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第二章 少年期 後編

40 コボルトの巣の殲滅

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 コボルトの後をついていくこと三十分が経った。

「お、ルカ見ろ。コボルトが洞窟に入っていったぞ」
「ああ、本当だな、あそこが巣かな」
「結構深いか? どのくらいいる?」
「えーと、ちょっと待てよ」

 俺は探索魔法を再度発動してミニマップを確認する。
 洞窟内は深いわけではなく、枝道もありはするが短く、基本的には真っ直ぐの洞穴ほらあなのようだ。
 その真っ直ぐもそう長いわけではなく五十メートルくらいだろうか。

「ほぼ真っ直ぐの洞窟で多少枝道はあるがそう深くはないな。最初の枝道に数匹いるが、後は全部奥だな。コボルトの数は結構いて、子供らしき光点を抜いて二十二匹か。これだけいれば上位種もいるだろうから、ランクで言えばDってとこかな?」
「二十二匹で上位種有りか。コボルトはまだやったことねぇからな、厳しいか?」
「どうだろうな、ミハエルの剣と、俺のスリープや支配を使えば危険はないと思うが、どうする?」

 基本的に前衛はミハエルなので、ミハエルが危険だと言うならこれは無視すべきだろう。

「いや、やろうぜ。ルカが魔法を使ってくれんなら危険はねぇだろ。もちろん俺も十分気を付けるしな」

 そう言ってミハエルが俺を見てニヤリと笑う。
 こうして信頼を寄せてくれることが俺としては非常にうれしい。
 だから俺はミハエルに拳を見せる。

「ああ、任せろ」

 ――俺とミハエルは拳を打ち合いゆっくりと地上に降りていく。





 俺たちにかかっている魔法は、現状はダメージ軽減魔法とミハエルには武器に切れ味アップの魔法だ。
 それ以外はかけていない。
 ミハエルに身体強化をかければ多分この数であってもミハエル一人で討伐は可能ではあるが、魔法に頼り過ぎるのも感覚が鈍るので良くない。
 ――俺一人なら身体強化に魔法も使わないと難しいけども。

 地上に降りたところで飛行魔法と光学迷彩を解く。
 俺は探索魔法を起動させたままにして、ミハエルを先頭にゆっくりと洞窟に向かう。

 コボルトは見張りなどは立てるほどの知能はないようで問題なく洞窟に侵入できた。
 洞窟内は光苔が生えていてボンヤリと明るくはあるが、俺たち人間にはさすがに薄暗い。
 とはいえ、ライト魔法を使うと目立ちすぎるので、俺は暗視魔法をかけた。

 魔法をかけたところでミハエルは声に出さず手をあげて俺に感謝を伝える。
 最初の枝道に数匹いることは伝えているのでそのために声を出さなかったのだ。
 通信魔法を使ってもいいが、やはりこれも油断に繋がるし、頼り切りになるのもいけないので使わないことにしている。
 ミハエルもその辺は賛成しており、全てを使わないわけではないが、最低限の方がいいだろうという見解だ。

 洞窟を進んでいると最初の枝道が出てきた。
 ここの奥に三匹コボルトがいる。
 俺はミハエルの肩を叩き、右の枝道を示して指を三本立てる。
 ミハエルはそれを見て頷き進行方向を枝道に変えた。

 できるだけ足音を立てずに進み、枝道の先、少し曲がった所まで来て壁に張り付き奥を窺う。
 ひどい臭いとガウガウとコボルトの声が聞こえている。
 どうやら彼らの食糧保存庫らしい。

 ミハエルが俺に向けて自身の喉を示してからコボルトを指した。
 それは音を消してくれという意味なので俺は了解と頷いた。

 コボルトたちがいる場所に、俺は消音魔法を展開した。
 途端に静寂が訪れる。
 それを確認したミハエルは俺に向けて頷き、そのままコボルトの集団へ躍り込んだ。

 俺はミハエルの邪魔にならないように、少し離れたまま様子を見る。
 コボルトは音がないことでパニックを起こしていたのでミハエルは危なげなく全てを倒しきった。

 残りは一番奥に全部いるので消音魔法を消した俺は苦笑しながら小声で話しかけた。

「パニック起こしてたから実力わかんなかったな」

 ミハエルも苦笑しつつ小声で返す。

「そうだな。まぁ仕方ねーな。残りはどんな感じだ?」
「残りは全部同じ所だ。枝道にはもういなくて、真っ直ぐ一番奥に十九匹と子供がいるな」
「さすがに十九匹は相手できねーな。纏めて相手できんのはせいぜい五、六匹だと思う」
「分かった、スリープとかバインド使って、俺も魔法攻撃するわ」
「おう、ああ、コボルトの上位種がいるんだよな?」
「多分だけどな。でもここはかなり大きい集団だから上位種がいると思う」
「上位種いたら置いといてくれ。やってみたい」
「分かった、いたら残しておく」

 簡単な打ち合わせをして俺たちは再び足音を立てないように歩き始めた。
 とはいえ、コボルトは鼻がいいのでばれたら即乱戦になるとは思うが、できるだけばれないようにするのも大事ではある。
 ――洞窟内はそれほど風もないのでそう簡単にはコボルトに臭いは届かないだろうけれど。

 枝道から戻って四十メートルほど進んだ所で、奥からガウガウとコボルトの声が聞こえ始めた。
 風はないとはいえ、そろそろあちらに俺たちの臭いがバレる距離だろう。

 ミハエルが俺を見て自身を指さして奥を指さし、俺を指さし、地面を指して奥を指した。
 これは、俺が先に行くから、ルカは遅れてこいという意味だ。
 要はミハエルを囮にして俺が後方から安全に魔法をかけるということになる。

