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第四章 仲間

76 気持ち悪いモンスターとアクセサリー

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 四十三階へと下りた俺たちはそのまま道を進む。
 そうして出会った最初のモンスターパーティ。
 なんとも奇妙な生物とこれまで戦ってきたドライアドのようだ。


 モーナットビースト、体型や大きさはライオンのようで、緑色の触手がたてがみのように生えており、尻尾も毛ではなく代わりに緑色の触手が生えている。
 肌は灰色のヌルリとした質感をしていて、目はなく、口には鋭い牙が生えている。
 正直に言うと、実に気持ちが悪い。

 攻撃方法は触手による鞭のような攻撃と噛みつき、鋭い爪による攻撃で、魔法は使ってこないようだ。
 ただ、動きはかなり素早いようである。
 そんなモーナットビーストが一匹と、ドライアドが二体だ。

 ドライアド二体に関してはすでにミハエルは経験済みなので、そちらは俺たちですぐに始末することにして、モーナットビーストはミハエルだけで対応することになった、
 ミハエルが攻撃を始める前に俺はドライアド二体にルーツをかけておく。
 これでミハエルはドライアドの魔法を気にすることなくモーナットビーストに対応できるだろう。

 そうしてミハエルとモーナットビーストの戦闘が始まった。
 モーナットビーストは予想以上に動きが素早いようだ。
 ミハエルの周りを死角をとろうと動き、そして頭部から生えている触手を伸ばして鞭のようにしならせて攻撃をしかけている。
 当然ミハエルは死角をとらせないように動き、触手が飛んでくれば切り飛ばしている。

 触手は無限再生のようで、切り飛ばされてもすぐに新しいのが生えている。
 ミハエルがモーナットビーストに切りかかったが、素早く後退して避けられた。
 あの大きさで本当に素早く動くものだ。

 今のところはミハエルが受けの状態だが、攻めに切り替えた時どうなるか。
 そこから数分ミハエルはずっと受けの姿勢だったが、どうやらモーナットビーストはゴブリンのように焦れて攻めることはないようだ。
 ひたすらに触手での攻撃と死角を狙おうとするようだ。

 それを確認したのか、ミハエルの動きが変わった。
 受けの姿勢から攻めに変わったのがよくわかる。
 今度はミハエルが死角をとるように動きはじめた。
 モーナットビーストは嫌がり、今度は先ほどのミハエルのように受けの姿勢になったようだ。

 ただ、モーナットビーストと違いミハエルの攻めは攻撃的な攻めだ。
 モーナットビーストの守りの攻めとは違う。
 死角をとるように動きながらも時折大きく踏み込んで攻撃している。
 そのたびにモーナットビーストは大きく逃げている。

 だがここは洞窟だ。そう広いわけではない。
 そうしてモーナットビーストは攻撃されるたびに逃げていたら追いつめられた。
 後方に逃げ場のなくなったモーナットビーストは横に逃げようとしたが、それをミハエルが逃がすはずもなく、側面をザックリと切り裂かれた。

 それはモーナットビーストにとっては致命傷だったようだ。
 完全に動きが遅くなり、そうなればミハエルが見逃すはずもなく、モーナットビーストはすぐに胸元に剣を刺しこまれ死んだ。
 ドロップに何やら皮っぽいのを出したようだ。
 それを持ってミハエルがやってくるが不満気な顔だ。

「いやー強くねぇんだけどさ。逃げ回るからめんどくせぇ」
「こっちでやるか?」
「いや、あの程度すぐ殺せねぇとな」

 多分シュタルクドラッヘを思い出しているのだろう。
 確かにあの程度の速さならすぐ殺せないととてもではないがSランクとはやり合えない。

「そうだな」
「つーわけでしばらくあいつはもらうぜ」
「ああ、わかった」
「了解よ」
「わかりました」

 そうして受け取った皮を見る。
 なるほど、モーナットビーストの皮か。
 なんだかぬるっとした質感だが、別にぬるぬるしてるわけでもないようだ。
 かなり丈夫な皮で、そのうえ湿気をこもらせない機能があるらしく、防具の内側などに使うことが多いらしい。

