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7:伯爵令嬢の改心
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「それも、かなり悪いです」
反省した。
私は、とばっちりなんかじゃない。
私の中にも同じだけ身勝手で醜い心があったから、選ばれたのよ。
でも今はレオン殿下に謝る時じゃない。
今は、反省の意味も込めて伝えたい。
だって三百才越えの魔女にマークされたまま生きていけるわけないもの。
許して貰って、ご機嫌もとっておかないと。
死活問題よ。
「殿下のお気持ちもわかります。信頼していた人に、家族としても、王族としても、裏切られたとお感じになられたことでしょう」
「……ああ」
幸い、本当に不幸中の幸いとして、レオン殿下は私の話を真摯に聞いてくれている。
今がチャンス。
今を逃せば、もう、地獄へまっしぐら……かもしれない。
「それとは別に、やはり殿下は、女性に向かって言ってはいけない言葉をぶつけてしまったのです」
「……だよな」
私の顔だからわかる。
レオン殿下は今、猛烈に後悔していると。
「あちらも欲をかいたかもしれません。でも女性です。それなのに『本当』は『皺くちゃ婆』だなんて、言葉の刃もいいところです」
「……ああ」
「刃だって一本じゃありません。百本、千本、それはもう雨の如く降り注ぐ何億本もの刃のようなものです」
「……そんなに……」
「刃と言うか、槍、でしょうか。まあどちらでもいいですけれど」
「とにかく、男が考えるよりずっと深刻な暴言だったと」
「そうです」
「言ってくれてありがとう。僕は、呪われて当然だ」
レオン殿下が私の顔をして、少し、涙ぐんでいる。
素直に聞いてくれて、本当によかった。
「レオン殿下。おわかりいただけたのでしたら、どうか魔女様にお詫びしてください」
私の言葉は王族のプライドを傷つけるかもしれない。
でも、それがどうしても必要なことだ。
「魔女様は傷ついておいでです」
「……」
「この国の建国に携わり、ずっと王家を守って下さった方です」
「……」
「きっと欲などではなく、本当に、殿下を愛していらっしゃったのだと思いますよ」
「しかし年齢差が……」
「殿下」
話を聞いてくれている今がチャンスだ。
怯むものか。
「殿下、こうは考えられませんか?魔女様が既に人間を越えた存在であるなら、魔女様の三百才は、私たち人間の三十才くらいかもしれません」
「え?」
「千年生きるなら、それこそ私くらいの年齢と同じ成長具合なのかもしれません」
「……それは」
「不用意に王族の男性の心を惑わさないように、或いは、人間としての年月とのギャップに王族の皆様が混乱されないように、気遣ってお婆ちゃんでいてくれたのかもしれません」
「……考えていなかった」
「ぜひ、考えてみてください」
それは勝手な妄想だけど……
私はね、王子様。
王子様なら誰でもよかったんですよ。
田舎貴族のハートフォード伯爵家のお財布や地位がちょっとでもましになるなら、そのチャンスを逃したくなかったんです。
レオン殿下に愛する人がいるのなら、私は身を引きます。
私は愛していないのですから。
そして……
「魔女様は、本当に、レオン殿下に恋をしてしまったから、初めて『本当の姿』に戻ったのかもしれません」
この可能性は、あるじゃないですか。
だったら、私の役目は、決まっているじゃないですか。
「謝りに行きましょう。レオン殿下、心からの謝罪を、魔女様にお伝えしてください」
「リリアン……」
「そうすれば、呪いを解いてくれるかもしれません。だって、我を忘れる程レオン殿下を愛したその心が、意地悪なわけないじゃないですか」
目の前の私、レオン殿下が入っている私は、見慣れない表情になって力強く頷いた。
ああ、これが高貴な方の正義感なんだ。綺麗だわ。
そんなふうに感じた。
反省した。
私は、とばっちりなんかじゃない。
私の中にも同じだけ身勝手で醜い心があったから、選ばれたのよ。
でも今はレオン殿下に謝る時じゃない。
今は、反省の意味も込めて伝えたい。
だって三百才越えの魔女にマークされたまま生きていけるわけないもの。
許して貰って、ご機嫌もとっておかないと。
死活問題よ。
「殿下のお気持ちもわかります。信頼していた人に、家族としても、王族としても、裏切られたとお感じになられたことでしょう」
「……ああ」
幸い、本当に不幸中の幸いとして、レオン殿下は私の話を真摯に聞いてくれている。
今がチャンス。
今を逃せば、もう、地獄へまっしぐら……かもしれない。
「それとは別に、やはり殿下は、女性に向かって言ってはいけない言葉をぶつけてしまったのです」
「……だよな」
私の顔だからわかる。
レオン殿下は今、猛烈に後悔していると。
「あちらも欲をかいたかもしれません。でも女性です。それなのに『本当』は『皺くちゃ婆』だなんて、言葉の刃もいいところです」
「……ああ」
「刃だって一本じゃありません。百本、千本、それはもう雨の如く降り注ぐ何億本もの刃のようなものです」
「……そんなに……」
「刃と言うか、槍、でしょうか。まあどちらでもいいですけれど」
「とにかく、男が考えるよりずっと深刻な暴言だったと」
「そうです」
「言ってくれてありがとう。僕は、呪われて当然だ」
レオン殿下が私の顔をして、少し、涙ぐんでいる。
素直に聞いてくれて、本当によかった。
「レオン殿下。おわかりいただけたのでしたら、どうか魔女様にお詫びしてください」
私の言葉は王族のプライドを傷つけるかもしれない。
でも、それがどうしても必要なことだ。
「魔女様は傷ついておいでです」
「……」
「この国の建国に携わり、ずっと王家を守って下さった方です」
「……」
「きっと欲などではなく、本当に、殿下を愛していらっしゃったのだと思いますよ」
「しかし年齢差が……」
「殿下」
話を聞いてくれている今がチャンスだ。
怯むものか。
「殿下、こうは考えられませんか?魔女様が既に人間を越えた存在であるなら、魔女様の三百才は、私たち人間の三十才くらいかもしれません」
「え?」
「千年生きるなら、それこそ私くらいの年齢と同じ成長具合なのかもしれません」
「……それは」
「不用意に王族の男性の心を惑わさないように、或いは、人間としての年月とのギャップに王族の皆様が混乱されないように、気遣ってお婆ちゃんでいてくれたのかもしれません」
「……考えていなかった」
「ぜひ、考えてみてください」
それは勝手な妄想だけど……
私はね、王子様。
王子様なら誰でもよかったんですよ。
田舎貴族のハートフォード伯爵家のお財布や地位がちょっとでもましになるなら、そのチャンスを逃したくなかったんです。
レオン殿下に愛する人がいるのなら、私は身を引きます。
私は愛していないのですから。
そして……
「魔女様は、本当に、レオン殿下に恋をしてしまったから、初めて『本当の姿』に戻ったのかもしれません」
この可能性は、あるじゃないですか。
だったら、私の役目は、決まっているじゃないですか。
「謝りに行きましょう。レオン殿下、心からの謝罪を、魔女様にお伝えしてください」
「リリアン……」
「そうすれば、呪いを解いてくれるかもしれません。だって、我を忘れる程レオン殿下を愛したその心が、意地悪なわけないじゃないですか」
目の前の私、レオン殿下が入っている私は、見慣れない表情になって力強く頷いた。
ああ、これが高貴な方の正義感なんだ。綺麗だわ。
そんなふうに感じた。
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