上 下
110 / 148
第六章 武器と防具

110 ヒュドラの鱗皮

しおりを挟む
 ミハエルから受け取った灰色をしたヒュドラの皮を鑑定してみる。
 ---------------------
 ヒュドラの鱗皮
 状態:良
 特性:雷耐性
 詳細:薄いが柔軟で非常に丈夫である。衝撃を受けると一瞬でその部位が硬化するために高ランクの冒険者には人気の一品となっている。
 大銀貨七枚の価値がある。
 ---------------------

「おお、雷耐性なんてあるんだな。そんじゃこれで皮鎧作ればいいんじゃね?薄いなら蒸れることもねぇだろうしな」
「そうだな」
「ええ、出てくれて良かったわ。ミノタウロスの皮は嫌だもの」

 フィーネが苦笑しながらそう言った。
 エルナも首をコクコクと動かしている。

「そうだな。とはいえ、エルナはそのローブが優秀だからな。作るとすればズボンとブーツあたりか」
「はいです。足元は少々心もとないです」
「俺らは全身だよな?」

 ミハエルの質問に俺は頷く。

「ああ、しかしどういった鎧にするかで集める皮の数も変わってくるな。あんなにデカイくせに、ドロップする皮が一メートル四方だからな」
「そうね」

 俺はドロップ品の皮をうねうねと動かして柔らかさを確認する。
 柔らかさだけだと普通の布の服よりは硬いがそこまで違和感はない。
 ただ気になるのは詳細にあった、衝撃を受けると硬化するという説明だ。

「ミハエル、ちょっとこの皮を、えーとこの鉄の短剣で刺してみてくれ」

 俺はそう言ってミハエルに適当に作った鉄の短剣を渡した。
 短剣を受け取ったミハエルは頷くと俺がピンと張って持った皮に短剣を突き刺した。
 途端、ガインというまるで鉄をはじいたような音がする。

「おお? なんだこれ。すげぇな」
「ふむ、なぁみんなこの皮ちょっとダメにしてもいいか?調べておきたい」
「別にいいぜー」
「かまわないわ」
「はいです」

 全員の許可がとれたところで、とりあえず次はケルベロスの爪をミハエルに渡し、それで突いてもらうことにした。

「おし、いくぞー」
「ああ」

 力いっぱいミハエルがケルベロスの爪を皮に突き立てる。
 やはりガッという硬い音がした。
 皮を見ると、ケルベロスの爪が僅かに刺さっている。

 次に皮を折りたたみ、疑似的に二枚にして試してみる。
 変わらず硬い音がし、皮を見ると、一枚目は僅かに爪が刺さってはいるが、次の皮は無傷だった。

「これはすごいな。さて、次はミスリルだ。ミハエル頼む」

 ミスリルの短剣を渡して、刺してもらう。
 結果は短剣の半分ほどが突き刺さった。
 二枚にすると、四分の一くらいだ。

 この薄さでミスリルの短剣でもこれほど止めるというのはすごい。
 切った場合だと一枚目は切れるが二枚目は傷が入ったくらいで切れなかった。

 さらに折りたたんで三枚にしてみる。
 ミスリルの短剣で突き刺すと三枚目に傷をつけることはできたが貫通することはできなかった。
 ただ、アダマンタイトだと十枚重ねてやっとというところだった。

「こりゃすげぇな。こんなペラペラのくせに」
「ああ、これはすごいな」

 ヒュドラの鱗皮は、かなり薄く、一ミリ程度しかない。
 これなら鎧にする時に二枚重ねにしてもらってもいいかもしれない。
 胸部など部分的には三枚にしてもらってもいいし。

 しかし衝撃を受けて硬化するというのはある意味で問題もある。
 関節部分には使用しない方がいいだろう。
 加工方法にもよるだろうが、一瞬であっても可動部分が硬化するのは動きに支障がでる。
 そうなると、関節部位は別の素材か紐なりで繋げる形がいいか。

 鎧だと前部分で最低二枚がいるので、後ろもいれて四枚、さらに胸部などに多めに使うとして六枚、袖と籠手含め最低二枚、籠手部分でさらに一枚、これが二つで六枚の、合計十二枚。
 腰鎧に六枚、ズボンに四枚くらい、ブーツに八枚、合計三十枚。
 ただ正直鎧の作り方など知らないので大雑把にである。

 とりあえず最低三十枚として、あとは皮鎧を作ってくれる職人に聞くしかないだろう。
 今回のダンジョンから出たら二日休みなのでそのときに聞きにいけばいいな。

「さて、それじゃあ狩りを再開しようか」
「おう」

 とりあえずヒュドラの皮は出た分はすべて置いておくことにして狩りを再開させた。

 戦いの最中に少し気になったので、俺はヒュドラの皮というか首にミスリルの短剣を刺してみたが、ドロップ品の皮のように硬化することはなかった。
 謎ではあるが、ドロップ品となった皮にだけそういう効果があるということか。
 ――ちなみに鉄の剣だとヒュドラにはさすがに傷すらつかなかった。やはりAランク相当の魔物というだけはある。

