34 / 114
第三十三話 ダンジョン実習
しおりを挟む
――放課後。
昨日、アリア先生が言っていた通り、俺、シン助、九々夜、トトリの四人は、アリア先生による特別指導を受けることになった。
ダンジョンに関しては、座学でもある程度の知識を学ぶが、やはり実践するのが一番の経験になる。
ということで、学校の演習場の一つに存在するダンジョンに五人で入ることになったのだ。
「あ、あのぉ、アリア……先生? いきなりダンジョン実習なんて、アタシたちには早いんじゃ……」
あまり乗り気ではなさそうなトトリが、アリア先生に恐る恐るといった感じで言う。
「何を言っているのですか? すでにBクラスも実習に入っています。それにあなたたちは冒険者候補生です。この学校に通っている以上、多少の無茶くらい当然行うべきなのです」
先生のスパッとした返しに、トトリは「うへぇ」と嫌そうな顔を浮かべている。
「いやだって……危ないじゃん? それに……アタシできれば人のふんどしで相撲を取りたいタイプだし」
コイツ、そこそこ腐ったことを言ってるってことを自覚してるのか?
「いいからあなたはもう少し真剣に取り組みなさい」
「は、はい! わ、分かったから睨まないでぇ!」
トトリは大げさにアリア先生から顔を背ける。
「いいですか。今から入るダンジョンは、人工的に作られたレプリカですが、本物と比べても遜色ないものです。モンスターも出現しますし、罠だって設置されています」
へぇ、人工的にダンジョンってのは造れるものらしい。
「このダンジョンは、初心者用として造られたもので、地下五階までしかありません。その五階のどこかにある宝箱を手にし、戻ってくることで攻略成功とします」
いわゆるトレジャーハンタータイプのダンジョンというわけだ。そもそもダンジョンに潜る目的のそのほとんどはお宝目当てではあるが。
「〝攻略戦〟で使用するのもレプリカですが、こことはレベルが違います。故にまずはダンジョンの性質や攻略の仕方など、とにかく学べることはすべて学びなさい」
俺たちが返事をすると、アリア先生が先導し、その後についていく。
シン助は子供のようにワクワクし、九々夜は少し不安そうにシン助に意識を集中させていて、トトリは「はぁ~めんどいわ」とダルそうに言葉を漏らしている。本当にこんなパーティで大丈夫なのだろうか?
階段を降り、まずは地下一階へと降り立つ俺たち。
最初は開けた場所があり、二つほど先に進むルートがある。壁も床も岩盤なので丈夫ではあるが薄暗い。今はアリア先生がランタンを持っている明かりが、周囲を照らしてくれていた。
「さて、こういう地下ダンジョンというのは、基本的に地下に潜る度に敵が強く、そして数が多くなっていきます。また闇に強いモンスターばかりなので、非常に応戦し辛いという難点もあります」
モンスターは暗闇でも問題なくこちらを判別し攻撃を仕掛けてこられるが、俺たちは明かりがなければ周囲を確認することさえできない。確かに行動範囲が限定されてしまう。
「ですから地下ダンジョンの攻略では、周りを照らすことのできる魔法を持つ者をパーティに入れるのがセオリーなのです。……九々夜」
「は、はい!」
「周りを照らせますか?」
「えと……はい! やります!」
九々夜が指名を受けると、両手を前にかざした。すると彼女の目の前の地面に魔法陣が浮かび上がる。
「お願い、力を貸して――《月灯《つきび》》!」
すると魔法陣から、人間の頭ほどの大きさの〝ナニカ〟が浮かび上がってきた。
「――チカーッ!」
ソレは、どう見ても兎のような小動物。しかし羽が生えて空を飛んでいるので、恐らくはモンスターだとは思うが……。
またその兎もどきを見たアリア先生が感心するように「ほう」と声を上げている。
「月灯、明かりをお願いできるかな?」
「チカチッカ!」
九々夜の頼みを聞き入れ、任せろと言わんばかりに兎もどきが返事をすると、驚くことに身体を発光させて、その光で周囲を照らした。
ランタンよりも明らかに広範囲を明るくさせているので、これなら周りの状況を広く確認しながら進むことができる。
「報告にあった通り。本当に九々夜は『召喚魔道士』なのですね」
……『召喚魔道士』!
