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第四章 仲間
66 三十階は脂っこい
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三十階の転移柱のある広場から出た俺たちは最初の獲物となる敵を求めて歩き始めた。
そう時間を置かずに最初の敵に出会った。
モンスターは、十階から十四階にいたオークと同じオークではあるが、種類はハイオークらしい。
十階にいたオークは身長が百六十ほどだったが、このハイオークは百八十センチはあるだろうか。
装備も随分違って、胸当てベルトや腰防具などちょっとした装備をしている。
武器は中華包丁のような武器をもっている。
そんなハイオークが三体いて、他にはいないようだ。
ハイオークはフゴフゴと鼻息をならしながら歩いていたが、俺たちに気づくと中華包丁モドキを振り上げて唾をまき散らしながらこちらへドスドスと走ってきた。
俺はすかさず二体にバインドをかける。
バインドがかかった二体はその場に倒れたが、残りの一体は気にせずに向かってくる。
ミハエルはそんな向かってくるオークへ走っていく。
剣は下げたままだ。
すぐにミハエルとオークの距離は縮まり、オークは思い切り武器を振り下ろした。
その瞬間ミハエルは右側に避け、素早く背後に回るとオークの背中を袈裟切りにする。
オークからは大量の血が流れ落ちているが、分厚い皮下脂肪によって致命傷とまではいかなかったようだ。
オークは怒りの声をあげて振り向き、再び武器を振り上げた。
ミハエルはそんなオークの行動を気にせずにオークの顔面へと剣を振りぬく。
途端オークの顔からパッと赤いしぶきが飛び散った。
オークは悲鳴をあげると顔を押さえ、武器を無茶苦茶にふりはじめた。
しかし顔を押さえているので目は開いておらず、ミハエルは悠々と背後に周り今度は心臓を狙って剣を深々と突き刺して捻ると、その剣を引き抜いた。
引き抜いた途端背中から大量の血液が噴き出す。
これは確実に致命傷だ。
しかしオークは大量の血液を背中から噴き出しながらも振り返るとミハエルに攻撃を仕掛けた。
さすがに俺もミハエルもフィーネも驚いた。
それでもさすがのミハエルだ。
驚いていても冷静にオークの攻撃を避ける。
二度、三度とオークは武器を振ったが流石に限界がきたようだ。
強靭な生命力を持ってはいてもこれほど血を失えば無理があるというものだ。
オークは最後に武器を振り上げたところでそのままの姿で倒れ込み、ポンと軽い音を立てて消えた。
ミハエルは残りのオークから目を離さないまま、こちらに声をかけてきた。
「ルカ、すまねぇが残りのオーク任せていいか?」
その言葉に俺は少し驚いた。
ミハエルが自分でやらずに俺に頼んできたのは初めてなのだ。
「ああ、それはいいが……」
俺が少し言葉を濁したことでそれに気づいたミハエルが声に苦笑を混ぜて答えた。
「はは。別にやるのが嫌とかこえーとかじゃねぇぞ。単純に脂で刃がだめになったんだよ」
「ああ、なるほどな。分かった」
「私もあれは無理ね。牽制はできるけど殺すのは無理だわ」
フィーネの言葉を聞いて、転がるオークを見れば数本矢が刺さっていたが、どれも分厚い皮下脂肪に阻まれて深く突き刺さっていない。
あれでは致命傷を与えるのは難しいだろう。
俺は近くに他に人がいないのを確認してから転がってまだもがいてるオークに雷魔法を落とした。
全身から煙をあげているというのに、まだオークは動いている。
「とんでもない生命力だな」
思わず俺は呆れた声をあげてしまう。
結局俺はその後二回雷魔法を落としてやっとオークは静かになった。
そして俺たちはその場で話し合いを始めた。
「さて、どうしたもんか」
