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第13話 昼食+1
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「えぇーだから、『火』『水』『土』『風』『光』が基本的な初位魔術、または初級魔術と呼ばれる魔術だ。これに『雷』とか『氷』も加わるが……まぁ、その辺は各自で知っとけ」
髭を薄っすらと生やした先生は、適当に授業をしている。
あまり生徒がこの授業に興味が無いのは、知っているのだろう。
この授業は魔術概論。
要は魔術の基礎知識の授業だ。
実力主義な魔術師にはどうでもいい授業の一つであり、古代魔術と歴史に並んで人気の無い授業のトップスリーでもある。
「まぁでもこの辺の魔術は基礎も基礎だ。『水』なんて指先からチョロチョロと水が出るだけだ、しょぼいったらありゃしねぇ」
先生はしょぼいとか言ってるけど意味はある、と俺は思っている。
初級魔術は全然魔力を使わないし、むしろその規模が小さい所に利点がある。
水を飲むのに壁を砕く威力なんていらないし、明かりを灯すのに目をくらませるほどの眩しさはいらない。
確かに戦闘では使えないかも知れないが、生活にはとても便利なんだ。
「ただ、初位魔術は魔術的素養の低い人間にも使えるし、主婦の強い味方だ。覚えとけよ」
おっ。
良い事言うじゃん。
適当な授業する先生だけど、見直したよ。
「んー。そろそろか?」
先生は時計を見る。
すると丁度――キーン、コーン。
4限の終わりを告げる鐘が鳴った。
「おし。じゃあなお前ら」
先生は教室から出て行った。
それを見て、生徒たちは賑やかになっていく。
次は昼飯だ。
俺は今日も今日とて、昼飯を食べるために植物園に向かおうとするが――
「ちょっと待ってよ、アベル」
オリヴィアに呼び止められた。
昼食の時に呼び止められるなんて、初めてだ。
「どうしたの?」
「今日は一緒にご飯食べない? いーっつもどっかで食べてるでしょ」
「俺は別にいいけど。友達は?」
オリヴィアは結構人気者だし、彼女の周囲には人が集まる。
だからいつも友人と談笑しながらご飯を食べているし、俺なんかと昼食を一緒に過ごしていいのかな?
「今日ぐらいは大丈夫よ!」
「……そう。じゃあ……行こうか、こっちだよ」
ま、いいか。
オリヴィアも一緒にいれば楽しいしな。
かくして俺達は植物園へと向かう事となった。
が、階段を下り、校舎から出た瞬間――
「……アベル?」
突如、女の子に声を掛けられた。
透き通るような金色のツインテールに青い瞳。
背は小さく、制服の内側に着たパーカーがはみ出している。
物憂げな表情も相まって、どこか儚げな人形のようにも見える。
この美しくもかわいらしい見た目――俺は彼女を知っている。
「そうだけど、何か用かな?」
「……覚えて、ない?」
小首を傾げるとその金色のツインテールが揺れる。
「覚えてる? まぁ君の事は知ってるけど……」
彼女の名はアマネ・ハルデンベルク――
二年次の首席だ。
絶対的な強さ圧倒的な実力を手に、名実ともに最強の名を冠する存在。
俺が首席を目指すなら一番の障壁となる人物だろう。
これだけの人物だから魔術戦で見たことはあるし、勿論彼女の存在は知っている。
……だが面識は無い。
「えっと……会ったことあるかな?」
彼女は首席で、俺は最下位。
俺の事なんか歯牙にもかけていないはずだし、初めて話したと断言できる。
「……ごめん、なさい。……人違い」
そういうとハルデンベルクさんは悲しそうにその場を後にした。
……なんか悪い事をした気分だ。
でも、確かに俺の事をアベルって呼んだよな。
本当に人違いなのか?