俺が驚いたのは、聞いたことはあったが初めて目にしたからだった。
九々夜のような『召喚魔道士』は、その名の通り、契約したモンスターを召喚する魔法を使うことができるのだ。
ただし稀少なタイプであり、召喚は大量の魔力を必要とするので、現実的ではない魔法として、あまり好まれていない。
だが使いこなせるならば、強力無比な力なのも違いない。
何故なら多種多様なモンスターを呼び出せるということは、その都度状況に応じた戦法が取れるということ。
今みたいに暗闇を照らすこともできれば、火や風を起こしたり、攻撃特化、あるいは防御に特化したモンスターなど、様々な場面で使用することができるのだ。
つまりは万能の『魔道士』として評価される。
「わぁわぁわぁ、なにそれ! めっちゃ可愛いんだけどっ!」
「チカチ?」
「あ~! ハグしていい? 撫でていい? もらっていい?」
どうやらトトリのツボにハマったようで、彼女の押しに九々夜が後ずさる。
「え、えっと……触るのは構いませんけど、上げることはできませんよぉ」
しかし九々夜に触っていいと言われ、トトリは兎もどきをその胸に抱きしめる。思った以上に豊満な二つの脂肪に埋もれ、兎もどきはどこか苦しそうだ。
「トトリ、それくらいにしなさい。今は実習中ですよ?」
「ひゃいっ! すみませんでしたぁっ!」
アリア先生の注意を受け、一気に我に返ったトトリは、慌てて兎もどきを手放す。
「へへーん、どうだ? ウチの妹はすっげえだろぉ?」
「も、もうお兄ちゃん、いちいちそんなこと言わなくていいから!」
まあ確かに珍しいのは認める。ただ凄いかどうかはまだ分からない。彼女が召喚を使いこなせているかは、これから理解できると思うから。
昨日、アリア先生が言っていた通り、俺、シン助、九々夜、トトリの四人は、アリア先生による特別指導を受けることになった。
ダンジョンに関しては、座学でもある程度の知識を学ぶが、やはり実践するのが一番の経験になる。
ということで、学校の演習場の一つに存在するダンジョンに五人で入ることになったのだ。
「あ、あのぉ、アリア……先生? いきなりダンジョン実習なんて、アタシたちには早いんじゃ……」
あまり乗り気ではなさそうなトトリが、アリア先生に恐る恐るといった感じで言う。
「何を言っているのですか? すでにBクラスも実習に入っています。それにあなたたちは冒険者候補生です。この学校に通っている以上、多少の無茶くらい当然行うべきなのです」
先生のスパッとした返しに、トトリは「うへぇ」と嫌そうな顔を浮かべている。
「いやだって……危ないじゃん? それに……アタシできれば人のふんどしで相撲を取りたいタイプだし」
コイツ、そこそこ腐ったことを言ってるってことを自覚してるのか?
「いいからあなたはもう少し真剣に取り組みなさい」
「は、はい! わ、分かったから睨まないでぇ!」
トトリは大げさにアリア先生から顔を背ける。
「いいですか。今から入るダンジョンは、人工的に作られたレプリカですが、本物と比べても遜色ないものです。モンスターも出現しますし、罠だって設置されています」
へぇ、人工的にダンジョンってのは造れるものらしい。
「このダンジョンは、初心者用として造られたもので、地下五階までしかありません。その五階のどこかにある宝箱を手にし、戻ってくることで攻略成功とします」
いわゆるトレジャーハンタータイプのダンジョンというわけだ。そもそもダンジョンに潜る目的のそのほとんどはお宝目当てではあるが。
「〝攻略戦〟で使用するのもレプリカですが、こことはレベルが違います。故にまずはダンジョンの性質や攻略の仕方など、とにかく学べることはすべて学びなさい」
俺たちが返事をすると、アリア先生が先導し、その後についていく。
シン助は子供のようにワクワクし、九々夜は少し不安そうにシン助に意識を集中させていて、トトリは「はぁ~めんどいわ」とダルそうに言葉を漏らしている。本当にこんなパーティで大丈夫なのだろうか?
階段を降り、まずは地下一階へと降り立つ俺たち。
最初は開けた場所があり、二つほど先に進むルートがある。壁も床も岩盤なので丈夫ではあるが薄暗い。今はアリア先生がランタンを持っている明かりが、周囲を照らしてくれていた。
「さて、こういう地下ダンジョンというのは、基本的に地下に潜る度に敵が強く、そして数が多くなっていきます。また闇に強いモンスターばかりなので、非常に応戦し辛いという難点もあります」
モンスターは暗闇でも問題なくこちらを判別し攻撃を仕掛けてこられるが、俺たちは明かりがなければ周囲を確認することさえできない。確かに行動範囲が限定されてしまう。
「ですから地下ダンジョンの攻略では、周りを照らすことのできる魔法を持つ者をパーティに入れるのがセオリーなのです。……九々夜」
「は、はい!」
「周りを照らせますか?」
「えと……はい! やります!」
九々夜が指名を受けると、両手を前にかざした。すると彼女の目の前の地面に魔法陣が浮かび上がる。
「お願い、力を貸して――《月灯《つきび》》!」
すると魔法陣から、人間の頭ほどの大きさの〝ナニカ〟が浮かび上がってきた。
「――チカーッ!」
ソレは、どう見ても兎のような小動物。しかし羽が生えて空を飛んでいるので、恐らくはモンスターだとは思うが……。
またその兎もどきを見たアリア先生が感心するように「ほう」と声を上げている。
「月灯、明かりをお願いできるかな?」
「チカチッカ!」
九々夜の頼みを聞き入れ、任せろと言わんばかりに兎もどきが返事をすると、驚くことに身体を発光させて、その光で周囲を照らした。
ランタンよりも明らかに広範囲を明るくさせているので、これなら周りの状況を広く確認しながら進むことができる。
「報告にあった通り。本当に九々夜は『召喚魔道士』なのですね」
……『召喚魔道士』!
