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第七章 ダンジョン

127 ギルドマスターへ報告

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 翌朝、朝食をとりに階下へ下りたら、いつものようにフィーネたちがいた。
 昨日は俺は遅めに起きたので彼女たちとは会えなかったのだ。

「おはよう、フィーネ、エルナ」
「おはよう、ルカ」
「おはようございます」

 いつもの席につき、朝食をたのんだ。
 しばらくしてミハエルも起きてきたようで、こちらへときた。

「よー、おはよう」
「ああ、おはよう」
「おはよう、ミハエル」
「おはようございます!」

 結局いつものように一緒に朝食をとりはじめた。
 今日ギルドマスターに会いにいく話もしたが、別にそんな込み入った話をするわけでもないのでみんなには自由に過ごしてもらうことにする。

 ただ、夜は一緒に食事をとることにした。
 明日からのダンジョンへの話や、何か報告があればしないとならないためだ。

「それじゃ、また夜に」
「おう」
「ええ、また夜に」
「はいです」

 こうして俺たちは別れ、俺はギルドへと向かった。
 ギルドに入り、受付嬢さんに声をかける。

「おはようございます。ギルドマスターはおられますか?」
「おはようございます。少々お待ちください、確認して参ります」
「はい」

 受付から少し離れて俺は待つ。
 こうして黙って待っていると、冒険者たちの会話が聞こえてくる。

「お、あれイストワールだぜ」
「ああ、あいつがそうなのか」
「そうそう、まだ十三って話だぜ?」
「まじかよ」

「あ、ルカくんだわ。可愛いわよねー」
「あたしはミハエルくんがいいなぁ」
「ミハエルくんもいいわよね、リードしてくれそう」
「私はルカくんがいいわ。ベッドですごく恥ずかしがってくれそう」
「あ、それ。すごいわかるわー」

 女性の冒険者パーティのそんな会話に俺は思わず頬が熱くなってしまう。
 聞くつもりはなくても近くにいるので聞こえてくるのだから防ぎようがない。
 彼女たちに顔が見えないように体勢を変えておく。

 そのあとも彼女たちの中々に恥ずかしい会話が聞こえたまましばらくして受付嬢さんが戻ってきた。

「お待たせしました」
「あ、はい」

 俺の顔が少し赤くなっているせいか、受付嬢さんが怪訝な顔をしたが、すぐそこにいた彼女たちの会話を聞いて、なるほどと思ったのか、俺に優しい笑みを向けてきた。

「参りましょうか。ギルドマスターがお会いになられるそうです」

 受付嬢さんのその優しい笑みに逆に俺はさらに顔を赤くさせることになる。

「は、はい」

 くそぅ。
 受付嬢さんに案内されて俺はギルドマスターの部屋へと入った。

「失礼します」
「おう、ちょっと待ってろ。書類が溜まってんだよ……。仕事で出かけてたのに、仕事が溜まるってなんだよ……」
「お疲れ様です」

 俺は苦笑しつつそう答える。
 少しして、ギルドマスターが執務机から立ち上がった。

「はぁ。疲れる」
「コーヒーどうぞ」

 インスタントではあるが、コーヒーを淹れてギルドマスターに差し出す。

「お、コーヒーか」
「あ、もしかしてやっぱりなくなってましたか?」
「ああ。二ヶ月くらい前にな」
「もう少し多めに渡せばよかったですね」

 俺が渡したのは小さな瓶だったので、四ヶ月分はなかったのだ。
 前回渡したのと同じインスタントコーヒーの粉が入った瓶を二つ取り出しギルドマスターに渡す。

「二つお渡ししておきます。あ、でも飲みすぎるのも体によくありませんからね」

 実際栄養分なんかはどうなってるのかカフェインが本当に入っているのか、味だけなのかは不明だが、一応俺のイメージから作り出されているので注意はしておく。

「おう。仕事中に時々飲む程度だ」
「なら良かったです」
「それで? どうだった? クレンベルは」
「はい、ハインさんもとてもいい方で、お陰様で無事に皮鎧も作ることができました。あ、これはハインさんからの手紙です」

