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第八十五話 戦いの後
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道術を駆使した弓矢での攻撃によってドラゴンを消滅させることに成功した俺。
直後に黒い灰となって散り、ようやく平穏が訪れることなったのだが……。
「……っ」
突如、頭痛が起きて、思わず顔をしかめてしまう。
その理由は、大量の怒りのエネルギーともいおうか、強い感情が脳内に流れ込んできたからだ。
……ニクイ……ニクイ…………ユルサナイ…………コロシタイ……ッ!
そしてそれらがカイラのものだけでなく、見知らぬ誰かの怒りの感情であることも分かった。
「アオスさん、だいじょうぶですか!」
「しっかりしてください! わたしのアオスさぁん!」
「どっかいたいのか!? よ、よ、よし! いたいのいたいのとんでけー!」
妖精さんたちも心配そうに、俺に寄り添いながら言葉をかけてくる。
「はは……だ、大丈夫。ちょっと頭痛がしただけだから」
それにもう収まった。数秒ほどの出来事で、もう痛みなどはない。俺の心も落ち着いている。
しかし今の現象は一体……?
そう思っていると、バンッと強く背中に衝撃が走り、思わずふらついてしまう。
そしてそのまま前のめりに倒れそうになったところに、フワッと誰かが受け止めてくれた。
「オブラ殿、いきなり突き飛ばすとは何事だ?」
俺を受け止めてくれたのはオリビアだったらしい。そして背中を叩いたのはオブラのようだ。
「あ、悪い。ついこう力が入っちまってな」
「ったくもう! オブラさんは馬鹿力なんだからぁ、気を付けましょうねぇ!」
「う、うっせえな、シンクレアまで。わーってるよ。ってか、馬鹿力ってのはお前には言われたくねえよ!」
「あー、女の子にそんなこと言いますぅ!? だからオブラさんってばその歳にもなってモテないんですよぉ!」
「ほっとけ! 俺は硬派なんだよ!」
「ふーんだ! どこが硬派なんですかぁ! ただ女性に不慣れなヘタレなだけでしょ!」
「あんだとコラーッ! ぶっ飛ばすぞ!」
「返り討ちにしてあげちゃいますもんねぇ!」
何だか俺の平穏がすぐに吹き飛んでしまった……。
「アオスくん、大丈夫か? すまないな、オブラ殿が」
「! す、すみません、受け止めて頂いて」
俺は慌てて彼女の胸から離れて謝罪をする。
「いいや、気にしなくて良い。きっと疲れが溜まっていたのだろう。何せ〝攻略戦〟に引き続き〝代表戦〟。さらにドラゴンとの戦闘だったからな。しかも君のお蔭で討伐することができた。見事だったよ」
「いえ……先輩方もドラゴンを足止めしてくださったので、一発でドラゴンを死滅させることができました」
「謙遜しなくても良い。しかし妙なドラゴンだったな。まさか人間から放出されたエネルギーが実体化してドラゴンになるなど……」
するとそこへ、ゆっくりと校長が近づいてきた。
「皆さん、この度はご苦労様でした。学校の長として感謝致します。本当にありがとうございました」
そう言いながら姿勢を正して綺麗に一礼をしてくる。
「傷を負った人たちを、すぐに救護室に運ぶ手筈は整えています。あなたたちは……問題ないようですね」
オブラやシンクレアたちを見ながらホッと息を吐いた校長が、次に俺に視線を向けてきた。