俺が驚いたのは、聞いたことはあったが初めて目にしたからだった。
九々夜のような『召喚魔道士』は、その名の通り、契約したモンスターを召喚する魔法を使うことができるのだ。
ただし稀少なタイプであり、召喚は大量の魔力を必要とするので、現実的ではない魔法として、あまり好まれていない。
だが使いこなせるならば、強力無比な力なのも違いない。
何故なら多種多様なモンスターを呼び出せるということは、その都度状況に応じた戦法が取れるということ。
今みたいに暗闇を照らすこともできれば、火や風を起こしたり、攻撃特化、あるいは防御に特化したモンスターなど、様々な場面で使用することができるのだ。
つまりは万能の『魔道士』として評価される。
「わぁわぁわぁ、なにそれ! めっちゃ可愛いんだけどっ!」
「チカチ?」
「あ~! ハグしていい? 撫でていい? もらっていい?」
どうやらトトリのツボにハマったようで、彼女の押しに九々夜が後ずさる。
「え、えっと……触るのは構いませんけど、上げることはできませんよぉ」
しかし九々夜に触っていいと言われ、トトリは兎もどきをその胸に抱きしめる。思った以上に豊満な二つの脂肪に埋もれ、兎もどきはどこか苦しそうだ。
「トトリ、それくらいにしなさい。今は実習中ですよ?」
「ひゃいっ! すみませんでしたぁっ!」
アリア先生の注意を受け、一気に我に返ったトトリは、慌てて兎もどきを手放す。
「へへーん、どうだ? ウチの妹はすっげえだろぉ?」
「も、もうお兄ちゃん、いちいちそんなこと言わなくていいから!」
まあ確かに珍しいのは認める。ただ凄いかどうかはまだ分からない。彼女が召喚を使いこなせているかは、これから理解できると思うから。
0
お気に入りに追加
1,613
あなたにおすすめの小説
異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ
十本スイ
ファンタジー
ある日、唐突にバスジャック犯に殺されてしまった少年――同本日六(どうもとひろく)。しかし目が覚めると、目の前には神と名乗る男がいて、『日本に戻してもらう』ことを条件に、異世界を救うことになった。そして二年後、見事条件をクリアした日六は、神の力で日本への帰還を果たした。しかし目の前には、日六を殺そうとするバスジャック犯が。しかし異世界で培った尋常ではないハイスペックな身体のお蔭で、今度は難なく取り押さえることができたのである。そうして日六は、待ち望んでいた平和な世界を堪能するのだが……。それまで自分が生きていた世界と、この世界の概念がおかしいことに気づく。そのきっかけは、友人である夜疋(やびき)しおんと、二人で下校していた時だった。突如見知らぬ連中に拉致され、その行き先が何故かしおんの自宅。そこで明かされるしおんの……いや、夜疋家の正体。そしてこの世界には、俺が知らなかった真実があることを知った時、再び神が俺の前に降臨し、すべての謎を紐解いてくれたのである。ここは……この世界は――――並行世界(パラレルワールド)だったのだ。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
俺を追い出した元パーティメンバーが速攻で全滅したんですけど、これは魔王の仕業ですか?
ほーとどっぐ
ファンタジー
王国最強のS級冒険者パーティに所属していたユウマ・カザキリ。しかし、弓使いの彼は他のパーティメンバーのような強力な攻撃スキルは持っていなかった。罠の解除といったアイテムで代用可能な地味スキルばかりの彼は、ついに戦力外通告を受けて追い出されてしまう。
が、彼を追い出したせいでパーティはたった1日で全滅してしまったのだった。
元とはいえパーティメンバーの強さをよく知っているユウマは、迷宮内で魔王が復活したのではと勘違いしてしまう。幸か不幸か。なんと封印された魔王も時を同じくして復活してしまい、話はどんどんと拗れていく。
「やはり、魔王の仕業だったのか!」
「いや、身に覚えがないんだが?」
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが
天色茜
ファンタジー
普通の女子高校生、朝野明莉沙(あさのありさ)は、ある日突然異世界召喚され、勇者として戦ってくれといわれる。
だが、同じく異世界召喚された他の二人との差別的な扱いに怒りを覚える。その上冤罪にされ、魔物に襲われた際にも誰も手を差し伸べてくれず、崖から転落してしまう。
その後、自分の異常な体質に気づき...!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる