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第21話 調査

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 翌日。
 イパーセンという名の先輩を探る、という任務を得た僕は、学院に登校した。

 では、さっそくイパーセン先輩を探し出して尾行を……とはならず。

 まずは、隷属魔法を解除しなければならない。
 そのためにも、ジンユーさんのいる一組の教室へと向かい……たかった。

「やぁ、シュテル君」
「あなたは……」

 しかし道中、イパーセン先輩の方から、声を掛けてきた。
 取り巻きの二人もセットだ。

「悪いんだけど、ちょっといいかな?」
「……構いませんよ」

 何をされるか分からないし、少し怖い。
 だけど僕は、彼の事を知るためにも、後ろをついていった。

 そうして辿り着いたのは、体育館裏。
 いじめやカツアゲの、定番ポイントだ。

 当然、朝なのでこんな場所にいる人は皆無。
 僕と先輩達だけが、人目のつかない場所にいる。

「呼び出された理由は分かるかい?」

 そう、僕は問われた。

 窮極派の件ですか? と正直に言ってもいいけど、彼等が仮に窮極派の一員だったとして、実直に答えるとも思えない。
 まぁ、ここは適当な返答でもしておこう。

「学食で、目玉焼きにタバスコをかけていたから……ですかね?」
「違う! アーギンの件だ!」

 ……ん?
 アーギンの件?
 もしかして……というか、やっぱり、彼等は窮極派なのか?

 イパーセン先輩は苛立った様子で、続ける。

「最近、アーギンは僕達と絡みたがらないんだ。どころか、距離を置いているまである。どうして、アーギンはあぁも急に変わったんだ。君が何かをしたんだろ」
「僕は何もしてないですよ」
「嘘をつくな。シュテル君とアーギンが仲良くしているところを、僕らはたびたび目撃しているんだぞ。あれだけ嫌われていたというのに、何をしたんだ?」
「いえ、僕"は"本当に何も」

 マジのガチです。

 驚くことに、図書館で戦闘した後、なぜかアーギンは友情に目覚めた。
 ほぼ確実に、リリーが何かをしたのは明らかなんだけど、何をしたのかまでは分からない。
 それよりも、

「逆に聞いてもいいですか? 先輩達とアーギンって、どういう関係なんですか?」

 我ながら、いい質問ですねぇ。

 僕が窮極派を探っていることを匂わせず、先輩達の情報だけ聞きだす。
 しかも、話を替え、質問の主導権をこちらに移す。
 自分でも、かなりいい一手だと思う。

 イパーセン先輩は、意外にも素直なのか、色々と正直に教えてくれた。

「あいつの入学以前からの、先輩後輩だよ。だから、長年仲が良かったんだ」
「僕に嫌がらせをしてたのは、その友情と関係がありますか?」
「チッ! ……あるよ。アーギン、図書委員になれなくて、ものすごく落ち込んでたんだ。しかも、それはシュテル君のせいだって。だから、彼のために、君には図書委員の座を降りて欲しかった」
「それで、脅迫したり、虫を落としたりしたんですね」
「あぁ。だが、僕らが君に最後通牒を突き付けた後、アーギンは明らかに変わっていた」

 僕を兄貴と慕い、リリーに敬称を付けて崇め……ドМに目覚めた、と。
 明らかすぎる変化だ。
 それまでギャルだった子が、夏休み明けに文学少女になる、くらいの衝撃がある。

 心底意味が分からない、という風で、イパーセン先輩は頭を抱えた。

「君とアーギンの間で、何があったんだい? なぜ君は図書委員を下りず、アーギンと仲良くやれている? どうしてだ? どうしてなんだ?」

 怒涛の疑問ラッシュ。
 嘘や演技ではなく、本当に、アーギンがどうして変わったのかを知りたいみたいだ。

 この様子からして……彼は窮極派ではないのだろう。
 本当に、アーギンの変わり様を心配しているだけみたいだ。

 ふぅ……。
 断定はできないにしても、とりあえず一安心、といったところか。

 顔に笑顔を貼り付けて、僕はそれっぽい事を答えた。

「友情の大切さに気が付いたんだよ。だから、今までの横暴な自分を悔いて、あんな態度をとっているんだ」
「ほ、本当なのか……?」

 訝しげに、首を軽く捻る。
 信じられない、という様子だ。

「まぁ、詳しい事はアーギン本人に聞いて。じゃあ、僕はやらなくちゃいけない事があるから」

 ジンユーさんに会い、隷属紋を解除しなくちゃならない。
 ホームルームまで、それほど時間もないし、早く一組に向かう必要がある。

 僕は会釈し、その場を去ろうとした。と、そのとき、

「……この学院の図書館に、真実な歴史書が保管されてることは分かった。だが、次の決行はいつにするか」
「三年や、成績優秀者の図書委員が、受付をしているときは避けよう」
「あぁ。あと、アーギンを倒したらしいあの並人(ヒューム)の小僧のと……」