「あなたも大分疲労しているようですね」
「……問題ありませんよ」
「そうですか。ですがあなたにはいろいろお聞きしないことがあります。しかしさすがに今日は止めておきましょう。休息も必要でしょうし、事件の処理などもありますからね。後日、面談を行うのでそのつもりで」
面倒だが、この学校にいる限りは逆らわない方が良いだろう。とはいっても言えることなんて大して無いが。
「ただ一言。今日におけるすべての戦いにおいて、見事でしたよ、アオス・フェアリード」
それだけを言うと、校長は他の教員たちに指示を出し始め、怪我人たちの対応に向かっていった。
俺は教員たちが用意したタンカーに乗せられ、運ばれていくカイラに視線を送る。
見るも無残な感じで、まるで飢餓状態のように痩せ細りピクリとも動かない姿。死んでいるように見えるが果たして……。
その時、俺は強い視線を感じたのでそちらを向く。
そこには白衣を着た人物の後姿があった。男か女か、ここからじゃハッキリとは分からなかったが、たった一人で会場から出て行くソイツの姿が、どうも瞼の裏に焼き付くように印象に残ったのである。
「おーい! アオスーッ!」
観客席から声がしたと思ったら、そこから飛び降りてこちらに向かってくる数人の人物がいた。
シン助、九々夜、そしてトトリの三人だ。
「すっげえじゃねえか! あのドラゴンを倒しちまったすっげえ! やっぱお前ってば、すっげえ!」
語彙力が悲惨ではあるが、シン助が言いたいことは伝わってきた。
「アオスさん、顔色が少し悪いですが……大丈夫ですか?」
「九々夜……ああ、問題ない」
「我慢しなくてもいいわよ。ほら、肩だって貸してあげるから」
そう言ってトトリが俺の腕を取って自分の肩に回した。
体力的には本当に大丈夫なのだが、確かに精神的には結構な疲弊感はある。恐らくはあの頭痛のせいだとは思うが。
「アオス、校長じゃが、今日はマジで最高だったぜ! やっぱ俺が見込んだだけはある! 『流浪の叢雲』はいつでもお前を歓迎すっからな!」
「もう! オブラさんってば抜け駆け禁止ですぅ! アオスくぅん、あたしのとこに来てよねぇ!」
「二人とも、アオスくんは疲れているんだ。勧誘はまたの機会で良いだろう。……アオスくん、本当に素晴らしい戦いだった。今日はゆっくり休んでくれ」
オブラとシンクレアに注意し、俺を労ってくれるオリビア。オリビアに対しては好感度がグイッと上がった。
俺は三人に礼を言ってから、シン助たちと一緒にその場をあとしたのである。
直後に黒い灰となって散り、ようやく平穏が訪れることなったのだが……。
「……っ」
突如、頭痛が起きて、思わず顔をしかめてしまう。
その理由は、大量の怒りのエネルギーともいおうか、強い感情が脳内に流れ込んできたからだ。
……ニクイ……ニクイ…………ユルサナイ…………コロシタイ……ッ!
そしてそれらがカイラのものだけでなく、見知らぬ誰かの怒りの感情であることも分かった。
「アオスさん、だいじょうぶですか!」
「しっかりしてください! わたしのアオスさぁん!」
「どっかいたいのか!? よ、よ、よし! いたいのいたいのとんでけー!」
妖精さんたちも心配そうに、俺に寄り添いながら言葉をかけてくる。
「はは……だ、大丈夫。ちょっと頭痛がしただけだから」
それにもう収まった。数秒ほどの出来事で、もう痛みなどはない。俺の心も落ち着いている。
しかし今の現象は一体……?
