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 弥生さんのお見舞いを終え、私は寮の部屋のベッドに寝ころんでいた。夏に藤野さんに出会ってから色々あったな、と思い出を振り返る。
「そういえば、あのサプリ結局どうなったんだろう……」
 私はサプリのことをふと思い出し、ベッドから起き上がりタブレットを手に取った。タブレットを指でなぞり、情報を確認していく。

 SNSやCM、その他メディア媒体などもチェックしてみたが、あのサプリに関するものは一切出てこなかった。一応確認しておこうと思い、検索欄からもサプリについて調べてみたが、こちらも情報につながるページは1つもなかった。

「やっぱり、あの記憶すらも操作されたものだったのかな」
 私はベッドの上でゴロゴロしながら、そう呟いた。
 考えても仕方がないことかもしれないが、私は気になってモヤモヤとして気分だった。

 次の日学校に行くと、珍しくまだ誰も来ていなかった。暇になり、私は長い廊下を歩きその先にある中庭に向かった。中庭の木は、茶色や黄色に葉が色付き秋を表すような雰囲気のある景色になっていた。
「葉月~! ここにいたんだ!」
 友達がこちらに向かって走ってきた。彼女は全力で走ったのか、私の近くに来た時には息切れしていて少し苦しそうだった。
「大丈夫? 息切れしているけど……」
「大丈夫! それより見て!さっきテストの結果受け取ってきたの!」
 彼女の手には1枚の紙が握られていた。その紙を私の目の前に持ってくる。
「ほら! 点数が上がったんだよ!」
「本当だ! 凄い点数上がってるね」
「でしょでしょ! あっ葉月忘れてるでしょ~?」
「覚えてるよ、喫茶店のココアだよね」
 彼女はそう! と笑顔で頷いた。本当に喫茶店のココア飲みたさにここまで頑張ったのだろうか。
 ふと、あのサプリの事を思い出し彼女に聞いてみることにした。
「あのさ、記憶を操作する睡眠剤みたいなサプリ知ってる?」
「知らないかな。眠るためのお薬って病院で貰うものでしょ?」
 彼女の答えに、やっぱり私の記憶違いなのかと思った。

「葉月、よく眠れないの?」
「違うよ。あったりするのかなって興味があっただけだよ」
 友達はフーンと言うと、私の腕を軽く引っ張った。

「それより、もうすぐ朝のホームルーム始まるよ! 怒られちゃう!」
「えっ、もうそんな時間だったの?」
 私は時間の流れの速さに驚きながら、彼女の後を追って教室に戻った。

 その日の放課後、私と友達は2人で街中を歩いていた。目的は彼女のテストの点数が上がったお祝いだ。前に行くと約束していた喫茶店に向かい、ドアを開け店内に入った。

「いらっしゃいませ~、あらこの前来てくれた子たちじゃないですか! 席はお好きなところで構いませんよ」
 この前の明るい店員さんが案内してくれた。頼むメニューは決まっていたので、そのまま彼女に注文を伝えた。
「ココア2つとプリン2つお願いします!」
 友達の元気な声に店員さんもニコニコと笑っていた。
「かしこまりました~、本当に来てくれてお姉さん嬉しいよ!」
 彼女はそう言い、注文のメモを取ってお店の奥に歩いて行った。

 今日の店内は、この前来た時よりお客さんの数が多かった。ざっと見た感じだとニセモノはいないだろうと思ったので、安心して喫茶店の雰囲気を楽しんだ。

「ご注文のお品、お持ちしました~」
 店員さんはそう言いながら、テーブルの上にココアとプリンを並べる。
「どうぞごゆっくり」
 そう言い、彼女は店の奥に歩いて行った。

「念願のココア! これが飲みたかったんだよね~」
 友達は目をキラキラさせて拝むような仕草をしていた。彼女がココアを飲むのを私は観察するように見ていた。
「あぁ、これ! これだよ! 美味しい~」
 頬を押さえながら喜ぶ彼女の姿を見て、私もココアに口を付けた。甘く濃厚な味わいが口いっぱいに広がった。

「美味しい……」
「でしょ! 葉月ならこの魅力的な味わいを分かってくれると思ったんだ~」
 私の感想に、彼女は嬉しそうにココアの魅力について語っていた。

 その後は、プリンを食べつつ色々なお喋りを楽しんだ。
「葉月は、もう志望大学決めたの?」
「うん、いくつか候補は絞ったよ」
「そっか。良かったね……葉月この前の進路調査の紙見た時大学の欄白紙だったから」
 どうやら、彼女なりに心配していたらしい。
 そんな会話を続けていると、店の奥のほうから店主の女性が出てくるのが見えた。

 私たちが店主に気付き挨拶をすると、そのまま店主はテーブルまで歩いてきた。
「今日は来てくれてありがとうございます。お飲み物とプリンいかがでしたか?」

「ココア、毎日飲みたいくらい美味しかったです! ね~葉月!」
「はい、本当に美味しかったです。プリンも甘さ控えめなカラメル部分が最高でした!」
 そう伝えると店主は、嬉しそうに笑っていた。
「そういて頂けて嬉しいです。ぜひまたいらしてください」
 私たちはもちろんと頷いた。店主は他のお客さんに呼ばれ、私たちの席からは離れていった。時間も遅くならないうちに、会計を済ませ喫茶店を出る。
 外は肌寒く、夕方から夜にかわるようなグラデーションのような色をした空が広がっていた。友達とはその場で別れ、私は寮に戻った。

 寮に着くと、中が少しザワザワとしていた。管理人さんが慌てた様子で階段を上っていくのが見えた。近くにいた子に話しかけてみることにした。
「ねえ、どうしたの? 何かあった?」
「なんか1日中眠ってて起きないんだって」
 私は聞き覚えがある症状に、2階へ続く階段を上った。1つの部屋の前に何人か集まって中の様子を見ていた。私もそこに近付き、中の様子を確認する。
 眠っていた男の子は、ちょうど目を覚ましたところのようだった。管理人さんが心配そうに彼を見つめ、何か話しかけていた。どうやら、本当に眠っていただけのようだった。しかし眠る前の記憶が曖昧らしい。
 私はその言葉を聞き、部屋の中に視線を移した。特に違和感は……と思った時にちらっと見覚えのあるものが目に見えた。
 机の上に置かれたもの……あれは例のサプリではないだろうか。

 私は自分の部屋に戻り、藤野さんにメッセージを送った。
「記憶操作の睡眠剤サプリが、寮内の生徒の部屋にあるのを見ました」
 メッセージを送るとすぐに返信が来た。
「そうか……今はまだ調べている途中なんだ。大丈夫、そのサプリは明日にでもなくなると思うよ」
 続けて彼からメッセージが来た。
「葉月はもう使ったら駄目だよ」
 藤野さんは本当に心配性だなと思いながら、私もメッセージを返した。
「分かってるよ。大丈夫」

 メッセージを送り終え、私はタブレットの電源を落とした。寮内はまだ少しざわついていた。管理人さんが各自部屋に戻るよう指示する声が聞こえる。
 その中、私は鞄から学校の課題を取り出しカリカリと筆記具を滑らせ問題を解いていた。
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