 ローブのフードを深くかぶった二人組に、ばったりと出会った。

 僕は足を止め、その二人の様子をまじまじと見つめる。
 そして、彼等に対して行動するか、脳内会議を開く。

 まず第一に、彼等は見た目が怪しい。
 しかし、この学院では、意外と服装は自由らしく、変な着こなしをした生徒や、制服のコートではない別の上着を羽織った生徒もいる。
 それでも、学院内でフードを深くかぶる奴は、まずいない。
 フードをかぶるという行為は、雨避けの用途を除けば、犯罪者が顔を隠すのに使うくらいしかないからだ。

 次に、彼等は僕を見た瞬間、足を止めた。
 それどころか、数歩、後退りした。
 まるで、僕とばったり出会うのが、まずいかのようだ。

 そして最後に、会話を聞いてました。
 明らかにそれっぽい会話だ!

 疑う余地なし、以上! 閉廷ッ!

「君たち、窮極派だな!」
「まっ、まずい! 逃げろ!」
「例の奴だ! な、なんでこんなところに!」

 踵を返して、全速力で逃げ出す二人組。
 考えていたのも束の間、そんな彼等を追いかける僕。

「待てーっ!」
「くっ! ど、どうする!」
「魔法で足止めだ!」

 逃げ走る二人のうち片方は、数瞬だけ振り向き、

「《火炎(フランマ)》・《射出(イエセレ)》」

 魔術を詠唱。
 頭大もある火炎を、僕の腹部めがけて放つ。

「あぶなっ……!」

 それを横に跳ぶようにして躱すが、その隙に、もう片方の敵が詠唱を終えていた。

「《ヤナギの聖体よ》・《その下生えに期待せん》・《彼の者を止め給え》」

 その瞬間、ちらほらと生えていた雑草が急速に成長。
 伸びるやいなや、僕の両足に絡みつく。

 たかが植物。そう侮り、前に進もうとするが、まったく動けない。
 雑草は非常に強靭で、強力。足の骨を軋ませるほどだ。
 もはや、草とは思えない。
 意思のある人間が、僕の足を掴んでいるのに等しい。

「よしっ! 今だ、早く、早く!」

 逃げる二人は、追いかける僕の動きを抑えたのを確認。
 フードの下では、おそらく、してやったという風な表情を浮かべているだろう。

 だけど。
 ただでは逃がさない。
 いや、逃がせない!

「《氷(グラキエス)》・《前方(アンティー)》・《射出(イエセレ)》」

 絡みつかれていない右手を伸ばし、詠唱。
 鋭い氷の欠片を、二人のいる前方へと、高速度で射出する。

 あたれ!
 あたれッ!
 あたれ──

 ──びィッ!

 短剣で斬られたかのように、裂ける腕の布。
 そして、微量ではあるが、舞い散る血液。

 致命傷には至らないまでも、一人の男は腕に傷を負った。

「ぐっ……! はっ、ははっ! 残念だな! この程度じゃ、人は死なないぞ、小僧……ッ!」
「煽る暇はさほどないぞ! そろそろ俺の植物魔法が切れる。早く逃げ切るぞ!」

 そうして、二人は僕の前から姿を消した。

 結局、顔は見えなかったし、種族さえ分からなかった。
 分かった事と言えば、声から察するに、彼等が男である事。
 そこそこの腕前の魔法使いである事。
 体育館裏で、何か怪しい会話をしていた事。
 その三つくらいだ。

 残念ながら、あの二人に関しての情報は、ほとんど得ることは出来なかった。
 僕が吸血鬼じゃなければ、の話だけど。

「ふぅ……。結構、手強かったね……」

 魔法の効果が切れて萎びた植物を、千切らないようにするすると外し、血液の元へと歩む。
 青草の上にまぶされた血液は、非常に新鮮だ。
 しゃがみ込んで、指先に、すくいとるように付着させると、それを僕は舐めた。

「ペロ……。まっず……。いくら魔力の源になるとはいえ、果物を食べ過ぎじゃない? もっと野菜と肉を摂ったほうがいいけどなぁ……」

 吸血鬼としての本能が、つい、血をテイスティングしてしまったけど、重要な情報は手に入った。

「この香りと味、決して忘れぬぞ」
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