 鎧なんかは蒸れるのでこれはありがたい機能だろう。
 見た目はイマイチだが機能性は最高のようで需要も高く、縦横一メートルほどの大きさしかないのに、銀貨三枚の価値があるようだ。

 こうしてこの階層ではひたすらにミハエルはモーナットビーストだけを狙った。
 この階層を終える頃には、最初から死角に回る攻めの攻撃をしつつ、最初は一度しか踏み込まなかった攻撃を、連続で二度踏み込む攻撃に切り替え、懐に大きく入り込んで致命傷の傷をつけるか、心臓を突くといった攻撃をするようになった。

 その為、戦闘開始してすぐにモーナットビーストは死ぬようになっている。
 さすがミハエルだな、と思う。

 その後も狩りを続けながら四十五階を目指した。
 四十四階ではモーナットビーストが一匹増え、四十五階ではさらに一匹増えた。
 数が増えてからフィーネも攻撃をするようになったので判明したことだが、実はモーナットビースト、目がないせいなのか、遠距離攻撃からの反応がすこぶる悪かった。
 なので、フィーネがモーナットビーストの足や肩に矢を撃ち込むことで動きを鈍らせ、その後、ミハエルが止めをさすというのが見事にハマった。

 別にミハエルはなんでもかんでも自分だけでやりたいわけではなく訓練を兼ねているだけなので、連携してうまくいくならそちらを優先する。

 四十三階からはほぼ冒険者はいなかったので実に快適に狩りが出来ている。
 大きく回るように狩りをしながら進んでいるので、ドロップも大量である。

 ミスリル鉱石もそこそこな数がたまっているので、問題なく二個は買い取りができる。
 まぁ、さすがにフィーネたちに直接それを言うのは恥ずかしいというか、あれなので、清算の時に二個はこっそり俺のアイテムボックスにしまい込み、お金だけ払う形だ。
 いつも清算は俺がして、ミハエルたちにはギルド併設の酒場で待っていてもらっているので出来る技ともいえる。