 ヒュドラ自体の数が少ないのと、毒牙もドロップするので簡単に皮が集まりそうにはないが、俺たちの狩り速度ならそう時間をかけずに集めれそうではあるので大丈夫だろう。
 それよりもヒュドラの鱗皮を加工できる職人がいるかどうかだ。

 この日は予想通り六十三階で夜を過ごすことになった。
 途中検証したりもしたので、六十四階への階段までは後少し距離がある。
 それでも朝のうちには階段にたどり着けることだろう。
 そんなことを考えながら俺はベッドに潜りこんだ。




 翌朝、朝食を終えた俺たちはセーフゾーンを出て先へと進んだ。
 数グループと遭遇したが、問題なく階段へとついた。

 六十四階に下り、ミニマップを見る。
 なるほど、きついな。
 予想はしていたが、モンスターたちは四匹増えて、十匹になっていた。
 Aランク相当の階層になるとこうなってくるわけか。

 ただでさえ六匹でも時間がかかっていたのに、さらに時間がかかりそうだ。
 とはいえ、何か依頼があるわけでもないし、のんびりやっていくしかないだろう。

 最初のモンスターグループを見つけて種類の確認をする。

「ヒュドラ四、ケルベロス六だな」

 ミハエルの言葉に溜め息が出そうになる。
『シュラハト』はどうやってここを突破したんだろうか。
 正直レオンが二人いないと厳しい気がするのだが。
 ――今度エアハルトさんに会えたら聞いてみよう。

「それじゃいきますか」
「おう」

 俺とミハエルは同時に走りモンスターグループへと突っ込んでいった。
 正直俺はエルナが魔法を撃ちやすいようにと気に掛ける余裕はなかった。
 とにかく忙しい。

 十匹だが、頭がそれぞれ三つあるのである意味三十匹を相手にしているようなものだ。
 もちろん単体の三十匹とはわけが違うし、俺に来ていたのは五匹だけではあったが、実に忙しい。
 あっちからこっちからブレスや魔法が飛んできて、俺はシールドを張って防ぐからまだいいが、それがないミハエルは全て避けるか切り払うか、モンスターを盾にして防いでるわけだ。
 ミハエルさんまじすげーっす!

 正直に言えば俺も観戦にまわってミハエルの動きを見たいものだ。
 そんなことを考えつつ最後のケルベロスの頭部へサンダージャベリンを撃ち込んで止めを刺した。

「ふぅ……」

 思わず一息ついてしまう。
 ミハエルがヒュドラの鱗皮を持ってやってきた。

「おう、お疲れ。いやーいっそがしいな。特にヒュドラがめんどくせぇ。首がなげぇから可動域広いんだよなー」
「確かにな、ケルベロスほどの移動速度はないが、首がにょろにょろ動いて面倒だな」

 さすがに何度も立て続けに戦闘というのは俺もミハエルも負担が大きすぎるのでこまめに数分間の休憩を挟みつつ狩りを続けた。

 まだ六十四階の半分程度ではあったが、夜になったのでセーフゾーンへと移動した。
 ミハエルはやはりこれまでので慣れている部分はあったのかいつもとそう変わらなかったが、俺の疲労はそこそこあった。
 普段前衛をしていないというのもあるだろう。

 今日はさすがに訓練はせずに早めに布団に入ることにした。
 ミハエルはいつも通りちょっと訓練してから休むようではあるが。

 しかし前衛職というのは大変だ。
 頭も使うし体も使う。
 いつもは俯瞰的に見て全体を把握するだけで良かったのだが、今の俺にはそこまでの余裕がない。
 ミハエルの動きはなんとなくわかりはするが、後衛にはまったく気を配れない。

 今後も俺は魔法剣士的な前衛をしていくのもありかもしれない。
 後衛で全体把握も悪くはないが、このパーティにはやはり前衛が足りないのだ。
 ミハエルの補助的に動ける前衛をしていくのもいいかもしれない。

 それに俺がずっと後衛でエルナと同じ立ち位置でいるといつまでたっても彼女が俺のサポート位置から抜け出せないというのもある。
 さすがにエルナにこの話をすることはできないので、前衛が足りないということと、俺の訓練も兼ねているということで前衛を続けることを伝えるとしよう。

 もちろんミハエルのみで問題なさそうな場合はミハエルのみでもいいしな。
 そこは臨機応変だ。

 そんなことを考えつつ、俺は目を閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...