
「ああ、すまない、エルナ」

 エルナは一人離れ、地面の整地をしてくれている。
 ちなみにこの整地魔法はアースシェイクだ。
 俺が考えて創った魔法ではなく既存である魔法だ。

 既存といっても、沼地に棲むカエルのモンスターが使う魔法である。
 なので名前も俺がつけた。
 これを知ったのは、ギルドマスターがかつて依頼で狩りにいったという話を聞いたときだ。
 依頼で狩りにいったのが、そのカエルで、魔法の特徴を聞いて浮かんだものだ。

 確かに沼地や湿った地面であればかなりの脅威になりうるものだ。
 地面を柔らかくするので、沼地や湿地であれば底なし沼のように足が沈んでいくだろう。
 が、それが広範囲であれば使えたかなと思うのだが、範囲が狭く一メートル四方と限定的だった。
 それに普通の地面では、土を緩くして掘り起こすだけになる。
 とはいえ、それでも普通の人や重鎧の人には効果的ではあるだろうが、俺が戦う相手にはあまり効果がない。
 なのでもっぱら整地に使うくらいだ。

「さて、それじゃ整地するかな」
「おー頑張ってくれ」
「くっそ、ミハエルも魔法使えればいいのに。なんで俺だけが整地しなきゃいけないんだ」
「はははー。俺は魔法使えねぇからなぁ、仕方ねぇなー」
「くっそ」

 文句を言いつつも俺は整地作業をする。
 以前のレオンのときの整地した跡もまだあるのでなんだか耕しまくってて豊かな土地に見えてくるな。

 ある程度の整地を終えて、俺たちは街へと帰った。
 あと二日は休みなのでゆっくりとしよう。
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