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第五章 出会い

87 宝寿祭(前編)

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 朝、目を覚ました俺はぐっと背伸びをした。
 実はあまりよく眠れなかった。

 まぁなんというか、やはり女の子にプレゼントをするというのがどうにも緊張してしまうのだ。
 前世ではそんなプレゼントなど小さい頃に友達にあげたくらいで女の子を異性として意識しはじめてからはプレゼントなんてしたこともない。
 ――義理チョコ返しくらいはしたけども。

 アクセサリーなんてものをあげたことは一回だってないのだ。
 特にイケメンでも、口がうまくもない俺はモテることもなかったし。
 思い出すとちょっと悲しくなる。

 多分ではあるのだが、今世では逆にイケメンすぎて女の子が逃げるという事態なのだと今は思う。
 この世界の女の子は控えめな子が多く肉食系女子は少ないのかもしれない。

 いや、でも、前世でもイケメンすぎる友人は彼女ができないと愚痴ってたいたな。
 そういえば、あいつにはファンクラブがあって女子が牽制しまくりで誰も彼女にはなろうとしなかったし、近づこうとした女子は排除されてた気がする……。

 傍から見てると、友人がモテモテにしか見えなかったが、こう、なんというか、彼女たちは絶対に『友人の彼女』という立場になろうとしなかった。
 あれはある意味すごかった。

 ……あまり深く考えないようにしよう。うん。
 高橋元気にしてるかな。結婚できただろうか。
 あの当時はお前を羨んでいたが、今思えばお前も苦労してたんだよな……。
 女の子ってすごいよな……。

 少ししんみりしつつアイテムボックスから着替えを取り出す。
 今日は街を巡るだけなのだが、フィーネたちの護衛も兼ねて帯剣だけしておこう。
 男といえど、俺もミハエルもまだ十三歳だ。
 祭りで酒に浮かれた男というのはどうしても態度と気分が大きくなる。
 帯剣しているとある程度はそういう男も牽制はできるのだ。
 ――まぁそれでも絡んでくる輩はきっといるだろうが。

 ミハエルがさらっと対応しそうな気もするが、複数いたら弱い雷魔法を当ててやれば簡単に痺れてダウンするだろう。
 当然そんな輩は介抱などする必要もないのでその場に放置するけど。
 そのあと、金をスられようがどうなろうが、本人たちの自業自得だ。
 酒は飲んでも飲まれるなと前世ではあったが、あれは本当にいい言葉だと思う。


 顔を洗い、身だしなみを整えた俺は部屋を出た。
 ちょうどフィーネとエルナも部屋を出てきたところのようでばったりと出くわした。

「おはよう、フィーネ、エルナ」
「おはよう、ルカ」
「おはようございます、ルカさん」

 そういえば、エルナのこの敬語だが、同じ年齢だし敬語はいらないと言ったのだが、どうもクセになってしまったようで、このままになっている。
 本人も苦痛なわけではないようだし、今更敬語をやめるほうが色々緊張してしまいそう、ということなので自由にしてもらった。

 階段を下り、いつも俺たちが座る席に行こうとして、ふと宿屋の受付をみると、見知った顔の男がいた。
 男が俺の視線に気づいたかのように、女将さんから目を離してこちらを見、口角を少しあげた。

 フィーネもエルナもその男に気づき俺と男を接触させないように動こうとしたが、俺は彼女たちを止め、席に先にいってるように促した。
 まさかこんなところで大立ち回りをするわけもあるまいと思ったからだ。

「でも、大丈夫なの?」
「はは。大丈夫、いきなり襲ってはこないだろうし。俺はやりあう気はないから」

 それでもなお心配そうにするフィーネとエルナに、それなら、と、ミハエルを呼んできてくれるようにお願いした。
 フィーネはまだ心配そうにしていたが、なんとか頼み呼びにいってもらう。
 仮にもし戦闘になった場合、彼女たちが危険というのもある。
 俺はそんな二人を見送ってから、レオンに目を向けた。

 レオンはフィーネたちが離れるのを確認してからこちらへ向かってきていた。

「よお。俺はAランクパーティ、『シュラハト』のパーティリーダーしてるレオンっていうんだ。よろしくな」
「初めまして、俺はCランクパーティ、『イストワール』のパーティリーダーでルカといいます。どうぞよろしく」

 俺は努めて冷静に対応した。

「ルカか。なぁ、ちょっと俺と話しねぇ?」

 レオンは俺を見ながらそう言った。
 その目はやはり試すような、でも前と違って好機を喜ぶような、そんな目だった。

「なんの話でしょう? 俺は今日はメンバーと約束があるので」

 ――だから俺は、軽く牽制をする。
 そんな俺にレオンは口角をさらに少しだけあげて言った。

「別にたいした話じゃねぇよ。お前に興味あんだ。お前つえーだろ?」
「何を馬鹿な。俺はCランクですよ。Aランクのあなたに敵うはずがないでしょう」

 俺の言葉にレオンは面白い物を見ているように笑みを浮かべる。

「ふぅん? まぁそれでもいいけどな」

 しばらくして階段から下りてくる足音がした。
 チラリとそちらをみると、ミハエルとフィーネとエルナだった。
 俺の視線に気づいたのか、レオンもそちらを見る。
 一瞬ミハエルに目を止め、しかしすぐに視線をはずし俺を見た。

