勇者召喚されたのは俺で、魔王召喚されたのも俺？

第一章 アユリンの街

その頃：魔王国の議論

魔王国、リーブヴェンでは異世界から召喚した魔王の代わりを鮮血の皇、大輪の皇、創建の皇、支配の皇の四皇位の家系から選ぼうとしていた。
魔王城の円卓の間でピリピリとした雰囲気の話し合いが始まった。

「私は支配の皇が相応しいと思うわ。魔王においての素質で言えば、絶対的な支配が重要でしょ？だったら、支配の皇のアミュ家から出すのが最も最適だと考えるわ」
そう言うのは現大輪の皇であるローズマリア・ズジィーナ。
大輪の皇の家系は四皇位の中で最も攻撃魔法を得意としてきた。
迫力があり、地上や空中に大輪の花のような魔法を放つことからその名がついたと言われている。

「俺は反対だな。長年魔王は創建の皇のガレット家がその座について来た。ここは最も伝統ある我が家から出すべきだ」
ローズマリアに反論したのは現創建の皇であるハイナ・ガレットだ。
創建の皇の家系は建築魔法を得意とし、城壁や魔王城、城下町の設計まで行っている。
五代前からずっとガレット家が魔王の座についている。

「私はハイナさんの意見に反対します。確かにガレット家は長年魔王の座について来ました。しかし、先代の魔王は勇者に滅ぼされた事をお忘れですか？リーブヴェン始まって以来の大事件でしたね。それもガレット家の者でしたね。そこで、私達はもっと強力な魔王を誕生させようとして異世界から魔王召喚をしようとして失敗しているのです。ここは確実に強い者を選ぶべきです。この際、伝統など吐き捨ててしまった方がよろしいかと」
ハイナに対して嫌味をぶつけながら演説するのは現鮮血の皇のヨハン・ミルビィンガ。
鮮血の皇の家系は剣術を得意とし、戦場においては最も異彩を放つ存在だ。

ヨハンはガレット家を毛嫌いしていた。
代々ミルビィンガ家の家訓として魔王なら民を守る御剣となりて、魔王に仕えるならば魔王の一振りの剣となってきた。
先代の魔王にもその家訓をしっかりと守っていた。
しかし、先代の魔王エルヴアルト・ガレットはその家訓を否定した。
ガレット家が史上最強だと言って建築魔法のみを優遇した。
その為、ヨハンはガレット家に仕えることを好ましく思っていない。

「あぁ？ヨハン何が言いたいんだ。先代が弱かったとでも？」
「違うんですか？私は事実を言ったつまりなんですけどね」
ヨハンの演説にイラつきを抑えられなかったのかハイナは声を荒げて、ヨハンの胸倉を掴んだ。
それに対してヨハンは冷静に言った。
「いい加減にしろよ！魔王に選ばれない当てつけか！ミルビィンガ家は長い歴史の中で一度も選ばれてないんだもんな！」
「なっ！今はそんな事関係ないでしょう。この議論の場で関係ない事持ち出さないでください」
煽るように言うハイナにヨハンは慌てたように言った。

「まぁまぁ、二人共落ち着いて。話し合いを再開しようよ」
ハイナにとヨハンのバチバチの雰囲気にのんびりとした声で言ったのは現支配の皇であるススメート・アミュ。
アミュ家は冠している皇の名の通り代々、支配魔法や精神魔法を使う。
しかし、今代の支配の皇は性格的におっとりして優しく、とてもそんな魔法を使う家系だとは思えない。

「ですが！「だが！」」
「息ピッタリだね」
ハイナとヨハンはススメートの言葉に息を揃えたかのように同時に言った。
それをススメートはおっとりと面白そうに二人を見つめて笑った。
「こいつとか？やめろ、虫唾が走るわ」
「それはこっちのセリフです。わざとなんですか？」
胸ぐらを掴み掛かりそうな勢いで言い合っていく。
それをローズマリアは呆れながら見ていた。

「はぁ、男ってのはなんでこうなの？もう、そんなに喧嘩が好きなら勇者倒した方が魔王になるで良いんじゃないの？」
「なにそれ？面白そう」
ローズマリアが愚痴のように溢した言葉にススメートの興味は移った。

「でしょ？言ってたじゃないヨハン、確実に強い者が魔王になるべきだって。これなら、勇者も消せるし、ヨハンが思う魔王の最低ラインは超えるんじゃないの？」
「まぁ、確かに、そう、ですね」
ローズマリアがヨハンに向かって言うと、ヨハンは歯切れが悪そうに言った。
「俺はそれで構わないぞ。面白そうだし、何よりこいつに俺のことを否が応でも認めさせるのは心地良さそうだからな」
ハイナはヨハンを一瞥すると、ニヤっと怪しい笑みを浮かべた。

「じゃあ、それで決定だね。僕はどっちがなっても支えるから安心して！」
「ん？ススは参加しないのか？それに、ローズは参加しないとは言っていないだろ」
「あ、安心して。私はその喧嘩に参加しないわよ。魔王とか面倒くさそうだし」
「僕もそういうタイプじゃないし」
「では、私とハイナ、の戦いということですか。正直、馬鹿馬鹿しいと思っていましたがこれは面白くなりそうです」
ススメートとハイナ、ローズマリアの会話でハイナと自分しか参加しないと知ったヨハンは不敵な笑みを浮かべて言った。

「それはそうと、勇者ってどこにいるのよ」
「知らないで言っていたの？ローズ」
まさかの事実にススメートは苦笑した。