そう言いながらミハエルは自身の剣を見ている。
剣を見ると脂でぬらぬらと光っている。
「最初に背中切ったろ?あの一回でダメになったんだよ。軽く切る程度や突きなら問題ねぇがな。でもあの分厚い脂肪があるから突きだけじゃ倒せねぇんだよ。あの分厚さじゃ心臓にいく前に剣が止まる」
「なるほどな。剣に脂がつかないようにすればいけるってことか?」
「そうだな。脂さえつかなきゃなんとかなる。生命力やべぇから心臓狙っても時間かかるしな。やるなら脳みそ潰すか首を飛ばすしかねぇ」
「脳みそ潰しても動きそうだけどな」
「はは。確かにな。ま、首を落とすのが俺としちゃ一番やりやすい。切れ味アップと脂さえつかなきゃ首落とすくらいなんとかなるだろ。まぁ一回じゃ無理かもしれねぇけどな」
「そうか。脂が付着しないようにか……」
「ああ。十階にいたオークはこんな脂つかなかったんだがなぁ」
「そういえばそうね。私も十階らへんのオークにはもっと矢が通ったわ」
「階層によって結構変わるみてぇだな」
「ふむ……」
とりあえず、脂というか、汚れがつかなければいいわけだな。
となると……コーティング、コーティング魔法でいいな。
魔力付与してるみたいなものだ。
「ミハエル、フィーネ。ちょっと魔法作るから周囲の警戒任せてもいいか?」
「おう、任せろ」
「そんなにすぐ魔法作れるの? すごいわね」
「はは。今回作る魔法は簡単だからね」
「そうなのね。周囲の警戒は任せて頂戴」
「ああ、頼んだ」
俺は目を閉じ、魔法の開発に取り掛かった。
――できた。
十分ほどしてコーティング魔法が完成した。
剣全体を魔力の刃で覆うことで剣を保護して脂や汚れをつかなくさせる。
更に魔力の刃によって切れ味がかなり上がる。
いくらミハエルでも骨の切断にはテクニックがいりすぎる。
まぁミハエルなら骨と骨の間を切り落とすことはきっと可能だろうけど、それでも完璧にはいかないだろう。
その点コーティング魔法をしておけばハイオークの太い骨もそこまで抵抗なく切断できるはずだ。
俺はそのことをミハエルに説明した。
「――って感じだな。どうする?」
もしミハエルが少しでも嫌そうにすればまた別の魔法を考えるつもりだ。
「おお、いいな、それ。それで頼むわ。これで気使って骨切断しなくていいから楽だな」
そう言ってミハエルは笑った。
俺はそんな風に笑うミハエルを見て少し安堵した。
「じゃあ、浄化魔法かけてからコーティング魔法かけるぞ」
「ああ、頼む」
俺はミハエルの脂でぬめぬめ光る剣を浄化してから、改めてコーティング魔法をかけた。
一瞬剣が薄青く光ったが、すぐに光はおさまった。
「ありがとな、ルカ。いやでも、これ早く試してぇな」
「はは。すぐに次の敵に会えるさ。フィーネの弓の刃にもかけておこうか?」
「ええ、そうね。お願いするわ」
そうして俺はフィーネの弓についてる刃にも同じくコーティング魔法をかけた。
これでもしハイオークに接近されてもフィーネも問題なく攻撃ができるだろう。
――まぁその前に俺がバインドで止めるけども。
ハイオークから出た銀鉱石を拾ったあと、次の敵を求めて俺たちは移動を開始した。
三十階もそんなに冒険者パーティの姿はなく、またそこそこ広いので余裕をもって狩りができる。
邪魔もなくテンポよく狩りが出来そうで良かった。
そうして三十階では二つめとなるハイオークのパーティに出会った。
ミハエルが楽しそうな笑みを浮かべてオークに向かっていく。
フィーネがすでに後方の二体に牽制の弓を撃ち込んでくれていたので、俺はその二体にバインドをかけた。
ただ、今回はこれ以上俺たちは攻撃せずに、ミハエルの戦闘を観察することになっている。
ミハエルは武器の様子を見るようにオークのあちこちを切りつけている。
分厚い皮下脂肪まで到達するような切り傷をつけたあと、また違う箇所を切りつけてと繰り返し、最後はオークの首を切り落とした。
