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第一章 幼少期
19 もう振り返らない
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俺は震える手にサバイバルナイフを持ち、ゴブリンの前に立った。
ゴブリンは俺に視線を送ることもなく、最初と同じようにピクリともせずに立っている。
マネキンのようだが、彼らの胸は上下し、ちゃんと呼吸をしている。
……生きているのだ。
俺はこれからそんな生きているゴブリンを殺す。
命を奪い取るのだ。
……大丈夫、俺はやれる。やれるはずだ。俺は冒険者になるんだから。
俺よりも背は高く百四十センチくらいはあるだろうか、そんなゴブリンを見上げ、サバイバルナイフを向ける。
心臓は人間と同じ位置だろうか?
えっと、胸の真ん中のちょっと左、だよな?
俺の手はまだぶるぶると震えている。それでも、刃をしっかりと向けた。
一度深く深呼吸をする。ゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「やるぞ……」
俺は小さく呟いて、下から突き上げるようにして力いっぱいゴブリンの胸にサバイバルナイフを突き刺した。
身体強化をしている俺は苦労もせずに、ゴブリンの体に傷をつける。
ゾブリと肉を貫く感触、少し硬い所はきっと骨だろう。
俺は根本までサバイバルナイフを突き刺した。
ピクリともしていなかったゴブリンは口からゴボリと血を吐き出し、体はビクビクと痙攣している。
俺はゴブリンに突き刺したまま、サバイバルナイフを握った手が離せなかった。
ゴブリンの吐き出した緑色の血を浴びながらも俺は動くことができなかった。
ようやく手を離せたのは、ゴブリンが命を失い、倒れた時だった。
ゴブリンが崩れ落ち倒れても、俺は手を突き出しゴブリンを刺した時のままの恰好でぶるぶると全身が震えていた。
涙はとめどなく溢れ、止まることがない。
呼吸はヒューヒューと音を立て、少し苦しい。
俺はどのくらいそうしていただろうか、バサバサバサという音に驚き、ビクリと体を震わせた。
そこでようやく俺は手を動かせた。
ガクガクと震える手を引き戻し、俺は自分を抱いた。
強く強く自分を抱きしめ、その場で声を押し殺して泣いた。
三十分ほどそうして泣いていただろうか、俺はようやく涙を抑えることに成功した。
そして死んだゴブリンを見つめポツリと零した。
「ごめんな……」
だけど、俺はそれでやっと覚悟ができた。
冒険者になるというのは命を奪い続けることだ。
きっといつか、人間を殺すことだってしなければいけない時が来る。
この世界には盗賊や、野盗がいるのだから……。
俺の命を守るため、そして俺の守りたい者を守るためなら、殺すしかない。
前世の常識でいてはいけないんだ。
この世界の常識に慣れないといけない。
俺は深く深呼吸を繰り返し、再びサバイバルナイフを手にした。
そして、そのまま残り三体のゴブリンにも止めを刺した。
ピクリとも動かなくなったゴブリンたちを見つめ、俺は土魔法で四つの穴を掘ると、そこにゴブリンたちをそれぞれ入れた。
これは俺のただの感傷だ。
そして、俺の実験に、俺の覚悟を決めるためだけに、犠牲にしたゴブリンへの謝罪もある。
四体全てを墓に埋め、俺は手を合わせた。
これが俺の最初で最後の人型モンスターへの謝罪と祈りだ。
目を開けた俺は飛行魔法で飛び上がると、もうゴブリンたちの墓を振り返ることなく町へ向かった。
町へ向けて無言で飛んでいた俺はハッと気づいた。
――自分がゴブリンの血まみれであることに――
慌てて近くの林の中に下りる。
自分の服や手を見ると緑色の血がべったりとついている。
きっと顔や髪の毛にもついているだろう。
俺は浄化魔法を使い、汚れを全て落とした。
そして、鏡魔法を使って木の幹を鏡に変え、鏡に映った自分を眺める。
鏡には、可愛い顔をした金髪の碧い目をした男の子が映っている。
睫毛も長く、髪の毛もクセのないストレートな髪の毛だ。
俺は少しだけニヨっとしてしまう。
俺はウードにはまったく似ず、マリーそっくりに生まれたのだ。
奇跡である。奇跡といわずしてなんといおう!
