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第八十九話 混沌種

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「さっき討伐したと言いましたが、実際は急にモンスターたちが次々と爆発して消えた……というのが正しいでしょうね」
「爆発……ですか?」
「そう祖父は口にしていましたね。そして黒い霧もたちまち消えてしまった。それから旅をする中で、何度か黒い霧を目撃したことがあったそうですが、同じように最後は爆発して消失したと言っていました」

 爆発……か。それに攻撃を受けても再生する身体。間違いない、『ケガレモノ』だな。
 俺は先日、オルルと話したことを思い出す。







「『ケガレモノ』というのは遥か昔から存在する『混沌種』なのです」
「混沌……種?」

 オルルの言葉で、また初めて聞くものだった。

「『混沌種』……それは太古の昔から自然発生してきた災害そのもの。生物の負のエネルギーが凝縮し、何らかの強い刺激によって実体化するのです」
「負のエネルギーか……それをケガレって呼ぶんだよな?」
「負のエネルギーそのものをケガレとは呼びません。負のエネルギーが闇に染まった状態。それがケガレなのです」
「闇に染まった状態というのがよく分からんな」
「そうですね。負のエネルギーといっても、これは誰もが持っているものです。いわゆるコインの表と裏のようなもので、正と負、どちらが欠けてもその存在は不完全なものとなります。人にも楽しい時、幸せを感じている時には正のエネルギーが増幅します。しかし悲しい時や辛い時、怒っている時などは負のエネルギーに天秤は傾くのです」

 なるほど。負のエネルギーが無ければ、感情の一部が失われた状態になるということか。
 それは確かに不完全で歪な存在になってしまうだろう。

「ただ正のエネルギーよりも負のエネルギーの方が闇に染まりやすい傾向にあります。この闇というのは、外部からの刺激……この世界に漂う負の想念のことです」
「想念?」
「はい。それは世界の穢れそのもの。長い長い年月によって蓄積された負の遺産とも呼ばれる――〝混沌〟なのです」

 オルルは言う。

 その〝混沌〟というものは、世界そのものが生み出した別の負のエネルギーだと。
 世界にも意志は存在する。生きているのだ。

 純粋で、何色にもすぐに染まってしまう。まるで無邪気な子供のように。
 人々が争い、そのせいで多くの血が流れる。そこには強い想念が渦巻く。

 それらが大地へと沈んでいき、どんどん膨らんでいく。世界は闇に侵食され、そしてその器から負のエネルギーを抑えることができずに溢れ出てしまう。

 数え切れないほどの負の想念が混在したエネルギー。それが〝混沌〟と呼ばれるもの。

 そして大地から溢れ、他の負のエネルギーと結びついた時に変化をもたらしてしまう。

「それが災害となって現れるのです」
「災害って、じゃああのドラゴンも災害なのか?」
「恐らくあれは自然発生した『ケガレモノ』ではなく、人工的に作られた『ケガレモノ』だと思います」
「人工的に……確かにカイラは薬のようなものを服用してたしな」
「推測でしかありませんが、その薬のようなものは〝混沌〟を集束させ形にしたものなのではないでしょうか?」
「そんなことができるのか?」
「分かりません。ですがそうとしか考えられません。その〝混沌〟によって、カイラさんの負のエネルギーを暴発させ、結果的に『ケガレモノ』を生んでしまった」
「はぁ……何でカイラがそんなものを……」

 カイラ自身が作ったのか? いや、アイツに薬作りなんてスキルがあったとは思えない。良くも悪くもアイツは武人なのだ。そういう方面はカイラより、どちからというと……。

「……グレンか」
「? どうかしましたか?」
「いや、グレン……覚えてるか?」
「ジェーダン家の長男ですよね?」
「ああ。俺の元兄だ。そいつのことだが、どうもカイラと接触していたらしいんだよ」
「そうだったのですか。そのグレンさんが何か?」
「グレンは武人というよりは文人なんだ。頭が良くてな、成績だけならカイラにだって負けない。それに確か、研究ギルドに入ったはずだ」
「研究ギルド……?」
「その名の通り、様々な研究を行うことを主軸としたギルドだ」

 冒険者の多くは、討伐ギルド……つまりはモンスターを倒したりダンジョンを攻略するアグレッシブな者が多い。だが中にはモンスターや魔法などを研究する冒険者もいる。

 そういった連中が集まったギルドを研究ギルドという。モンスターを倒すのではなく、捕縛して研究したり、ダンジョンや遺跡などに赴き、その形態を調査したりする。

 それらの研究結果のお蔭で、スムーズに攻略を進められたり、便利なアイテムが生まれ得たりするなど、国にとっても研究ギルドは重宝されているのだ。

「グレンが何の研究をしてるか知らないが、もしカイラにあの薬を渡したのが奴だとしたら……」
「ではグレンさんは初めからカイラさんを実験体にしたと? ですが前にグレンさんはカイラさんだけは弟として溺愛していると仰ってませんでしたか?」
「言ったな。実際家にいた時はだだ甘だったし。けどグレンだってジェーダン家の長男だ。もしカイラが生まれなければ次期領主でもあったはず。そのことに心の底から納得してなかったら?」
「つまり彼はずっと領主の座を狙っていたと?」
「領主の座を狙っていたかは分からないが、天才のカイラを疎ましく思っていたかもしれない」

 そしていつかは自分の方が上だと認めさせたいと思っていたかもしれない。あるいは、邪魔な次期領主であるカイラを屠り、自分がその後釜に……と。

 実際のところはグレンに聞いてみなければ分からないが、カイラがああなったことと、傍にグレンがいたこと、そしてカイラが瀕死になっても、グレンが姿を見せなかったことから考えて、俺の推測は的を射ているのではないだろうか。



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