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第三章 新米冒険者

56 予想外の敵が出た

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 広場へ侵入した俺たちは最後の一匹を目指して歩き始めた。
 大きな岩や土山を避けて移動する。

 俺のミニマップではそろそろ見えるはずなのだが……。
 そこにあるのは土山や岩ばかりで最後の一匹が見当たらない。
 とはいえ、さすがにギルドマスターがいるのであからさまにこの場を探すことは出来ず、普通に探しているように進む。

 そして俺のすぐそばに赤い光点がある場所までやってきた。
 光点の位置からすると、土山の中にいることになるのだが……。

 俺が何気なく土山に近づいた瞬間、ボコリと土山の土が動いた。
 瞬間、ミハエルが俺を突き飛ばすと同時に土山から何かが飛び出し、ミハエルは弾き飛ばされる。

 土山から出てきたのは、ヴェルクフェではなかった。
 出てきたモノは体長二メートルはありそうなモンスターだった。
 全身は緑色の鱗に包まれていて、見た目はリザードマンに近い。
 しかし、顔はリザードマンの顔を平たくしたような、のっぺりとした顔だ。
 鼻の穴はあるが鼻はなく、口は顔の横まで三日月状に裂けていてグパッと開いていて鋭い牙が並んでいる。
 そして爬虫類のような縦長の瞳孔がギラギラとしていた。

 そんなモンスターが俺に向かってきていた。
 闇魔法を咄嗟にかけたが、一瞬動きが鈍っただけで効果がない。
 ヤバイ、そう思った時、俺の目の前にギルドマスターが躍り出て、モンスターに切りかかった。

 モンスターは素早く後退し、ギルドマスターの剣を躱す。
 ギルドマスターはそのままモンスターを追いかけ攻撃を連続で繰り出す。
 絶え間なく攻撃を仕掛けながらギルドマスターが叫んだ。

「お前ら今すぐここから逃げろ! これはSランクだ! 俺にも手に負えん! どれくらいもつか分からん! すぐ逃げろ!」

 俺は予想外の出来事に一瞬思考が止まりかけたが、すぐにミハエルの確認をした。
 吹き飛ばされたミハエルだったが、幸い土山にぶつかったようで、胸を抑えているが無事のようだ。
 しかしあれは致死ダメージ軽減魔法をかけていなければ死んでいたかもしれない。

 ここに至って魔法を使わないという選択肢はないので、すぐさまミハエルにハイヒールをかけた。
 しかし俺はここでミスをした。
 まずかけるべきは今Sランクモンスターと対峙しているギルドマスターで、それも発動の速いシールドをかけるべきだったのだ。

「ぐああああ!」

 その声に慌てて振り返ると、モンスターの腕が、ギルドマスターの腹を貫いていた。
 まずい。

「ルカ!」

 俺はその声にハッとした。

「ミハエル! 頼む!」
「任せろ!」

 ミハエルの頼もしい声を聞きつつ、俺はモンスターに投げ捨てられたギルドマスターにハイヒールとシールドをかけると、ミハエルに次々魔法をかけていく。

 身体強化付魔法、シールド魔法、完全無効化魔法、武器に火属性の付与。
 そこまでかけてからギルドマスターのもとへ向かう。

「ギルドマスター!」
「お前! 何してんだ! なんで逃げない! ガハッ」

 咄嗟にハイヒールをかけていたが、やはりこれでは足りていなかったようだ。
 まだ穴があいている。
 俺はすぐにグレーターヒールをかけた。
 ギルドマスターの腹に開いていた穴はみるみる塞がっていく。

 それを見たギルドマスターは大きく目を見開いている。
 何かを言いかけるギルドマスターを俺は無視して立ち上がると、ミハエルに視線を向けた。

 身体強化をかけたミハエルですらギリギリの戦いをしている。
 いや、ギリギリではない、押されている。
 むしろシールドがなければ攻撃が当たって吹き飛ばされているはずだ。


 俺も自身に魔法をかけると、ミハエルのサポートをする為に走り始めた。

 ミハエルが必死に剣でなんとかしのごうとしているがSランクは次元が違う。
 剣でモンスターの攻撃を防ぐ音も聞こえるが明らかにシールドに当たっている音もする。
 闇魔法が効かなかった相手だ、もしかしたらシールドも持たないかもしれない。
 そもそも、俺の完全無効化魔法だって効くのか?不安しかない。

 俺はミハエルに再度シールド魔法をかけた。
 そして、モンスターが避けてもミハエルには当たらない位置で氷結槍やウインドバレットを撃ち込む。

 しかし俺の魔法があたる前にモンスターはその場から跳躍して避けた。
 チラリとミハエルを見ると、大きく肩で息をしている。
 ほんの数分でそれだけ体力を持っていかれたということだ。

 モンスターがチラリと俺を見た。
 途端ゾワリとした感覚が背筋をのぼる。
 俺は咄嗟にさらにもう一回自身にシールドをかけた。

 そのすぐあと、モンスターが爆発的な速度で俺に迫り、拳を繰り出した。
 俺にかけていたシールドはその衝撃でガラスの割れるような音を立てて壊れた。
 すぐさま俺はシールドをかけなおした。

 再度モンスターが俺に拳を繰り出したが、ガインと音を立ててはじかれる。
 モンスターが苦々しいような顔をして、大きく跳躍して俺から離れた。
 そこからモンスターは様子を伺うように岩の上から見下ろしていたので、俺は視線を外さないままミハエルと合流した。

「大丈夫か?ミハエル」
「ああ、でもつえーな。今の俺じゃ勝てねえ」
「まさか俺も闇魔法をはじかれたり、シールドを一度とはいえ、打ち破られるとは思わなかった」
「まじかよ。ピンチだな、おい」
「まずいな、本当に。Sランクってあんな強いのか」
「ルカ、どうすりゃ倒せる?お前の魔法を避けたってこたー当たればやばいってことだろ?」
「多分な。しかし一番速度の速いウインドバレットを避けられた。動きを止めるか意識を逸らさないと難しい」

 俺たちがそうやって話し合っているといつのまにかギルドマスターがそばに来ていた。

「おう、坊主ども、とりあえず詳しい話はあとにして、動きを止めるか意識を逸らせばあいつを倒せるんだな?」
「はい。俺の魔法で倒せると思います」

 俺の言葉にギルドマスターはニヤリと笑った。

「よし、俺も手伝おう。見た限り俺より坊主の方が強いからな、サポート程度だろうが」
「ルカ、もう今更だし、ギルドマスターにも魔法かけようぜ。俺よりきっと強い」

 ミハエルの言葉にギルドマスターは目線はモンスターに向けたままだが疑問を浮かべていた。

「そうだな。――ギルドマスター、今からあなたの身体能力を大幅にあげる魔法や防御魔法、武器への魔法付与をします」
「は?それはどういう……いや、今はいいか。分かった。全力であいつをやってやろうじゃねぇか」

 俺はミハエルと同じ魔法をギルドマスターにもかけ、軽く説明をした。
 かなり驚いていたが、Bランク冒険者でもあるギルドマスターだ、きっとすぐに使いこなせる。

 未だこちらを見ているだけのSランクモンスター、シュタルクドラッヘ――強い竜――を見上げ俺たちは作戦を開始することになった。
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