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第38話 敗北者

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 ……なぜだ。
 なんでなんだ……。

 俺は結果としてチップを90奪い取られていた。
 残ったのは、たった10だけ……。
 はは、完全に敗北してしまった。

 おそらく周りの人が見る俺の身体は灰になっていた。
 ……燃え尽きちまったよ……。

「大丈夫か、アベル?」

 ちょっと悲しそうな表情のキザイアさんが心配してくれた。
 ……ははは、でも俺はそんな価値ないさ。

「ははは、もう俺はダメですよ」
「気にするな。私もぼろ負けした」
「俺達向いてないですね……」
「……私もそう思う」

 キザイアさんと俺は椅子に腰掛けながら、賭場の活気を肴にエールとリンゴジュースを飲む。

「はぁ……チップが有る人達はいいですね、楽しそうで」
「……そうだな」

 キザイアさんはエールを飲むたびに頬が赤くなってゆく。
 そして紫がかった黒のポニーテールがふらふらと揺れ、紫色の瞳が細くなっていく。

 俺はそんなキザイアさんと会話をしながら、酒場の様子を見ていた。
 時間がかなり経ち、疲れが充満しているが、賭場に喜びと悲しみは途絶えない。
 誰が魔族で誰が人間なのか、それすらはっきりとしないが……みんな楽しそうだ。
 案外こういった所に平和への糸口はあるんだと思う。

「戦争が終われば……人間も魔族も仲良く出来そうですね」
「あぁ……だといいがな」

 そん何気ない時間を過ごし、かなり経った頃。
 笑顔でグルミニアが帰って来た。

「やったぞ! わしのチップは230になったぞ!」
「……ははは、すごいね」
「確かにな、アベル」

 緑の髪をなびかせるグルミニアの満面の笑みは、いつもなら可愛いと感じるのかもしれない。
 だが、今の俺達にそれは無理な注文というものだ……。

「しかし、一位は1000程らしいのじゃ」
「俺達には無理そうですね」
「最終的にはグルミニアの魔術で何とかするしかなさそうだな……」
「そういえばアマネとアニは?」

 俺はキザイアさんと傷のなめ合いをしていたせいもあってか、周りの様子はあまりわかっていなかった。
 しかし、そんなことを言った矢先に、アマネはアニを抱えてこっちに歩いてきた。

「……勝った」
「ナイスだよアマネ」

 俺は無理してアマネに微笑む。

「……はい」

 アマネが机の上に出したチップを見る。
 一枚、二枚……え!?
 その数はチップにして900!?

「えええ!? どうしたのそれ!?」
「……勝った」
「すごいではないかアマネ」

 グルミニアはアマネにぎゅっと抱き着く。
 アマネは少し嫌そうだ。

「でも、これならアレでいけるな」
「はい。アレですよね」

 アレとは――

 そう、忖度!
 俺達で全賭けしてチップを集中させる荒業だ。

 ◇◇◇

「一位は、このアマネ・ハルデンベルクだぁ!!」
「「「うおおおぉぉぉぉ!!!」」」

 少年は高らかに声を上げる。
 それに応じて酒場がものすごい喧騒に包まれる。

 こうして俺達はようやく荷物を取り戻した。
 あの後全員で全賭けをしたのだが、最終的にアマネが全てを持って行った。
 ……そういうスキルなのだろう。
 とさえ思えてくるな。

「一位は景品だけでなく、今日一日この酒場の物は飲み放題だぞ」
「……ありがとう」

 飲み放題の権利。
 それを使い、アマネは酒場の女将さんにブドウジュースを頼んだ。
 そして俺がリンゴジュースを頼み、キザイアさんはエール、そして何故かグルミニアはワインで頼んだ。

「グルミニア……飲んでいいのか?」
「大丈夫じゃ!」

 ……未成年じゃないのか?
 俺とそんなに年齢は変わらないと言っていったから、未成年のはずだけどな……。
 まぁドルイドだからいいのか?

「ま、いいか。……じゃ、かんぱーい!」
「「「かんぱーい!!」」」

 俺達はジョッキをぶつけ合い、飲み物を喉に流し込む。

「ぷはぁー! 楽しかったのう!」

 グルミニアは酒気を帯びつつアマネに抱き着く。
 そして緑の髪をこすりつけるように、アマネの肩に頬ずりする。

「お主がえむぶいぴーじゃぞ! もっと誇るのじゃ!」
「そうだよ。穏便に済んだのはアマネのおかげさ」
「……」

 アマネは役に立てたのが嬉しいのか、コップを持ったまま恥ずかしそうに下を向く。
 顔が赤いのは酒のせいではないだろう。

「……でもこういうのも悪くないのかもな」

 キザイアさんは物憂げに呟く。

「この旅が終われば私達も離れ離れになるだろうし」
「……また会えますよ」
「あぁ、わしも必ずお主らと会うぞ!」
「……うん」

 俺達は互いに見つめ合いながら、微笑む。

「お前達……嬉しい事を言ってくれるじゃないか」
「当然ですよ。だって俺達、"仲間"ですよ!」

 紫がかった黒髪に紫の瞳をした、剣士長。
 緑髪に翡翠色の瞳をした、神童と呼ばれるドルイド。
 金髪碧眼の、旧魔王の一族。
 そして、黒髪紅眼をした、魔族と人間のハーフ。

 俺達は容姿も出自も全く異なる。
 だが代わりに目的と絆がある。
 なら、俺達は間違いなく"仲間"だ――

「……そうだな。今日は飲むか!」
「おっ、キザイア! わかっとうのう!」
「キザイアさんまで!? なんでそうなるんですか!?」
「……ふふ」

 和気あいあいとした酒場での一幕。
 俺の思い出にまた一つ、最高の一日が刻まれた。

 ……しかし翌日。
 俺達は迫りくる睡魔と二日酔いに苦しみながらも、馬車に乗り込まなければならなくなった……。
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