 俺はそれに頷いた。
 ミハエルが剣を持ったまま奥に走っていく。
 すぐにコボルトの警戒の鳴き声がした。

 俺もすぐに後を追ってミハエルが戦っている方とは別の場所にいて、ミハエルに向かっているコボルトにスリープやバインドをかけていく。
 ミハエルが相手しているのは六匹だが、危なげなく戦っているので問題はないだろう。
 俺は他にまだミハエルに向かっているコボルトに向けて次々と攻撃魔法やスリープ、バインドをかけていく。

 一番奥に体格のいいコボルトが三匹いたので、あれが上位種だろう。
 三匹には闇魔法の支配をかけて、動かないように命令をしておく。

 とりあえずはミハエルは危なくはないのでスリープやバインドで動きを止めているコボルトに俺は次々と攻撃魔法を叩き込んでいく。
 暫くして上位種以外全てを倒し終え、俺とミハエルは上位種の近くへやってきた。

「ルカ、これの名前分かるか?」
「ああ、鑑定魔法かけてみる」

 そうして俺は三匹に鑑定魔法をかけ、その結果を伝えた。

「一番大きいのがコボルトリーダー、後の二匹はコボルトソルジャーらしい。リーダーがEランク、ソルジャーはFランクだな」
「へぇ。んじゃソルジャー二匹とやって、最後にリーダーとやってみるわ」
「分かった。それじゃ俺は少し離れてるよ」
「ああ。ありがとな」

 そうして十分に俺は離れた所でミハエルに声をかけてソルジャー二匹の支配魔法を解除した。
 途端にソルジャーはハッとして目の前にいるミハエルに気づくと攻撃を開始した。

 ミハエルは常に相手が自分の死角に入らないように動き続け、攻撃を繰り返す。
 ソルジャー二匹も拙いながらも連携をしつつ攻撃をしているが、やはりミハエルの方が格は上のようだ。
 ミハエルが剣を振るごとに、コボルトソルジャーの体からは血が流れ落ちる。
 十分もしないうちに最初の一匹がミハエルによって倒され、そのすぐ後にもう一匹も倒された。

 ミハエルは強い相手と戦うごとに剣筋が洗練され強くなっていく。
 本当に相棒として心強い相手だ。
 そんなことを考えながらミハエルを見ていると、ミハエルから声がかかった。

「おし、んじゃルカ、最後のリーダーを解放してくれ。いつでもいいぜ」
「分かった。一応気をつけろよ」
「おう」

 そうして俺は最後のコボルトリーダーの支配を解除した。
 支配を解除されたコボルトリーダーはハッとするところまではソルジャーと変わりなかったが、ミハエルに気づくと牙を剥いた。
 ただそれでもすぐに突っ込むことはせずに錆びた剣を握りなおしゆっくりと動き始める。
 ――ミハエルとの距離を掴むように、隙を窺うように。

 さすがにリーダーともなると少しは違うようだ。
 ミハエルもじりじりと円を描くように動き、コボルトリーダーの隙を窺っている。

 ただやはりコボルトリーダーが焦れたのか、錆びた剣を振り上げミハエルに攻撃を仕掛けた。
 ミハエルは錆びた剣を受け止めて左に流すと、そのままの勢いで撫でるようにコボルトリーダーを切る。
 さすがに致命傷とはいかなかったようではあるが、コボルトリーダーはギャンと鳴き声をあげると胸元から腹にかけて斜めの赤い筋が出来上がった。

 ミハエルは油断なく剣を構えているが、コボルトリーダーは痛みによる怒りでめちゃくちゃに剣を振るっている。
 簡単にみえて逆に剣筋のない攻撃は厄介だったりもするのだ。
 攻撃を食らうことはないが、どこへ次剣がいくか読みにくいので攻撃をしにくい。

 だがそれは、相手との力量が同じ場合の話だ。
 ミハエルとコボルトリーダーではミハエルの方が強い。
 ミハエルは静かにコボルトリーダーの攻撃を躱し、受け流しながらも確実に隙を狙っている。

 コボルトリーダーはめちゃくちゃに攻撃していたがゆえに体力が尽き始めている。
 舌を出してハァハァとしながら剣を振っていてその攻撃速度はかなり落ちていた。
 もうそこまでくれば後はミハエルの独擅場だ。
 ミハエルはここだと、攻勢を強め、あっという間にコボルトリーダーの剣を弾き、コボルトリーダーの前面ががら空きになったところに強く剣を突き立てた。

 剣は見事にコボルトリーダーの心臓部を突き刺しており、ミハエルが軽く捻るとコボルトリーダーは血を吐いてこと切れた。
 長いようでいてたった二十分の間の出来事だ。

 俺はミハエルに声をかけてねぎらった後、部屋の隅に開いた穴へ向かった。
 そこにはコボルトの子供がいるのだ。
 まだ生まれたばかりなのだろう、小さなコボルトが穴の中に五匹いる。
 俺はウインドカッターで小さなコボルト全てを殺し、土魔法で埋めてその場を後にした。

 返り血を浴びたままのミハエルに浄化魔法をかけると、ミハエルから声がかかった。

「ルカ、大丈夫か?」
「ん?何が?」
「いや、まぁ無理すんなよ」

 ミハエルの言葉に俺はああ、と気づき、そんな優しい相棒に苦笑した。
 俺が未だに二足歩行の特に小さな子供を殺すのに抵抗を覚えているからだ。
 ミハエルにそれを言ったわけではないが、どうも顔に出てしまっているらしい。

「ありがとな、ミハエル」

 そうして俺たちはコボルトの死骸を埋めると、その後夕方近くまでゴブリンなどを狩り家に戻ることになった。
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