「ハルデンベルクさんに話し掛けられるなんて凄いわね」
「確かにね。俺も意外だったよ」
「ま、取り合えず行きましょ、アベル」
オリヴィアに引っ張られる。
俺はそのまま植物園へと向かった。
◇◇◇
「お兄様! なんでオリヴィアさんがいるんでしょうか!」
「そうよアベル。なんでカレンちゃんがいるの!」
……なんとなくこうなる事は予想していた。
植物園のベンチに座る俺は、はたから見れば両手に花かも知れないが、これは俺にとって修羅場にすぎない。
「元気じゃなー。『成長』」
白衣を着た緑髪の少女――ハイトウッド先生は種を二つ投げ、軽く杖を振る。
すると種は一気に発芽し、テーブルとイスの姿に成長していく。
「……よいしょっと」
そしてハイトウッド先生は、成長しきったテーブルの上にティーセットを置き、イスに腰掛けた。
「ちょっとハイトウッド先生、優雅に見てないで止めてくださいよ」
「いや、アベルの学友と妹を見るのはわしとしても嬉しくてな、つい……ずずず」
「紅茶の飲み方、やけに汚いですね……」
「いいんじゃよ、これ酒じゃしな」
「え!?」
何故ティーカップ!?
いや、その前に何故酒!?
「学院の敷地内での飲酒は原則禁止なんじゃよ、仕方なかろう」
「飲まなければいい話なのでは……?」
紅茶に見せかけた酒を飲むハイトウッド先生と会話する間にも、俺の両脇はヒートアップしていた。
「私なんてずっとお兄様といますよ」
「教室アベルと一緒だし」
うおっ!
ついに両腕に抱き着かれた。
もはやご飯さえ食べられないんだが……。
「お兄様の身体は私の料理で出来ています」
「ぐぬぬ……」
どうやら過ごした年数もあってかオリヴィアには分が悪いようだな。
それに……腕に感じる柔らかい感触も、オリヴィアには分が悪いな。
まぁこのままオリヴィアが負けていくのを見るのは忍びないし、
「あっ、そういえば俺ダンジョンの攻略許可おりたんだけど」
ダンジョンについての話題を振った。
「それは本当かの?」
「はい。だから二人共強いし、攻略に誘おうかなって」
俺一人じゃダンジョンの攻略なんてとてもじゃないが、出来る訳ない。
でも物凄く強いカレンや、成績の良いオリヴィアがいれば話は別だ。
二人を誘わない選択肢なんて、はなから無い。
「じゃあそこで決着ってどう、カレンちゃん」
「望むところですね」
相変わらず二人はバチバチだな。
「木曜から行こうと思ってるから、よろしくね」
「はい」「もちろん」
二人は元気に返事を返す。
なんだかんだありつつも、昼食は楽しかった。
去年よりも俺の学院生活は、充実し始めていると思う。
髭を薄っすらと生やした先生は、適当に授業をしている。
あまり生徒がこの授業に興味が無いのは、知っているのだろう。
この授業は魔術概論。
要は魔術の基礎知識の授業だ。
実力主義な魔術師にはどうでもいい授業の一つであり、古代魔術と歴史に並んで人気の無い授業のトップスリーでもある。
「まぁでもこの辺の魔術は基礎も基礎だ。『水』なんて指先からチョロチョロと水が出るだけだ、しょぼいったらありゃしねぇ」
先生はしょぼいとか言ってるけど意味はある、と俺は思っている。
初級魔術は全然魔力を使わないし、むしろその規模が小さい所に利点がある。
水を飲むのに壁を砕く威力なんていらないし、明かりを灯すのに目をくらませるほどの眩しさはいらない。
確かに戦闘では使えないかも知れないが、生活にはとても便利なんだ。
「ただ、初位魔術は魔術的素養の低い人間にも使えるし、主婦の強い味方だ。覚えとけよ」
おっ。
良い事言うじゃん。
適当な授業する先生だけど、見直したよ。
「んー。そろそろか?」
先生は時計を見る。
すると丁度――キーン、コーン。
4限の終わりを告げる鐘が鳴った。
「おし。じゃあなお前ら」
先生は教室から出て行った。
それを見て、生徒たちは賑やかになっていく。
次は昼飯だ。
俺は今日も今日とて、昼飯を食べるために植物園に向かおうとするが――
「ちょっと待ってよ、アベル」
オリヴィアに呼び止められた。
昼食の時に呼び止められるなんて、初めてだ。
「どうしたの?」
「今日は一緒にご飯食べない? いーっつもどっかで食べてるでしょ」
「俺は別にいいけど。友達は?」
オリヴィアは結構人気者だし、彼女の周囲には人が集まる。
だからいつも友人と談笑しながらご飯を食べているし、俺なんかと昼食を一緒に過ごしていいのかな?