さすがのオークも首を切り落とされるとどうにもならないようで、すぐにポンと音を立てて煙となった。
ミハエルは剣をチェックしたあと、一つ頷くと俺に声をかけた。
「ルカ、バインド解いてくれ。二体とも」
「ああ、了解」
バインドの解けたオークは立ち上がるとミハエルに向けて武器を振り上げ攻撃を開始した。
攻撃自体は大振りな攻撃が多いが、動きは悪くないのでそこそこ面倒ではあるだろう。
ただ、ミハエルにはそう面倒な相手ではなかったようで、すぐに二体の首は飛ぶことになった。
「うん、悪くねーな。ルカ、フィーネ、ありがとな」
「ええ。問題ないわ」
「ああ。ミハエル、どうだった?」
「おう、いいぜ。血脂もつかねぇし、骨もスパっと切れる。これなら問題はねぇ」
「そうか、良かった」
これで三十階も問題なく狩りをすることができるだろう。
それから俺たちは三十階での狩りを続けた。
どうやらこの階層から魔石が出るようで、ハイオークから小さな魔石が出ている。
ドロップ率はあまり良くないが、小さな魔石一つで銀貨三枚もするのでかなりおいしいと言えるだろう。
今のところ出るのは銀鉱石と小さな魔石だけで、肉はでないようだ。
そうして狩りを続け、夕方近くになった。
「ん、そろそろ戻ろうか。もうすぐ夕方になる」
「おう、分かった」
「あら、もうそんな時間なのね。二人と一緒だとサクサク狩れるから時間が進むのが早いわね」
「はは。ミハエルと二人だけの時よりも楽だったよ、俺は。フィーネが牽制してくれるから楽にバインドや魔法を撃てるし」
「そーだな。俺も次のオークが武器を持つ手とか痛めてて動き鈍ってたからすげぇやりやすかったぜ」
俺たちの言葉を聞いてフィーネは少し頬を染めて笑みを浮かべた。
「本当? それなら良かったわ」
実際これは本当のことだ。
彼女一人が加わっただけで、俺たち二人でやっていた時よりも攻撃に余裕と幅ができた。
これでさらにエルナも加わればもっと幅は広がるだろう。
彼女が明日どういう結論を出すにせよ、もし冒険者を続けるならばそれは楽しみなことではある。
そうして俺たちは中々においしい三十階での狩りを終えて転移柱から地上へと戻った。
冒険者ギルドで清算をしたところ、相変わらず驚かれたが、かなりの儲けになった。
大体一人大銀貨三枚となったので大変においしい。
これなら普通の宿屋を定宿にしても問題ないレベルではある。
そして当然ながらフィーネはまだDランクだったのだが、今回の狩りでCランクになれる試験を受けれることになったようだ。
明日試験の説明を受けることになった。
「ルカ、ミハエル、明日も付き合ってくれる?」
「おう、いいぜ」
「ああ、もちろんいいよ」
「ありがとう」
嬉しそうに微笑むフィーネに俺はまたもドキドキしてしまった。
「それじゃあね。また明日」
「ああ」
「おう」
そうしてフィーネとはフィーネの家の近くで別れた。
今日ばかりはあまりエルナに会うのも彼女の気持ちを揺さぶってしまうだろうからと俺たちは遠慮したのだ。
「んじゃ、酒場で飯にすっか」
「そうだな」
俺が少しばかりエルナの心配をしていると、それを見抜いたのか、ミハエルが声をかけてきた。
「心配すんなよ、ルカ。エルナなら大丈夫だろ。あいつは意外とつえー女だよ」
そう言ってニカっと笑った。
「はは。そうだな。ていうか、ミハエルは随分エルナに詳しいな?」
少し揶揄い気味にそう言うとミハエルは眉を顰めて少し頬を赤くした。
「何言ってんだ。そういうルカこそ、フィーネとなんか初々しい感じじゃねぇかよ」
「なっ そんなわけ……」
反論しようにも、言い返せない自分がいた。
仕方ないじゃないか、女の子とあんな風に会話したことないんだから……。
くそー、ミハエルに勝てない!
「揶揄って悪かった。やめよう」
「おう、俺の勝ちだな」
「ぐぬぬ」
俺はミハエルに女の子関係の話では一回も勝てないままである。
毎回俺が先にギブアップしているのが悲しいところだ。
カールにも勝てそうにないけども。
ちょっぴり俺は悲しくなりつつもミハエルと酒場に向かった。
そう時間を置かずに最初の敵に出会った。
モンスターは、十階から十四階にいたオークと同じオークではあるが、種類はハイオークらしい。
十階にいたオークは身長が百六十ほどだったが、このハイオークは百八十センチはあるだろうか。
装備も随分違って、胸当てベルトや腰防具などちょっとした装備をしている。
武器は中華包丁のような武器をもっている。
そんなハイオークが三体いて、他にはいないようだ。
ハイオークはフゴフゴと鼻息をならしながら歩いていたが、俺たちに気づくと中華包丁モドキを振り上げて唾をまき散らしながらこちらへドスドスと走ってきた。
俺はすかさず二体にバインドをかける。
バインドがかかった二体はその場に倒れたが、残りの一体は気にせずに向かってくる。
ミハエルはそんな向かってくるオークへ走っていく。
剣は下げたままだ。
すぐにミハエルとオークの距離は縮まり、オークは思い切り武器を振り下ろした。
その瞬間ミハエルは右側に避け、素早く背後に回るとオークの背中を袈裟切りにする。
オークからは大量の血が流れ落ちているが、分厚い皮下脂肪によって致命傷とまではいかなかったようだ。
オークは怒りの声をあげて振り向き、再び武器を振り上げた。
ミハエルはそんなオークの行動を気にせずにオークの顔面へと剣を振りぬく。
途端オークの顔からパッと赤いしぶきが飛び散った。
オークは悲鳴をあげると顔を押さえ、武器を無茶苦茶にふりはじめた。
しかし顔を押さえているので目は開いておらず、ミハエルは悠々と背後に周り今度は心臓を狙って剣を深々と突き刺して捻ると、その剣を引き抜いた。
引き抜いた途端背中から大量の血液が噴き出す。
これは確実に致命傷だ。
しかしオークは大量の血液を背中から噴き出しながらも振り返るとミハエルに攻撃を仕掛けた。
さすがに俺もミハエルもフィーネも驚いた。
それでもさすがのミハエルだ。
驚いていても冷静にオークの攻撃を避ける。
二度、三度とオークは武器を振ったが流石に限界がきたようだ。
強靭な生命力を持ってはいてもこれほど血を失えば無理があるというものだ。
オークは最後に武器を振り上げたところでそのままの姿で倒れ込み、ポンと軽い音を立てて消えた。
ミハエルは残りのオークから目を離さないまま、こちらに声をかけてきた。
「ルカ、すまねぇが残りのオーク任せていいか?」
その言葉に俺は少し驚いた。
ミハエルが自分でやらずに俺に頼んできたのは初めてなのだ。
「ああ、それはいいが……」
俺が少し言葉を濁したことでそれに気づいたミハエルが声に苦笑を混ぜて答えた。
「はは。別にやるのが嫌とかこえーとかじゃねぇぞ。単純に脂で刃がだめになったんだよ」
「ああ、なるほどな。分かった」
「私もあれは無理ね。牽制はできるけど殺すのは無理だわ」
フィーネの言葉を聞いて、転がるオークを見れば数本矢が刺さっていたが、どれも分厚い皮下脂肪に阻まれて深く突き刺さっていない。
あれでは致命傷を与えるのは難しいだろう。
俺は近くに他に人がいないのを確認してから転がってまだもがいてるオークに雷魔法を落とした。
全身から煙をあげているというのに、まだオークは動いている。
「とんでもない生命力だな」
思わず俺は呆れた声をあげてしまう。
結局俺はその後二回雷魔法を落としてやっとオークは静かになった。
そして俺たちはその場で話し合いを始めた。
「さて、どうしたもんか」
そう言いながらミハエルは自身の剣を見ている。
剣を見ると脂でぬらぬらと光っている。
「最初に背中切ったろ?あの一回でダメになったんだよ。軽く切る程度や突きなら問題ねぇがな。でもあの分厚い脂肪があるから突きだけじゃ倒せねぇんだよ。あの分厚さじゃ心臓にいく前に剣が止まる」
