上 下
8 / 12

7:伯爵令嬢の改心

しおりを挟む
「それも、かなり悪いです」

反省した。
私は、とばっちりなんかじゃない。

私の中にも同じだけ身勝手で醜い心があったから、選ばれたのよ。

でも今はレオン殿下に謝る時じゃない。
今は、反省の意味も込めて伝えたい。

だって三百才越えの魔女にマークされたまま生きていけるわけないもの。
許して貰って、ご機嫌もとっておかないと。

死活問題よ。

「殿下のお気持ちもわかります。信頼していた人に、家族としても、王族としても、裏切られたとお感じになられたことでしょう」
「……ああ」

幸い、本当に不幸中の幸いとして、レオン殿下は私の話を真摯に聞いてくれている。
今がチャンス。
今を逃せば、もう、地獄へまっしぐら……かもしれない。

「それとは別に、やはり殿下は、女性に向かって言ってはいけない言葉をぶつけてしまったのです」
「……だよな」

私の顔だからわかる。
レオン殿下は今、猛烈に後悔していると。

「あちらも欲をかいたかもしれません。でも女性です。それなのに『本当』は『皺くちゃ婆』だなんて、言葉の刃もいいところです」
「……ああ」
「刃だって一本じゃありません。百本、千本、それはもう雨の如く降り注ぐ何億本もの刃のようなものです」
「……そんなに……」
「刃と言うか、槍、でしょうか。まあどちらでもいいですけれど」
「とにかく、男が考えるよりずっと深刻な暴言だったと」
「そうです」
「言ってくれてありがとう。僕は、呪われて当然だ」

レオン殿下が私の顔をして、少し、涙ぐんでいる。
素直に聞いてくれて、本当によかった。

「レオン殿下。おわかりいただけたのでしたら、どうか魔女様にお詫びしてください」

私の言葉は王族のプライドを傷つけるかもしれない。
でも、それがどうしても必要なことだ。

「魔女様は傷ついておいでです」
「……」
「この国の建国に携わり、ずっと王家を守って下さった方です」
「……」
「きっと欲などではなく、本当に、殿下を愛していらっしゃったのだと思いますよ」
「しかし年齢差が……」
「殿下」

話を聞いてくれている今がチャンスだ。
怯むものか。

「殿下、こうは考えられませんか?魔女様が既に人間を越えた存在であるなら、魔女様の三百才は、私たち人間の三十才くらいかもしれません」
「え?」
「千年生きるなら、それこそ私くらいの年齢と同じ成長具合なのかもしれません」
「……それは」
「不用意に王族の男性の心を惑わさないように、或いは、人間としての年月とのギャップに王族の皆様が混乱されないように、気遣ってお婆ちゃんでいてくれたのかもしれません」
「……考えていなかった」
「ぜひ、考えてみてください」

それは勝手な妄想だけど……

私はね、王子様。
王子様なら誰でもよかったんですよ。
田舎貴族のハートフォード伯爵家のお財布や地位がちょっとでもましになるなら、そのチャンスを逃したくなかったんです。

レオン殿下に愛する人がいるのなら、私は身を引きます。
私は愛していないのですから。

そして……

「魔女様は、本当に、レオン殿下に恋をしてしまったから、初めて『本当の姿』に戻ったのかもしれません」

この可能性は、あるじゃないですか。
だったら、私の役目は、決まっているじゃないですか。

「謝りに行きましょう。レオン殿下、心からの謝罪を、魔女様にお伝えしてください」
「リリアン……」
「そうすれば、呪いを解いてくれるかもしれません。だって、我を忘れる程レオン殿下を愛したその心が、意地悪なわけないじゃないですか」

目の前の私、レオン殿下が入っている私は、見慣れない表情になって力強く頷いた。

ああ、これが高貴な方の正義感なんだ。綺麗だわ。
そんなふうに感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

人間、平和に長生きが一番です!~物騒なプロポーズ相手との攻防録~

長野 雪
恋愛
降ってわいた幸運によって、逆に命を縮めてしまった前世アラサーの橘華は自分がいわゆるファンタジー世界の子爵令嬢リリアンとして転生したことに気づく。前世のような最期を迎えないよう、齢3歳にして平凡かつ長生きの人生を望む彼女の前に、王都で活躍する大魔法使いサマが求婚に現れる。「この手を取ってもらえなければ、俺は世界を滅ぼしてしまうかもしれない」という物騒なプロポーズをする大魔法使いサマと、彼の物騒な思考をどうにか矯正して、少しでも平穏な生活を送りたい転生令嬢の攻防録。※R15は保険。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

『絶対に許さないわ』 嵌められた公爵令嬢は自らの力を使って陰湿に復讐を遂げる

黒木  鳴
ファンタジー
タイトルそのまんまです。殿下の婚約者だった公爵令嬢がありがち展開で冤罪での断罪を受けたところからお話しスタート。将来王族の一員となる者として清く正しく生きてきたのに悪役令嬢呼ばわりされ、復讐を決意して行動した結果悲劇の令嬢扱いされるお話し。

完結 俺に捧げる至宝はなんだと聞かれたので「真心です」と答えたら振られました

音爽(ネソウ)
恋愛
欲深で知られる隣国の王子と見合いした王女。 「私の差し上げられる至宝は真心」と答えたら怒って帰国してしまった。 後に、その真心というのは拳大の宝石であると気が付いた王子は……

処理中です...