 そう言って俺は託された手紙を取り出してギルドマスターに渡した。

「お、ちょっと読むから待ってろ」
「はい」

 俺は自分で淹れた紅茶を飲みながらギルドマスターがハインさんの手紙を読み終わるのを待つ。

「ふむ、なるほどな。お前ら随分暴れたみたいだな」
「暴れてはいませんよ」

 俺の軽い抗議の声を無視してギルドマスターが続ける。

「Cランクのやつらについては大体ハインの手紙で分かった。とりあえずあっちで何があったか詳しく話せ」

 ギルドマスターの声に、Cランクの彼らと揉めたことや、そのあと彼らが殺意をもって追いかけてきて、それを逆に外に誘導して殺した話も全てギルドマスターに伝えた。

「そうか。ハインにとっちゃ辛い経験になったな。だがお前らは別に間違っちゃいないから気にするな。もしお前らが殺らずにこっちに戻ってきてたら、そいつらは多分原因となった皮工房の人たちを殺してただろう」

 そう言ってギルドマスターはコーヒーを少し飲む。

「それで、他になんかあったか?」
「はい、実は――」

 俺は帰り道、シュバルツデーモンと戦ったことを伝えた。

「は? シュバルツデーモンだと!?」
「はい」
「おいおいおい……お前ら運が悪いのか良いのか分らんな……」
「俺もまさか、またSランクに会うなんて思いませんでしたよ。それでどのくらい強いんですか?」
「知らん」
「え?」
「知らん。というかほとんど情報がない。お前も言ってたが、出会えば死ぬ。無差別に殺したりはしないようで、だからこそ見た目の情報と名前はあるが、戦った情報はまずない。戦ったやつは死んでるだろうからな。だから、お前がシュタルクドラッヘより強いと感じたならそれが答えだろうな」
「そうですか」
「ああ、SランクやAランク冒険者がこれと戦ったって話も聞かないからな。そもそもSランクモンスターは数自体少ないし、そうそう出会うもんでもない」
「俺はもう二回も出会ってますけどね。とりあえず情報はすべて話しましたので、それを記録に残すかはお任せします。それと、死骸の扱いはどうすればいいですか?」
「あー……そうだな、悪いがお前らがSランクになるまでは待ってくれ。情報も残すがそれもお前らがSになってからだ。Aになってもお前らがこれ以上目立つには早すぎるからな」
「わかりました。ところでAランクって条件あるんですか? 結構経ちましたが」
「あるっちゃある。お前らならもう問題はないんだが、こうも早くAにあげていいもんかが悩みどころなんだよ。確かにAになればそうそう貴族から絡まれにくくはなるんだがな、逆に言えば目もつけられる」

 ギルドマスターの言葉に俺も確かに、と考える。
 とはいえ、どちらにしろいずれは訪れるものだ、早いか遅いかの違いではある。

「ま、早いか遅いかの違いか。言っとくが、Aにまでなったらさすがの俺でももう護るのは難しくなるぞ。今はBランクだからこそ俺が護っていられるんだ」
「それは困りますね、ギルドマスター頑張ってください」
「お前、バカ言うな。俺はしがない地方のギルドマスターなんだぞ。限界があるわ」

 そう言うギルドマスターに俺は苦笑する。

「わかってますよ。ですが、ギルドマスターの言う通り、遅いか早いかの違いではあります。フィーネたちのこともありますし、早めにAランクになるのはありだと思っています」
「ああ、まぁなぁ。そこもあるんだよな。最低限伯爵以下からは無茶を言われても概ね断ることはできる。とはいえ、嬢ちゃんたちが貴族とばれても知らんフリしておけよ。面倒にしかならん」
「はい、わかってます」
「お前ら冒険者なってもうすぐ一年だろ?」
「はい」
「なら一年過ぎたあたりでAランクにしてやるからちょっと我慢しとけ。それでも早すぎるが、多少はマシだろ」
「了解です。お手数かけます」
「ま、できることはしてやるさ。あと、Aランクなるまではダンジョンも七十階までにしておけよ。そこから先はSランク相当になるからな」
「そうなんですか。確かに段々きつくはなってきてましたね」
「ちなみに人間のSランクとモンスターのSランクは同等じゃないからな?」