 しかしどんな形がいいだろうか。
 雫型なんかは定番でいいかなとは思うのだが。
 ウードにお願いしてみて無理だったら丸い形にしてもらおう。

 まぁいくら少量しか含有していないとはいえ、ピアスにするほどの大きさにするなら余るはずだから、俺の分で余った分はネックレスにしてマリーにプレゼントしよう。

 こうして狩りを続け夕方近くになった俺たちはダンジョンを出て清算をし、俺は用事があると言ってその場で別れた。
 三人はギーレンの宿屋で食事をするらしい。

 時刻は夕方の五時、ウードはきっとまだ仕事場にいるだろう。
 俺はウードの仕事場である鍛冶場へと向かった。



 カンカンと鉄を叩く音があちこちから聞こえてくる。
 ここは鍛冶場が集まっている区画だ。
 俺はウードの鍛冶場へと向かう。ここへ来るのは久々だ。

 ある鍛冶場へと入ると、若い兄さんが受付のようなところにいた。
 俺を見た兄さんは少しぶっきらぼうだが、声をかけてきた。

「らっしゃい。何か用か?」
「ああ、用っていうか、父さん、ウードはいますか?」
「親方? 父さん?」
「はい、息子のルカです」

 俺がそう名乗ると、兄さんは目玉飛び出しますよってくらい目を見開いて叫んだ。

「えええええええ!!」

 そのすぐ後に、鍛冶場から、怒声が飛んできた。

「何叫んでんだバカが!」

 この声はウードだ。
 少しして不機嫌に眉間に皺を寄せたウードがのっそりと出てきた。

「いやだって! 親方! 息子って! ええええ!」
「あん?」

 驚く兄さんをよそにウードが俺をみた。
 途端笑顔を浮かべる。
 いやだから、父さん怖いよ。笑顔なのに怖いんだよ。

「ルカ!」
「久しぶり、父さん」
「おお! 久しぶりだな! 大きくなって!」

 その言葉に俺はさすがに苦笑してしまう。

「そんな短期間で大きくならないよ」
「ははは! それもそうか!」

 そんなウードの明るい声に鍛冶場からまた一人顔を覗かせた。

「どうした、親方。おや? ルカ坊か?」
「お久しぶりです」

 父さんよりも年上の鍛冶職人さんだ。
 父さんの父さん、お祖父ちゃんの時代からいる人で、お祖父ちゃんが死んだ後、父さんの師匠をしてくれた人らしい。
 小さい頃に連れてこられた時、随分可愛がってもらった記憶がある。

 ちなみに、兄さんは、『えー? 親子? 似てなさすぎでしょ……』って呟いていたが、気持ちはわからなくはない。
 マリーの遺伝子が強すぎたのだよ、兄さん。

「ところでルカ、どうしたんだ? 鍛冶場にくるなんて」
「あ、うん。ちょっと頼みたいことがあって」

 そうして俺は父さんにミスリル鉱石を見せて、雫型の石を作れるかたずねた。

「ふむ、なるほどな。雫型か。ルカも面白いこと思いつくもんだな。型つくらんといかんが、やってみよう」

 どうやらこの世界ではアクセサリーに雫型を作る習慣がなかったようだ。
 簡単に思いつきそうなものだが、どうやら丸い形か楕円形あとは四角い形くらいしかないみたいだ。
 そういえばダンジョンで出たネックレスの宝石も丸い形だったし、星の涙って名前のついた宝石も、丸かった。

 型作りに二日はかかるそうなので、俺はウードにミスリル鉱石を渡し、五日後にまた来ると伝え鍛冶場を出た。
 その足で俺はマルセルのヴェーバー道具屋に向かった。

 ちょうどマルセルが商品の整理をしていたので声をかける。

「マルセル」
「あ! ルカだ! どうしたの? 何か買い物?」
「いや、マルセルにちょっと紹介して欲しいんだけどさ」
「ん?」
「マルセルの彼女のお父さんって銀細工師だったよな?」
「うん! そうだよ! 腕がいいって評判なんだよ!」
「うん、ちょっとその銀細工師のお父さん紹介してほしいんだよ」

 俺の言葉にマルセルは首を傾げながらも頷いた。

「そうなの? うん、いいよー。ちょっと父さんに声かけてくるから待ってて」
「ああ、悪いな」
「あはは、いいよ! 友達だもん!」

 こうして俺はマルセルに案内されて、マルセルの彼女のお父さんである銀細工師さんを紹介してもらった。
 娘の彼氏の友達ということで俺の依頼の話を快く聞いてくれることになった。
 ただ、まだはめ込む雫型のミスリルができていないので、こういう形になる予定で、それをピアスとイヤリングで作ってほしいのだと伝えた。

 やはり銀細工師さんも雫型は初めてのようで、少し悩んだようだが、頭の中でうまく想像がついたのか、一つ頷くと、俺に引き受けると言ってくれた。
 完成はもう少し先なので、物が出来たらすぐ持ってくると銀細工師さんに伝え、俺は店を出た。

「マルセル、ありがとな」
「ううん。あの子にあげるの?」
「ぬ……。まぁ、そうだな。宝寿祭があるだろ、あの時にミハエルと一緒にフィーネたちにあげることにしたんだ。パーティメンバーだし」
「ふぅん?」

 なんだか含みのある疑問の声に俺はそっぽを向く。

「ふふ。いいんじゃないかな。きっと喜んでくれるよ! 頑張ってね!」

 ぐぬぬ。恋愛上級者め……。

 俺はマルセルと別れるとギーレンの宿屋へ帰ることにした。
 ちょっとだけ一ヶ月後にある宝寿祭が楽しみである。
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