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第四十六話 代表戦が終わって

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「やったーのです! さすがはアオスさん! と~ってもカッコよかったですよ!」
「はぁ……あのカイラさんのサイゴ……ざまあみろでしたねぇ」
「ハーッハッハッハ! これであのオバカヤロウもアオスのことをみなおすにちがいない!」

 控室へと戻る通路を歩きながら、妖精さんたちが俺の周りで嬉しそうに飛び回っている。
 ただ一つ言えるとするなら、カイラが俺を見直すなんてことはなさそうだが。

「ありがとう、妖精さんたち。君たちの応援のお蔭で自信が持てたよ」

 俺の心からの言葉に、妖精さんたちは照れ臭そうに笑っている。
 控室に戻って来ると、扉の前にはアリア先生が待機していた。

 てっきり勝利を称えてくるのかと思いきや……。

「一体あなたは何者なんですか?」

 突然俺を見定めるような視線をぶつけてきた。

「いきなり何です? 何者って、俺はアオス・フェアリード以外の何者でもありませんが?」
「……一瞬」
「ん?」
「一瞬、あなたから凄まじい圧力を感じました。アレは魔力ではない……アレは……一体何なのですか?」

 驚いた。この人、導力の存在を感じ取ってる?

 見えてはいないようだが、それでも俺が纏う何かしらのエネルギーが存在することを確信している。

 恐らく生まれつき感性が鋭いのだろう。中にはそういう人もいるとオルルから聞いている。

「さあ、何のことか分かりませんね」
「話す気はないようですね。……いいでしょう。どのような力でも、あなたの力であることには変わりありません。ですが、あれほど一方的な試合をしたとあっては、今後あなたの学生生活は、かなり忙しくなることは確かですよ?」
「……どういうことです?」
「観覧席で見ていたのは、何も生徒たちだけではありません。現行の冒険者たちも観戦しに来ています。まあそのほとんどはこの一年で卒業する二年生のマーキングでしょうが」

 有能な冒険者候補には先に唾をつけておこうというわけか。

「ああ、そういえば入学試験の時に、三つのギルドに誘われましたね」
「!? 試験時に、です? その話は初耳ですね。確かあなたを担当したのはオブラたちで……まさか彼らが全員目を付けるとは……」
「オブラさんたちと親しいんですか?」
「まあ……知り合いではありますね」

 あまり深く突いてほしくなさそうなので聞かないことにする。

「そういえば言っていませんでしたね。優勝、おめでとうございます」
「ありがとうございます。次は……〝ダンジョン攻略戦〟ですね」
「今日の実力から見ても、順当に行けばA組が勝利できるかもしれませんが、〝攻略戦〟においては個人競技ではありませんよ?」
「分かっていますよ。チームメイトと協力して攻略をする。アリア先生が望んでいるのはそういう形での勝利ですよね?」
「やはりあなたは理解していたのですね。ならば尚更、何故実践しないのですか?」
「どうにもウチのチームは集団行動が苦手な連中が集まっていましてね。俺を含めて」
「あなたにはリーダーの素質があります。あなたが導けば、自ずとあの子たちも力を発揮できるはずです。どうしてそうしないのですか?」
「買い被りですよ。俺は本当に集団行動は苦手です。それにリーダーなんて柄でもありません」
「やれやれ。あなたは自覚がないのですね。要所要所で的確なアドバイスをメンバーにしたり、初めて隊列を組んだ時もあなたが決めた。間違いなくあなたにはリーダーの素質はありますよ」

 アドバイスというか、攻略時に気になったことをシン助たちに告げていただけだ。その方が早く進むことができ、さっさと帰って自分の特訓をしたいからという理由である。

 隊列の時も、彼らの特性を考え、ただ常識的な形に当てはめただけで大したことをした覚えはない。誰にだってできることだ。

「確かにあなたの実力ならば、わざわざ他人と連携を取らずとも一人でダンジョンを攻略できるでしょう。それだけの力があなたにはあります。もしかしたら今の時点で、中堅以上の冒険者と遜色ないかもしれません。ですがここは学校であり、様々なことを学ぶ場所でもあります。私はできればあなたにも多くのことを学んでほしい。集団という大きな力に関して、そして……人を扱うという技術を」
「それは俺よりもトトリに教えた方が先生の願いも叶うんじゃないですか?」
「あの子は戦う者としての才能はありますが、人を扱う才には欠けています」
「……分かってるじゃないですか」
「え?」
「天才のトトリにも、ちゃんと弱点があるんですよ。完璧じゃあない」
「…………そんなこと理解しています」

 だろうな。こんな若造に言われるまでもないって感じだ。まあ、実際はこの人よりも人生経験は豊富なんだが。

「とにかく〝攻略戦〟までにはまだ時間があります。幸いあなたにダメージはないようですし、みっちり実習を行い仕上げてもらいます」
「言うこと聞きますかね、アイツらは」
「聞かせて見せなさい。もしできれば、あなたの評価には色をつけましょう」
「……それ贔屓で問題になりませんか?」
「私は努力する者には相応のプラスアルファを行う教師ですから」
「ハッキリ言う先生ですね」

 ただ冒険者にスムーズになるためにも、高評価をもらえるのはありがたい。教師を敵に回しても良いことなんてないだろうし、ここは適度に言うことを聞いておいた方が何かと都合が良いだろう。

「分かりましたよ。俺にリーダーの素質があるかどうかは分かりませんが、チームとして機能するように善処するようにします」
「善処ではなく全力を尽くしなさい。学生の内は、そうあるべきですよ」
「……了解しました」

 何とも面倒なことになったが、一度引き受けた以上は一方的に反古することはできない。
 九々夜はともかく、あの二人が俺の言うことを聞いてくれるか正直自信がない。

 ……まあ、言うことを聞かなくても、結果的にチームとして機能すれば良いんだ。

 それならばやるようによっては可能になるはず。

 俺は厄介な問題を抱えたことに辟易しながらも、とりあえずカイラをこの手で倒したことで、長年のトラウマを排除できたことに喜んでおくことにした。



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