そう思っていると、バンッと強く背中に衝撃が走り、思わずふらついてしまう。
そしてそのまま前のめりに倒れそうになったところに、フワッと誰かが受け止めてくれた。
「オブラ殿、いきなり突き飛ばすとは何事だ?」
俺を受け止めてくれたのはオリビアだったらしい。そして背中を叩いたのはオブラのようだ。
「あ、悪い。ついこう力が入っちまってな」
「ったくもう! オブラさんは馬鹿力なんだからぁ、気を付けましょうねぇ!」
「う、うっせえな、シンクレアまで。わーってるよ。ってか、馬鹿力ってのはお前には言われたくねえよ!」
「あー、女の子にそんなこと言いますぅ!? だからオブラさんってばその歳にもなってモテないんですよぉ!」
「ほっとけ! 俺は硬派なんだよ!」
「ふーんだ! どこが硬派なんですかぁ! ただ女性に不慣れなヘタレなだけでしょ!」
「あんだとコラーッ! ぶっ飛ばすぞ!」
「返り討ちにしてあげちゃいますもんねぇ!」
何だか俺の平穏がすぐに吹き飛んでしまった……。
「アオスくん、大丈夫か? すまないな、オブラ殿が」
「! す、すみません、受け止めて頂いて」
俺は慌てて彼女の胸から離れて謝罪をする。
「いいや、気にしなくて良い。きっと疲れが溜まっていたのだろう。何せ〝攻略戦〟に引き続き〝代表戦〟。さらにドラゴンとの戦闘だったからな。しかも君のお蔭で討伐することができた。見事だったよ」
「いえ……先輩方もドラゴンを足止めしてくださったので、一発でドラゴンを死滅させることができました」
「謙遜しなくても良い。しかし妙なドラゴンだったな。まさか人間から放出されたエネルギーが実体化してドラゴンになるなど……」
するとそこへ、ゆっくりと校長が近づいてきた。
「皆さん、この度はご苦労様でした。学校の長として感謝致します。本当にありがとうございました」
そう言いながら姿勢を正して綺麗に一礼をしてくる。
「傷を負った人たちを、すぐに救護室に運ぶ手筈は整えています。あなたたちは……問題ないようですね」
オブラやシンクレアたちを見ながらホッと息を吐いた校長が、次に俺に視線を向けてきた。
「あなたも大分疲労しているようですね」
「……問題ありませんよ」
「そうですか。ですがあなたにはいろいろお聞きしないことがあります。しかしさすがに今日は止めておきましょう。休息も必要でしょうし、事件の処理などもありますからね。後日、面談を行うのでそのつもりで」
面倒だが、この学校にいる限りは逆らわない方が良いだろう。とはいっても言えることなんて大して無いが。
「ただ一言。今日におけるすべての戦いにおいて、見事でしたよ、アオス・フェアリード」
それだけを言うと、校長は他の教員たちに指示を出し始め、怪我人たちの対応に向かっていった。
俺は教員たちが用意したタンカーに乗せられ、運ばれていくカイラに視線を送る。
見るも無残な感じで、まるで飢餓状態のように痩せ細りピクリとも動かない姿。死んでいるように見えるが果たして……。
その時、俺は強い視線を感じたのでそちらを向く。
そこには白衣を着た人物の後姿があった。男か女か、ここからじゃハッキリとは分からなかったが、たった一人で会場から出て行くソイツの姿が、どうも瞼の裏に焼き付くように印象に残ったのである。
「おーい! アオスーッ!」
観客席から声がしたと思ったら、そこから飛び降りてこちらに向かってくる数人の人物がいた。
シン助、九々夜、そしてトトリの三人だ。
「すっげえじゃねえか! あのドラゴンを倒しちまったすっげえ! やっぱお前ってば、すっげえ!」
語彙力が悲惨ではあるが、シン助が言いたいことは伝わってきた。
「アオスさん、顔色が少し悪いですが……大丈夫ですか?」
「九々夜……ああ、問題ない」
「我慢しなくてもいいわよ。ほら、肩だって貸してあげるから」
そう言ってトトリが俺の腕を取って自分の肩に回した。
体力的には本当に大丈夫なのだが、確かに精神的には結構な疲弊感はある。恐らくはあの頭痛のせいだとは思うが。
「アオス、校長じゃが、今日はマジで最高だったぜ! やっぱ俺が見込んだだけはある! 『流浪の叢雲』はいつでもお前を歓迎すっからな!」
「もう! オブラさんってば抜け駆け禁止ですぅ! アオスくぅん、あたしのとこに来てよねぇ!」
「二人とも、アオスくんは疲れているんだ。勧誘はまたの機会で良いだろう。……アオスくん、本当に素晴らしい戦いだった。今日はゆっくり休んでくれ」
オブラとシンクレアに注意し、俺を労ってくれるオリビア。オリビアに対しては好感度がグイッと上がった。
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