「今日ぐらいは大丈夫よ!」
「……そう。じゃあ……行こうか、こっちだよ」
ま、いいか。
オリヴィアも一緒にいれば楽しいしな。
かくして俺達は植物園へと向かう事となった。
が、階段を下り、校舎から出た瞬間――
「……アベル?」
突如、女の子に声を掛けられた。
透き通るような金色のツインテールに青い瞳。
背は小さく、制服の内側に着たパーカーがはみ出している。
物憂げな表情も相まって、どこか儚げな人形のようにも見える。
この美しくもかわいらしい見た目――俺は彼女を知っている。
「そうだけど、何か用かな?」
「……覚えて、ない?」
小首を傾げるとその金色のツインテールが揺れる。
「覚えてる? まぁ君の事は知ってるけど……」
彼女の名はアマネ・ハルデンベルク――
二年次の首席だ。
絶対的な強さ圧倒的な実力を手に、名実ともに最強の名を冠する存在。
俺が首席を目指すなら一番の障壁となる人物だろう。
これだけの人物だから魔術戦で見たことはあるし、勿論彼女の存在は知っている。
……だが面識は無い。
「えっと……会ったことあるかな?」
彼女は首席で、俺は最下位。
俺の事なんか歯牙にもかけていないはずだし、初めて話したと断言できる。
「……ごめん、なさい。……人違い」
そういうとハルデンベルクさんは悲しそうにその場を後にした。
……なんか悪い事をした気分だ。
でも、確かに俺の事をアベルって呼んだよな。
本当に人違いなのか?
「ハルデンベルクさんに話し掛けられるなんて凄いわね」
「確かにね。俺も意外だったよ」
「ま、取り合えず行きましょ、アベル」
オリヴィアに引っ張られる。
俺はそのまま植物園へと向かった。
◇◇◇
「お兄様! なんでオリヴィアさんがいるんでしょうか!」
「そうよアベル。なんでカレンちゃんがいるの!」
……なんとなくこうなる事は予想していた。
植物園のベンチに座る俺は、はたから見れば両手に花かも知れないが、これは俺にとって修羅場にすぎない。
「元気じゃなー。『成長』」
白衣を着た緑髪の少女――ハイトウッド先生は種を二つ投げ、軽く杖を振る。
すると種は一気に発芽し、テーブルとイスの姿に成長していく。
「……よいしょっと」
そしてハイトウッド先生は、成長しきったテーブルの上にティーセットを置き、イスに腰掛けた。
「ちょっとハイトウッド先生、優雅に見てないで止めてくださいよ」
「いや、アベルの学友と妹を見るのはわしとしても嬉しくてな、つい……ずずず」
「紅茶の飲み方、やけに汚いですね……」
「いいんじゃよ、これ酒じゃしな」
「え!?」
何故ティーカップ!?
いや、その前に何故酒!?
「学院の敷地内での飲酒は原則禁止なんじゃよ、仕方なかろう」
「飲まなければいい話なのでは……?」
紅茶に見せかけた酒を飲むハイトウッド先生と会話する間にも、俺の両脇はヒートアップしていた。
「私なんてずっとお兄様といますよ」
「教室アベルと一緒だし」
うおっ!
ついに両腕に抱き着かれた。
もはやご飯さえ食べられないんだが……。
「お兄様の身体は私の料理で出来ています」
「ぐぬぬ……」
どうやら過ごした年数もあってかオリヴィアには分が悪いようだな。
それに……腕に感じる柔らかい感触も、オリヴィアには分が悪いな。
まぁこのままオリヴィアが負けていくのを見るのは忍びないし、
「あっ、そういえば俺ダンジョンの攻略許可おりたんだけど」
ダンジョンについての話題を振った。
「それは本当かの?」
「はい。だから二人共強いし、攻略に誘おうかなって」
俺一人じゃダンジョンの攻略なんてとてもじゃないが、出来る訳ない。
でも物凄く強いカレンや、成績の良いオリヴィアがいれば話は別だ。
二人を誘わない選択肢なんて、はなから無い。
「じゃあそこで決着ってどう、カレンちゃん」
「望むところですね」
相変わらず二人はバチバチだな。
「木曜から行こうと思ってるから、よろしくね」
「はい」「もちろん」
二人は元気に返事を返す。
なんだかんだありつつも、昼食は楽しかった。
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