上 下
99 / 148
第六章 武器と防具

99 レオンとミハエルの戦い(前編)

しおりを挟む
 翌日、昼過ぎになって俺たちは宿屋前に集合した。
 待っていたのはギルドマスターだが、ギルドマスターは眉間に皺を寄せている。

「お待たせしました、ギルドマスター」
「おう。はぁ、しっかしレオンも面倒くさいやつだな。強い奴に挑みたいっていうのは分かりはするが……」
「そうですね」

 俺も不愉快な顔をしたつもりだった。

「ま、お前もミハエルも若いせいかねぇ、レオンと戦うとなってからはそうやって微妙に笑みを浮かべてやがるな」
「え、そんなことないですよ」
「ふん、自覚なしか。レオンと戦うことが決まってからはお前もミハエルもずっと薄っすら挑むような笑みをずっと浮かべてるんだぞ」

 俺は思わず自分の顔を触ってしまう。
 そんなつもりはなかったのに。
 確かに少し楽しみというか、心が躍る部分はあるが、笑みを浮かべてる自覚はなかった。

「すみません、自覚はありませんでした」
「別にかまわんがな。俺も若い頃は強いやつに挑めると分かったときはそうやって心が躍ってたからな」

 そう言ってギルドマスターは笑う。
 ミハエルは楽しみにしていると言われて不機嫌そうな顔になっているが、それでも口元は少し口角があがっている。
 なんだかんだ言って、レオンと戦うのは俺としては避けねばならないことなのに、それでもやはり少し心がはずむのは否定できないのだ。

 俺よりもミハエルよりも強いであろう相手。
 俺が全力を出してなお受け止めきれると思える相手。
 それはあのSランクモンスターを思い出すゆえだろうか。
 あの時は完全無効化魔法をかけていても、危険を感じた。
 きっと死ぬことはなかったと思う、けれど、それだけの恐怖を感じた。

 レオンからはあの時の、シュタルクドラッヘと同じ強さを感じるのだ。
 そんな実力を持ったであろう相手と戦えるのだと思えば、心が躍らないはずがない。

 ギルドマスターが若干呆れた顔をしたまま、俺たちを連れて歩き進めた。

「闘技場まではそう遠くない、今日はレオンの力も使って完全に貸し切りにしてある。レオンの仲間は魔法使いのエアハルトだけが来ているが、他はきていない」
「ああ、エアハルトさんですか」
「そうだ、昨日お前らに話しかけてきたやつだな。お前らに興味があるそうだ」
「そうですか」
「……ルカ、もしお前もやりたいなら、誓約魔法を条件にしてならやっていいぞ。闘技場はダンジョンから出た特殊な結界魔法で保護されてるからお前が魔法を撃ってもそう壊れはしない」

 確かに全力でやりたいと思っていた。
 それでも、やるとなれば魔法を抑えてやるつもりだった。
 ギルドマスターもその方がいいと思っていると思ったのだが……。
 俺の疑問の視線に気づいたのか、ギルドマスターが話だす。

「お前、今まで全力で戦ったことないだろ、モンスター以外で」
「そうですね」
「一度やっとけ。その方が自分の実力を理解できる。レオンはその点についてはちょうどいい相手だからな。どうせ絡まれてんだ、利用してやれ」

 ギルドマスターがそう言ってニヤリと笑う。
 俺は思わず苦笑してしまった。

「すごいことを言いますね、ギルドマスター。仮にもレオンも守るべき冒険者でしょうに」
「はっ 何しても死ななさそうなやつなんかより、俺が今、目をかけてるお前らを優先するに決まってるだろうが。所詮俺もギルドマスター以前にただの人間だからな」
「はは。ありがとうございます。まぁ、様子みて二人には話してみますよ」

 そんなことを話ながらも闘技場へとたどりついた。
 レオンたちはすでに中にいるらしい。
 闘技場の入り口にいる兵士にギルドマスターが声をかけ、俺たちは中へと入っていった。