「なるほどな。剣に脂がつかないようにすればいけるってことか?」
「そうだな。脂さえつかなきゃなんとかなる。生命力やべぇから心臓狙っても時間かかるしな。やるなら脳みそ潰すか首を飛ばすしかねぇ」
「脳みそ潰しても動きそうだけどな」
「はは。確かにな。ま、首を落とすのが俺としちゃ一番やりやすい。切れ味アップと脂さえつかなきゃ首落とすくらいなんとかなるだろ。まぁ一回じゃ無理かもしれねぇけどな」
「そうか。脂が付着しないようにか……」
「ああ。十階にいたオークはこんな脂つかなかったんだがなぁ」
「そういえばそうね。私も十階らへんのオークにはもっと矢が通ったわ」
「階層によって結構変わるみてぇだな」
「ふむ……」
とりあえず、脂というか、汚れがつかなければいいわけだな。
となると……コーティング、コーティング魔法でいいな。
魔力付与してるみたいなものだ。
「ミハエル、フィーネ。ちょっと魔法作るから周囲の警戒任せてもいいか?」
「おう、任せろ」
「そんなにすぐ魔法作れるの? すごいわね」
「はは。今回作る魔法は簡単だからね」
「そうなのね。周囲の警戒は任せて頂戴」
「ああ、頼んだ」
俺は目を閉じ、魔法の開発に取り掛かった。
――できた。
十分ほどしてコーティング魔法が完成した。
剣全体を魔力の刃で覆うことで剣を保護して脂や汚れをつかなくさせる。
更に魔力の刃によって切れ味がかなり上がる。
いくらミハエルでも骨の切断にはテクニックがいりすぎる。
まぁミハエルなら骨と骨の間を切り落とすことはきっと可能だろうけど、それでも完璧にはいかないだろう。
その点コーティング魔法をしておけばハイオークの太い骨もそこまで抵抗なく切断できるはずだ。
俺はそのことをミハエルに説明した。
「――って感じだな。どうする?」
もしミハエルが少しでも嫌そうにすればまた別の魔法を考えるつもりだ。
「おお、いいな、それ。それで頼むわ。これで気使って骨切断しなくていいから楽だな」
そう言ってミハエルは笑った。
俺はそんな風に笑うミハエルを見て少し安堵した。
「じゃあ、浄化魔法かけてからコーティング魔法かけるぞ」
「ああ、頼む」
俺はミハエルの脂でぬめぬめ光る剣を浄化してから、改めてコーティング魔法をかけた。
一瞬剣が薄青く光ったが、すぐに光はおさまった。
「ありがとな、ルカ。いやでも、これ早く試してぇな」
「はは。すぐに次の敵に会えるさ。フィーネの弓の刃にもかけておこうか?」
「ええ、そうね。お願いするわ」
そうして俺はフィーネの弓についてる刃にも同じくコーティング魔法をかけた。
これでもしハイオークに接近されてもフィーネも問題なく攻撃ができるだろう。
――まぁその前に俺がバインドで止めるけども。
ハイオークから出た銀鉱石を拾ったあと、次の敵を求めて俺たちは移動を開始した。
三十階もそんなに冒険者パーティの姿はなく、またそこそこ広いので余裕をもって狩りができる。
邪魔もなくテンポよく狩りが出来そうで良かった。
そうして三十階では二つめとなるハイオークのパーティに出会った。
ミハエルが楽しそうな笑みを浮かべてオークに向かっていく。
フィーネがすでに後方の二体に牽制の弓を撃ち込んでくれていたので、俺はその二体にバインドをかけた。
ただ、今回はこれ以上俺たちは攻撃せずに、ミハエルの戦闘を観察することになっている。
ミハエルは武器の様子を見るようにオークのあちこちを切りつけている。
分厚い皮下脂肪まで到達するような切り傷をつけたあと、また違う箇所を切りつけてと繰り返し、最後はオークの首を切り落とした。
さすがのオークも首を切り落とされるとどうにもならないようで、すぐにポンと音を立てて煙となった。
ミハエルは剣をチェックしたあと、一つ頷くと俺に声をかけた。
「ルカ、バインド解いてくれ。二体とも」
「ああ、了解」
バインドの解けたオークは立ち上がるとミハエルに向けて武器を振り上げ攻撃を開始した。
攻撃自体は大振りな攻撃が多いが、動きは悪くないのでそこそこ面倒ではあるだろう。
