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1:迷子の田舎令嬢

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「ええ?ここ何処なの?」

お城で迷子になった。
広すぎて、もう意味がわからない。

とにかく来た通りに戻っているつもりなのに、ひたすらに美しい廊下を歩き続けている。
進んでいるのか、戻っているのか、西か東か、北か南かも、わからない。

「せめて窓があればなぁ……」

田舎暮らしの私には、お日様さえ見れば時間がわかるという、ありふれた特技が備わっている。
ところがお城の中へ中へと歩いて来てしまったみたいで、もう、窓なんてない。

まあ、歩く分には、お城見物もできていいけれどね。
問題は一生ここから出られずに、行方不明者になってしまうということよ。

私はリリアン・ハートフォード伯爵令嬢。
建国三百周年の記念の祝宴というビックイベントでなければ王城になんて招かれない、ド田舎貴族。
貴族の顔見知りなんて、家族と少ない親戚以外、ほとんどいない。

最悪、侵入者と疑われる危険がある。

「ひぃ~」

自分を茶化して震え上がったりしないと、やってられない。
玄関広間までの壮麗な庭園で、お庭にハートフォード伯爵邸が十個か二十個入りそうって燥いでいた数時間前が懐かしい。

「ああっ、もう!」

埒が明かない。
私は早足をもっと速くする。

つまり小走り。

なんとしてもお城から脱出したい。

そして最初の角を曲がったその時。


ドンッ!


「きゃあっ!」
「うわっ」

大変!
誰かとぶつかってしまったみたい。

「ごっ、ごめんなさい!」

しかも、けっこう体の大きな、しかも男性だったようで、私は見事に尻もちをついた。

「い、たぁ……。ん?」

突如、凄まじい違和感が私を襲う。

「……ん?んん?」

お尻は痛い。
ところで、さっきから私の声が、なんか変。

それはともかくとして、のそりと体を起こした瞬間。

「…………え?私?」

鏡?
でも鏡にしては、姿勢が違いすぎない?

あと私の声が変。

「ど、どうして……!?」

目の前の、尻もちをついた姿勢で足をガバッと開いた私が声を洩らした。

行儀悪く驚愕している様子。
私も驚愕中。

とりあえず、手振りで足を閉じるように促しておく。
幸い、ふんだんなドレスの襞がしっかりと足を覆っていてくれていたおかげで、姿勢以外に恥ずかしい思いはしないで済んだけど……

「あ、ああ。すまない」

行儀の悪い私が、私の声で、私に謝る。
すると、はしたない姿勢を正す私を見ている私はいったい……

「あ。あ。あ」

発声。
確認終了。

やっぱり私の声じゃないわ。低いし。

目の前には、困惑しつつ背筋をのばす私。
そんな私ではない目の前の私が、気まずそうに目を逸らした。

「すまない。僕のせいだ。どうやら、僕と君は体が入れ替わってしまったらしい」
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