 闘技場内部は完全に人払いをしているらしく、それもレオンの立場を利用したらしい。
 利用され放題だな、レオンも。
 でもまぁ、それもレオンが絡んできたからと言えばそうなのだが、正直エアハルトさんにああ言ったのは俺も実はレオンと戦いたかったからかもしれない。
 そう思うと、ちょっとだけ悪いなとは思う。

 通路を歩いて進んでいくと扉が見えてきた。

「あそこから先が闘技場に繋がってるが、俺と嬢ちゃんたち、それとルカは観客席の方に行くぞ。ミハエルはそこの扉の先へ真っ直ぐにいけ。レオンもすでにいるはずだ」

 ミハエルは一つ頷くとそのまま扉を開け中へと進んでいった。
 俺たちは少し戻って階段を上がっていく。
 ――ミハエルや俺への強化系魔法は昨日からずっとかけっぱなしなので問題はない。

 階段をあがるとアーチ状の出口があり、そこから出ると客席とその中央にぽっかりと開けた円形の場所がある。
 いわゆるコロッセオというやつだろう。

 中央付近は円形の石畳になっていて、その周囲は土のままだ。
 そこを囲うように高い塀があり、客席がある。
 かつて前世でみた画像のコロシアムによく似ている。

 どこの世界でも闘技場となると似た感じになるのだろうか。
 客席に視線を移すと、エアハルトさんが最前列に腰かけていた。
 そばまで行くと、エアハルトさんが振り返り苦笑を浮かべた。

「やぁ。ごめんね、レオンが」
「いえ、俺自身エアハルトさんに挑発するようなこと言いましたから」
「はは。うん、まだ君たちは若いからね。でも私たちだから良かったけど、他の冒険者にはああいうのはいけないよ?」
「そうですね、気を付けます」

 俺はそのままエアハルトさんの横に腰かけ、エルナとフィーネは後ろの席についた。
 ギルドマスターは円形の広場でミハエルと向かい合っているレオンに呼ばれていた。

「ギルマス! 最初の合図頼むわ!」

 そう言われて面倒くさそうにしつつも壁を乗り越えて広場へと下りた。

「それじゃあルールを言うぞ」
「おう、頼むわギルマス」
「まず最初の絶対条件だが、殺しはダメだし、再起不能になるような攻撃も禁止だ。武器は自分のを使用してもいい。どっちもアダマンタイトだから問題ないだろ。あと、お前らちゃんと寸前で止めて、負けも素直に認められるな?」
「おう、俺は問題ねぇぜ」
「はい、俺も問題ありません」

 そう言ったレオンもミハエルも視線はお互いからまったく外さない。

「それじゃ、少し離れろ」

 ギルドマスターがそう言ったところでレオンがミハエルに話かけた。

「お前、ミハエルだったな? なんかこの間と全然違うじゃねぇか。何しやがった?」
「教えるわけねぇだろ。さっさと離れろ」
「へぇ? いいね。お前も気に入った」

 レオンが実に嬉しそうな笑みを浮かべている。
 対してミハエルは不愉快そうな顔を隠しもしない。

「レオンがあんなに嬉しそうな笑みを浮かべているのを見るのは久々だな」

 エアハルトさんがそう呟く。
 それもそうだろうな、と思う。
 ミハエルは今Aランク相当の強さがある。
 レオンからすれば楽しそうな相手なのではあるのだろう。

 だけど、余裕ぶってると痛い目を見るぞ、レオン。
 ミハエルは強いし、まだまだ伸びる。
 仮に今回敗北しても、必ずレオンの強さはすべてミハエルは吸収する。
 そうすれば、ミハエルはさらに上にいけるだろう。

 レオンとミハエルがお互いに十歩ほど離れた。
 ギルドマスターが中央で腕をあげる。
 あの腕が振り下ろされたら、試合の開始だ。

「いいか、お前ら、絶対に殺すな、そして再起不能にするなよ」

 ミハエルもレオンもギルドマスターの言葉を聞いているのかいないのか、武器をお互いに抜き放ち、獰猛な笑みを浮かべて見合っている。
 ギルドマスターがそんな二人に若干溜め息をつきながら、腕を振り下ろした。

「始め!」

 その声を合図に、ミハエルとレオンの戦闘が開始された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...