「あいつはお前の仲間か?」
「ええ、俺のパーティメンバーです」
「ふぅん。ま、今日は挨拶程度だ。だけど、お前の仲間にいっとけ」

 レオンは一旦言葉を区切ってから言った。

「わざとでも殺気を撒き散らすな。んなもん出してたら相手が警戒すんだろが。殺るならスマートに殺らねぇとな。ま、俺には牽制にすらなりゃしねぇから意味ねぇがな」

 そう言ってレオンは再びミハエルに視線を移して、獰猛な笑みを浮かべた。
 瞬間、俺はレオンから強い圧迫感と恐怖を感じ、平静を装っていたが、背中からは冷や汗がふきだしていた。
 しかしすぐにその圧力は薄れレオンは軽く口角をあげる程度の笑みに戻った。

「んじゃ、今日は帰るわ。ルカ、またな」

 そう言うと片手をあげてレオンは宿屋を出ていった。
 レオンがいなくなった途端、周りに人がいたのだということを思い出すざわめきが戻ってきた。
 そういえばレオンと会話しはじめてから周りの音が聞こえなくなっていた。
 要するに、俺がそれだけレオンに集中してしまっていたということだ。

「大丈夫か、ルカ」

 ミハエルの声にやっと緊張を解くことができ、そちらを向くと、ミハエルは眉間に皺をよせ、レオンが出ていった方を睨みつけていた。

「ああ。問題はない」

 そう言うがミハエルはレオンが出ていった扉を睨み、そして、悔しそうな顔をしている。

「どうした?」
「……やっぱつえーな、あのクソ野郎」

 事情を聞くと、ミハエルが殺気を撒き散らして牽制をしたが、それ以上の強烈な殺気をぶち当てられてしまったのだそうだ。
 それで、まったく足が動かなくなってしまったのだと。
 ということは俺はその余波程度の殺気で冷や汗をふきだしていたということになる。

「ルカ、あいつが俺に殺気をぶちまける前になんか言ってたろ? 何言いやがった?」

 ミハエルの言葉にレオンの言葉を伝えるか少し迷ったが、これもミハエルが強くなれるだろうと思い俺はそのままレオンの言葉を伝えた。
『わざとでも殺気を撒き散らすな。んなもん出してたら相手が警戒すんだろが。殺るならスマートに殺らねぇとな。ま、俺には牽制にすらなりゃしねぇから意味ねぇがな』

 それを伝えた瞬間、ミハエルはレオンと同じように獰猛な笑みを浮かべた。
 一瞬ミハエルから強烈な圧迫感と押し寄せる恐怖心があったが、それはレオンと比べるとやはり弱いものだった。

「言うじゃねぇか。さすがのAランクってことかよ。見てろクソ野郎。絶対俺がねじ伏せてやる」

 ある意味でミハエルとレオンはよく似ている気がする。
 だが、きっとミハエルはいつかレオンを追い越す、俺はそう思うのだ。

 少ししてミハエルはいつもの表情に戻ると言った。

「さて、朝飯にしようぜ。朝から嫌なもん見ちまったが腹減った」
「はいです! 怖い人もいなくなりましたしご飯食べて元気だしましょう」
「ええ、そうね」
「ああ。気分を切り替えていこう」

 そうして俺たちは朝食をとるためにテーブルへと移動した。
 どうやらエルナもフィーネも余波は受けていたようで、正直、レオンには勝てる気はまったくしないとのちに語っていた。
 そもそも、フィーネも近接攻撃ができるとはいえ、基本は遠距離の後衛なのだ。
 エルナは言わずもがなである。
 レオンのような、ガチガチの前衛と戦うのが間違いではあるのだ。
 後衛には後衛の戦い方というものがあるのだから。

 まぁ、それを言うなら俺も後衛なのだが、俺の場合、剣の才能はなくとも身体強化である程度のレベルにはもっていけるし、多くの攻撃魔法もあるし、防御魔法もある。
 いざとなればパッシブ魔法を疑似的に作ることだってできるだろう。
 その点ではレオンと勝負はできるのだ。

 とはいえ、勝負はできはするが、そもそも俺は魔法を他人に知られたくないし、知られるわけにはいかない。
 だから、俺はレオンと勝負する気は一切ない。

 それでもなんとなく、いつか戦う日がくるような気がして、少しだけ憂鬱な気分になる。
 レオン対策用に魔法を作っておくのも必要かもしれない。

 小さく溜め息を零しつつも、俺はみんなと朝食をとるのだった。
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