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4:奇跡の愛(レオナルド視点)

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「ずっとあなたをお慕いしておりました。イザベラ様、僕の命を捧げます。どうか、僕と結婚してください」

神の奇跡によって不治の病を克服した僕に、恐いものはない。

アリシアのことは愛していた。
でもそれは、身の程を弁えた結婚相手の中でという意味だ。

家柄も性格もよかった。
可愛らしく、清楚で、非の打ちどころのない婚約者だった。

でも神様は僕に人生を返してくれた。
たとえアリシアが看病で倒れようとも、僕を生かしてくれた。

だから、僕がアリシアと過ごす時期はもう終わったんだ。

この尊い命を、奇跡を。
僕は大切にしたい。

奇跡の生還は社交界で瞬く間に噂になった。
訪問客はこの奇跡にあやかろうとひっきりなしに訪れた。

その中には、アリシアが代わりに病を引き取ってくれたと言う人もいた。
余計なお世話だ。奇跡に水を差さないでほしい。

絶世の美女と謳われるイザベラ・ド・モンフォール侯爵令嬢は聡明な才女と有名だった。
今の王子がまだ幼児ではなく同世代であったなら、絶対に妃に選ばれたはずだと専らの噂だ。

「あなたが奇跡の伯爵令息ですね」

美しい彼女は僕に煌びやかな微笑みを向けてこう続けた。

「勿論、喜んで」

こうして僕はモンフォール侯爵家に婿に入ることになった。
それでアリシアのことを煩く言う数少ない連中も口を噤んだ。

神に祝福された僕の人生は今からが本番だ。

「ところで、あなたの前の婚約者は絶対に結婚式には呼びません」
「もちろんです。もう終わったことです。僕はあなただけを愛しているんです」
「それもそうだけど、病気をうつされたら嫌だもの」

アリシアが看病疲れで体を壊し、今では寝たきりになってしまっているというのは聞いている。
献身的な婚約者だったことは事実で感謝もしている。
それでも病気の妻なんて跡継ぎを産めないのだから婚約を続ける理由はなかった。

侯爵家の親戚になれば僕の家も格が上がる。
全てはいい方へと変わった。

「その通りですね。本当に辛かった」
「あなたが治ったのは奇跡です。神様に選ばれた人だわ」
「愛しています、イザベラ様」
「愛してるわ、レオナルド。夫婦になるのだから、これからはもっと親しく呼んでほしいわ」
「そうですね……そうだね、僕の可愛いイザベラ」

最高だ。

モンフォール侯爵家は王家とも親交がある。
僕はそのために再教育を受けた。僕の人生は各段に素晴らしいものになった。

アリシアとあのまま結婚していたらと考えると、恐い。
震えてしまう。

今思えばあの不治の病もアリシアと婚約したからかもしれない。

他人を不幸にする呪いでもかけられているんじゃないか?
それとも、もしかして、あの病自体アリシアの呪いだったんじゃ……

「何を考えているの?」
「……なんでもないよ」

そうだ。
もう過ぎた事。

アリシアは過去。

僕はイザベラと幸せに生きていく。
そしていつか侯爵位を継ぎ、王家とも親交を深めて歴史に名を残すのだ。

そうだ。

僕とイザベラの間に娘が生まれたら、それこそ、この国のプリンセスになるかもしれない。
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