 幅が広いということだろうか? と思い聞き返す。

「どういうことですか? 幅が広いからですか?」
「ある意味ではそうだが、そうじゃない。もうそこから先はわからないんだよ。倒せる人間がほぼいないからな。Sから先はもうモンスターは全て未知数だ。だが人間は限度がある。Sランクの人間とモンスターが同等じゃないってのはそういうことだ」

 ギルドマスターが言うには、例えばシュタルクドラッヘなんかはかつて倒された記録があるのだとか。
 当然倒したのは当時のSランクと呼ばれたパーティだ。
 シュタルクドラッヘは俺たちと遭遇したときと同じで鉱山や洞窟なんかに巣を作るらしい。
 基本的には廃鉱山か洞窟らしいが、当時は貴族所有の鉱山に棲みついたゆえに、多額の報酬を用意してSランクに依頼がいったらしい。
 もちろん、シュタルクドラッヘの討伐記録はこの一回限りだそうだ。

 それでも人間が倒せているのでSでも下級であろうと言われているのだ。
 ちなみにSの下級と言われるモンスターは基本的には亜竜と呼ばれるドラゴンがほとんどだ。
 翼を持たない大きなトカゲらしいが、それを描いた絵を見た限りでは四足の恐竜のようにみえる。
 体格はトリケラトプスっぽくて、顔が肉食恐竜みたいな感じといえばいいだろうか。

 Sランクになれる条件はこの亜竜か亜竜相当の討伐だそうだ。
 なので俺たちは本来ならすでにSランクでもいいのだそうだ。
 それでもさすがにそれは早すぎるがゆえに危険なのだとか。

 ギルドマスターとしては、まず『シュラハト』にSランクにあがってもらって、そこから一年経ったあたりで俺たちをSランクにしたいらしい。
 とはいえ、俺たちはもうSになる資格があるからそうも待たせないとのことだった。
 俺としては護ろうとしてくれているのだから、Aはともかく、Sに関してはそう急ぐ気はない。
 それに『シュラハト』であればSランクになるのはそう遠い未来でもないだろうしな。

 そうして、ギルドマスターとの会話を終え、俺はギルドを出た。
 Aランクになるとそれなりに貴族からの指名依頼が入ったりもするらしい。
 当然基本は断ってもいいが、大物貴族の場合は、それは余程でないとしない方がいいとのことだった。
 大物貴族というものを敵に回すのは危険で厄介だからだ。
 この話はエアハルトさんからもされているので気を付けねばならないな。

 驚くことに、実は俺たちには、これまで時々貴族からの指名依頼があったそうなのだ。
 だけど、ギルドマスターが何かしら理由をつけて断っていたらしい。
 シュルプに常駐のBやAランクがいないのが幸いしたようだ。

 ギルドマスターも中々に危ない橋を渡っていたのだといえる。
 感謝しかないな。

 Aランクになればギルドマスターからの保護はほぼ消える。
 そうなれば俺たちだけで自身を守っていかねばならない。
 いざとなれば記憶消去の魔法だって使えばいい。

 ギルドを出た俺はそのままダンジョンへと向かった。
 ほんの少し軽めに狩りをするためだ。
 明日からはまたダンジョンに潜るが、とりあえず軽く動いておかないといけない。

 とりあえずは六十階のケルベロスでいいだろう。
 軽い運動ならちょうどいいはずだ。

 そう思ってダンジョンに入る。
 一階の転移柱のところまでいくと、ミハエルがいた。

「あれ? ミハエル何してんだ?」
「お、やっぱ来たか、ルカ」
「ん?」
「待ってたんだよ。あと三十分して来なきゃソロにいくつもりだったけどな」

 ミハエルのそんな言葉に思わず笑みを浮かべてしまう。

「はは。そっか。じゃ、また二人でやろうか」
「おう。エルナたちには秘密な」

 俺もミハエルも笑う。

「ああ、秘密だ。六十四階でいいよな?」
「おう」

 久しぶりの狩りなのに初っ端からハードモードな狩りになりそうだ。
 だけどそれもまたいいものだ。

 楽しむとしよう。
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