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8章
図書館(3)
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どのくらい時間が経ったのかは分からない。頭の中にぼんやりとした音が響く。まるで水の中で聞く声のようにはっきりとは分からない。
意識はふわふわと浮上する。目を開けるような感覚と共に視界には何かがうっすらと映った。それは段々と鮮明なものに変わっていく。
人影のように見えていたものは、図書館の管理人とリュイだった。目を開けた私を心配そうに見つめている。
「サラ、聞こえますか?」
「サラさん、聞こえていたら返事をおねがいします」
二人の心配そうな声が聞こえ、私はゆっくりと言葉を口にした。
「声……聞こえて……いるわ」
静かな空間に安心したような雰囲気が広がる。リュイに至っては涙目になってしまっている。
「サラ、何度読んでも起きなくて……顔色も悪いし。僕どうすればいいのか分からなくて……」
リュイの目からポロポロと涙が落ちて、床に小さなシミをつくる。リュイの涙を拭おうと手を伸ばそうとするが、身体が重く腕も上がらない。
「サラさん、無理しないでください。おそらく仮死状態に近い状態だったので……」
管理人はそう言って、私の腕に手を当て応急処置のような魔法をかけていた。
「レミナさんに連絡を入れてので、もうすぐこちらに来るかと思います」
「レミナ先生には、僕からも説明します。サラはゆっくり横になっていてください」
二人の言葉に安心し、私は再び目を閉じた。フワフワとした感覚が長く続く。おでこに何か冷たいものが触れる感覚がして、私は目を覚ました。
目の前には、レミナが処置している姿があった。
「あら、起きたの? まだ寝てても良かったのに」
「レミナ、私は今どういった状態なの?」
時間が経ったからだろうか。目覚めた時よりも言葉が話しやすい。
「そうね、簡単に説明するわ。倒れたサラをリュイが見つけて、ここの管理人さんが駆け付けてサラに応急処置をしたから、今生きて言葉を話して身体が動かせる状態かしら」
「応急処置がなかったら私は死んでいたの?」
「死にはしないわよ。仮死状態のままになるだけ。ただ時間が経つと、後遺症的なものが残っていたかもしれないわ」
「仮死状態にする魔法なんてあったかしら……」
「禁書なら載っているかもしれないわ。それに遠い昔はそういった呪いのようなものも存在していたのよ」
レミナは話しながら、テキパキと処置していく。軽い診察のようなものも受け、身体の状態を再度確認される。気付いた時には、身体も動かせるようになっていた。私は、腕をまわしたり、足をパタパタと動かしたり、手をぎゅっと握って開いたりしてその状態を確かめた。
「サラ、処置は終わったけれどどう?」
「身体は動くようになっているわ。さすがレミナね」
「それは良かったわ……!私から見ても、身体に以上はないはずよ。ただ……」
「どうしたの?」
レミナは私の頭に触れ、言葉を続けた。
「サラ、あなたの記憶ちゃんと全部ある?」
「記憶……?」
レミナに言われてから、はじめて自分の記憶が抜けていることに気が付いた。意識がなくなる前の記憶がほとんど残っていない。鮮明に残っているのは昼食までの記憶だった。
「私、意識がなくなる直前の記憶が曖昧……というかこれは抜け落ちているわね」
「サラはどこまで覚えているの? 少しでも覚えていたら話して欲しいわ」
私は頭の中にある断片的なモヤがかかった記憶をレミナに話した。
「昼食の後、本棚に向かったの。そこで本を読んでいたわ。そこから先の記憶はないわね」
「その呼んでいた本が関係ありそうね。読んだ本の内容は分かる?」
「その本の内容は全く記憶にないわ……。何か古い本の手触りだったんだけれど。……あっそういえば」
「何か思い出した?」
「私、そこで誰かと話したわ。でも声も姿も何も思い出せない……」
レミナは私の話を聞いた後、傍にいた管理人に声をかけた。
「管理人さん、ここの図書館にあった本でなくなっていたり持ち出し人が分からない本ってありますか?」
「少し調べてきます!」
管理人は本の在庫状況を調べるため、パタパタと走っていった。
「サラ、間に合って良かったわ」
「レミナには感謝することばっかりね。……リュイは?さっき泣いていたの」
「リュイなら泣いているわね。あなたの後ろで」