今度生まれる弟か妹もぜひともマリーに似てほしいものである。
俺は自分の目元にハイヒールをかけた。
鏡の中の俺の目元は泣きすぎて真っ赤になっていたからだ。
そうして、いつもの『俺』になったところで時計を見るともうすぐ十二時になるところだった。
再度飛行魔法で飛び上がると、今度こそ町へ向けて移動した。
心の深い深い奥底に、ゴブリンを殺した罪悪感を押し込め蓋をする。
もう俺には迷いはない。
泣くのも苦しむのも悩むのも、あれでおしまいだ。
――さぁマリーのもとへ帰ろう。ママが俺の帰りを待っている。
ゴブリンは俺に視線を送ることもなく、最初と同じようにピクリともせずに立っている。
マネキンのようだが、彼らの胸は上下し、ちゃんと呼吸をしている。
……生きているのだ。
俺はこれからそんな生きているゴブリンを殺す。
命を奪い取るのだ。
……大丈夫、俺はやれる。やれるはずだ。俺は冒険者になるんだから。
俺よりも背は高く百四十センチくらいはあるだろうか、そんなゴブリンを見上げ、サバイバルナイフを向ける。
心臓は人間と同じ位置だろうか?
えっと、胸の真ん中のちょっと左、だよな?
俺の手はまだぶるぶると震えている。それでも、刃をしっかりと向けた。
一度深く深呼吸をする。ゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「やるぞ……」
俺は小さく呟いて、下から突き上げるようにして力いっぱいゴブリンの胸にサバイバルナイフを突き刺した。
身体強化をしている俺は苦労もせずに、ゴブリンの体に傷をつける。
ゾブリと肉を貫く感触、少し硬い所はきっと骨だろう。
俺は根本までサバイバルナイフを突き刺した。
ピクリともしていなかったゴブリンは口からゴボリと血を吐き出し、体はビクビクと痙攣している。
俺はゴブリンに突き刺したまま、サバイバルナイフを握った手が離せなかった。
ゴブリンの吐き出した緑色の血を浴びながらも俺は動くことができなかった。
ようやく手を離せたのは、ゴブリンが命を失い、倒れた時だった。
ゴブリンが崩れ落ち倒れても、俺は手を突き出しゴブリンを刺した時のままの恰好でぶるぶると全身が震えていた。
涙はとめどなく溢れ、止まることがない。
呼吸はヒューヒューと音を立て、少し苦しい。
俺はどのくらいそうしていただろうか、バサバサバサという音に驚き、ビクリと体を震わせた。
そこでようやく俺は手を動かせた。
ガクガクと震える手を引き戻し、俺は自分を抱いた。
強く強く自分を抱きしめ、その場で声を押し殺して泣いた。
三十分ほどそうして泣いていただろうか、俺はようやく涙を抑えることに成功した。
そして死んだゴブリンを見つめポツリと零した。
「ごめんな……」
だけど、俺はそれでやっと覚悟ができた。
冒険者になるというのは命を奪い続けることだ。
きっといつか、人間を殺すことだってしなければいけない時が来る。
この世界には盗賊や、野盗がいるのだから……。
俺の命を守るため、そして俺の守りたい者を守るためなら、殺すしかない。
前世の常識でいてはいけないんだ。
この世界の常識に慣れないといけない。
俺は深く深呼吸を繰り返し、再びサバイバルナイフを手にした。
そして、そのまま残り三体のゴブリンにも止めを刺した。
ピクリとも動かなくなったゴブリンたちを見つめ、俺は土魔法で四つの穴を掘ると、そこにゴブリンたちをそれぞれ入れた。
これは俺のただの感傷だ。
そして、俺の実験に、俺の覚悟を決めるためだけに、犠牲にしたゴブリンへの謝罪もある。
四体全てを墓に埋め、俺は手を合わせた。
これが俺の最初で最後の人型モンスターへの謝罪と祈りだ。
目を開けた俺は飛行魔法で飛び上がると、もうゴブリンたちの墓を振り返ることなく町へ向かった。
町へ向けて無言で飛んでいた俺はハッと気づいた。
――自分がゴブリンの血まみれであることに――
慌てて近くの林の中に下りる。
自分の服や手を見ると緑色の血がべったりとついている。
きっと顔や髪の毛にもついているだろう。
俺は浄化魔法を使い、汚れを全て落とした。
そして、鏡魔法を使って木の幹を鏡に変え、鏡に映った自分を眺める。
鏡には、可愛い顔をした金髪の碧い目をした男の子が映っている。
睫毛も長く、髪の毛もクセのないストレートな髪の毛だ。
俺は少しだけニヨっとしてしまう。
俺はウードにはまったく似ず、マリーそっくりに生まれたのだ。
奇跡である。奇跡といわずしてなんといおう!
今度生まれる弟か妹もぜひともマリーに似てほしいものである。
俺は自分の目元にハイヒールをかけた。
鏡の中の俺の目元は泣きすぎて真っ赤になっていたからだ。
そうして、いつもの『俺』になったところで時計を見るともうすぐ十二時になるところだった。
再度飛行魔法で飛び上がると、今度こそ町へ向けて移動した。
心の深い深い奥底に、ゴブリンを殺した罪悪感を押し込め蓋をする。
もう俺には迷いはない。
泣くのも苦しむのも悩むのも、あれでおしまいだ。
――さぁマリーのもとへ帰ろう。ママが俺の帰りを待っている。
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