ただ、ミハエルにはそう面倒な相手ではなかったようで、すぐに二体の首は飛ぶことになった。
「うん、悪くねーな。ルカ、フィーネ、ありがとな」
「ええ。問題ないわ」
「ああ。ミハエル、どうだった?」
「おう、いいぜ。血脂もつかねぇし、骨もスパっと切れる。これなら問題はねぇ」
「そうか、良かった」
これで三十階も問題なく狩りをすることができるだろう。
それから俺たちは三十階での狩りを続けた。
どうやらこの階層から魔石が出るようで、ハイオークから小さな魔石が出ている。
ドロップ率はあまり良くないが、小さな魔石一つで銀貨三枚もするのでかなりおいしいと言えるだろう。
今のところ出るのは銀鉱石と小さな魔石だけで、肉はでないようだ。
そうして狩りを続け、夕方近くになった。
「ん、そろそろ戻ろうか。もうすぐ夕方になる」
「おう、分かった」
「あら、もうそんな時間なのね。二人と一緒だとサクサク狩れるから時間が進むのが早いわね」
「はは。ミハエルと二人だけの時よりも楽だったよ、俺は。フィーネが牽制してくれるから楽にバインドや魔法を撃てるし」
「そーだな。俺も次のオークが武器を持つ手とか痛めてて動き鈍ってたからすげぇやりやすかったぜ」
俺たちの言葉を聞いてフィーネは少し頬を染めて笑みを浮かべた。
「本当? それなら良かったわ」
実際これは本当のことだ。
彼女一人が加わっただけで、俺たち二人でやっていた時よりも攻撃に余裕と幅ができた。
これでさらにエルナも加わればもっと幅は広がるだろう。
彼女が明日どういう結論を出すにせよ、もし冒険者を続けるならばそれは楽しみなことではある。
そうして俺たちは中々においしい三十階での狩りを終えて転移柱から地上へと戻った。
冒険者ギルドで清算をしたところ、相変わらず驚かれたが、かなりの儲けになった。
大体一人大銀貨三枚となったので大変においしい。
これなら普通の宿屋を定宿にしても問題ないレベルではある。
そして当然ながらフィーネはまだDランクだったのだが、今回の狩りでCランクになれる試験を受けれることになったようだ。
明日試験の説明を受けることになった。
「ルカ、ミハエル、明日も付き合ってくれる?」
「おう、いいぜ」
「ああ、もちろんいいよ」
「ありがとう」
嬉しそうに微笑むフィーネに俺はまたもドキドキしてしまった。
「それじゃあね。また明日」
「ああ」
「おう」
そうしてフィーネとはフィーネの家の近くで別れた。
今日ばかりはあまりエルナに会うのも彼女の気持ちを揺さぶってしまうだろうからと俺たちは遠慮したのだ。
「んじゃ、酒場で飯にすっか」
「そうだな」
俺が少しばかりエルナの心配をしていると、それを見抜いたのか、ミハエルが声をかけてきた。
「心配すんなよ、ルカ。エルナなら大丈夫だろ。あいつは意外とつえー女だよ」
そう言ってニカっと笑った。
「はは。そうだな。ていうか、ミハエルは随分エルナに詳しいな?」
少し揶揄い気味にそう言うとミハエルは眉を顰めて少し頬を赤くした。
「何言ってんだ。そういうルカこそ、フィーネとなんか初々しい感じじゃねぇかよ」
「なっ そんなわけ……」
反論しようにも、言い返せない自分がいた。
仕方ないじゃないか、女の子とあんな風に会話したことないんだから……。
くそー、ミハエルに勝てない!
「揶揄って悪かった。やめよう」
「おう、俺の勝ちだな」
「ぐぬぬ」
俺はミハエルに女の子関係の話では一回も勝てないままである。
毎回俺が先にギブアップしているのが悲しいところだ。
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ちょっぴり俺は悲しくなりつつもミハエルと酒場に向かった。
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埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
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