ゆっくりと振り向くと、リュイは音も出さず静かにポロポロと涙を流していた。そんなリュイに手を伸ばし、涙を拭う。
リュイは私の手に触れ、さらに大粒の涙を流していた。
意識はふわふわと浮上する。目を開けるような感覚と共に視界には何かがうっすらと映った。それは段々と鮮明なものに変わっていく。
人影のように見えていたものは、図書館の管理人とリュイだった。目を開けた私を心配そうに見つめている。
「サラ、聞こえますか?」
「サラさん、聞こえていたら返事をおねがいします」
二人の心配そうな声が聞こえ、私はゆっくりと言葉を口にした。
「声……聞こえて……いるわ」
静かな空間に安心したような雰囲気が広がる。リュイに至っては涙目になってしまっている。
「サラ、何度読んでも起きなくて……顔色も悪いし。僕どうすればいいのか分からなくて……」
リュイの目からポロポロと涙が落ちて、床に小さなシミをつくる。リュイの涙を拭おうと手を伸ばそうとするが、身体が重く腕も上がらない。
「サラさん、無理しないでください。おそらく仮死状態に近い状態だったので……」
管理人はそう言って、私の腕に手を当て応急処置のような魔法をかけていた。
「レミナさんに連絡を入れてので、もうすぐこちらに来るかと思います」
「レミナ先生には、僕からも説明します。サラはゆっくり横になっていてください」
二人の言葉に安心し、私は再び目を閉じた。フワフワとした感覚が長く続く。おでこに何か冷たいものが触れる感覚がして、私は目を覚ました。
目の前には、レミナが処置している姿があった。
「あら、起きたの? まだ寝てても良かったのに」
「レミナ、私は今どういった状態なの?」
時間が経ったからだろうか。目覚めた時よりも言葉が話しやすい。
「そうね、簡単に説明するわ。倒れたサラをリュイが見つけて、ここの管理人さんが駆け付けてサラに応急処置をしたから、今生きて言葉を話して身体が動かせる状態かしら」
「応急処置がなかったら私は死んでいたの?」
「死にはしないわよ。仮死状態のままになるだけ。ただ時間が経つと、後遺症的なものが残っていたかもしれないわ」
「仮死状態にする魔法なんてあったかしら……」
「禁書なら載っているかもしれないわ。それに遠い昔はそういった呪いのようなものも存在していたのよ」
レミナは話しながら、テキパキと処置していく。軽い診察のようなものも受け、身体の状態を再度確認される。気付いた時には、身体も動かせるようになっていた。私は、腕をまわしたり、足をパタパタと動かしたり、手をぎゅっと握って開いたりしてその状態を確かめた。
「サラ、処置は終わったけれどどう?」
「身体は動くようになっているわ。さすがレミナね」
「それは良かったわ……!私から見ても、身体に以上はないはずよ。ただ……」
「どうしたの?」
レミナは私の頭に触れ、言葉を続けた。
「サラ、あなたの記憶ちゃんと全部ある?」
「記憶……?」
レミナに言われてから、はじめて自分の記憶が抜けていることに気が付いた。意識がなくなる前の記憶がほとんど残っていない。鮮明に残っているのは昼食までの記憶だった。
「私、意識がなくなる直前の記憶が曖昧……というかこれは抜け落ちているわね」
「サラはどこまで覚えているの? 少しでも覚えていたら話して欲しいわ」
私は頭の中にある断片的なモヤがかかった記憶をレミナに話した。
「昼食の後、本棚に向かったの。そこで本を読んでいたわ。そこから先の記憶はないわね」
「その呼んでいた本が関係ありそうね。読んだ本の内容は分かる?」
「その本の内容は全く記憶にないわ……。何か古い本の手触りだったんだけれど。……あっそういえば」
「何か思い出した?」
「私、そこで誰かと話したわ。でも声も姿も何も思い出せない……」
レミナは私の話を聞いた後、傍にいた管理人に声をかけた。
「管理人さん、ここの図書館にあった本でなくなっていたり持ち出し人が分からない本ってありますか?」
「少し調べてきます!」
管理人は本の在庫状況を調べるため、パタパタと走っていった。
「サラ、間に合って良かったわ」
「レミナには感謝することばっかりね。……リュイは?さっき泣いていたの」
「リュイなら泣いているわね。あなたの後ろで」
ゆっくりと振り向くと、リュイは音も出さず静かにポロポロと涙を流していた。そんなリュイに手を伸ばし、涙を拭う。
リュイは私の手に触れ、さらに大粒の涙を流していた。
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