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第三十三話 ダンジョン実習

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 ――放課後。

 昨日、アリア先生が言っていた通り、俺、シン助、九々夜、トトリの四人は、アリア先生による特別指導を受けることになった。

 ダンジョンに関しては、座学でもある程度の知識を学ぶが、やはり実践するのが一番の経験になる。

 ということで、学校の演習場の一つに存在するダンジョンに五人で入ることになったのだ。

「あ、あのぉ、アリア……先生? いきなりダンジョン実習なんて、アタシたちには早いんじゃ……」

 あまり乗り気ではなさそうなトトリが、アリア先生に恐る恐るといった感じで言う。

「何を言っているのですか? すでにBクラスも実習に入っています。それにあなたたちは冒険者候補生です。この学校に通っている以上、多少の無茶くらい当然行うべきなのです」

 先生のスパッとした返しに、トトリは「うへぇ」と嫌そうな顔を浮かべている。

「いやだって……危ないじゃん? それに……アタシできれば人のふんどしで相撲を取りたいタイプだし」

 コイツ、そこそこ腐ったことを言ってるってことを自覚してるのか?

「いいからあなたはもう少し真剣に取り組みなさい」
「は、はい! わ、分かったから睨まないでぇ!」

 トトリは大げさにアリア先生から顔を背ける。

「いいですか。今から入るダンジョンは、人工的に作られたレプリカですが、本物と比べても遜色ないものです。モンスターも出現しますし、罠だって設置されています」

 へぇ、人工的にダンジョンってのは造れるものらしい。

「このダンジョンは、初心者用として造られたもので、地下五階までしかありません。その五階のどこかにある宝箱を手にし、戻ってくることで攻略成功とします」

 いわゆるトレジャーハンタータイプのダンジョンというわけだ。そもそもダンジョンに潜る目的のそのほとんどはお宝目当てではあるが。

「〝攻略戦〟で使用するのもレプリカですが、こことはレベルが違います。故にまずはダンジョンの性質や攻略の仕方など、とにかく学べることはすべて学びなさい」

 俺たちが返事をすると、アリア先生が先導し、その後についていく。

 シン助は子供のようにワクワクし、九々夜は少し不安そうにシン助に意識を集中させていて、トトリは「はぁ~めんどいわ」とダルそうに言葉を漏らしている。本当にこんなパーティで大丈夫なのだろうか?

 階段を降り、まずは地下一階へと降り立つ俺たち。

 最初は開けた場所があり、二つほど先に進むルートがある。壁も床も岩盤なので丈夫ではあるが薄暗い。今はアリア先生がランタンを持っている明かりが、周囲を照らしてくれていた。

「さて、こういう地下ダンジョンというのは、基本的に地下に潜る度に敵が強く、そして数が多くなっていきます。また闇に強いモンスターばかりなので、非常に応戦し辛いという難点もあります」

 モンスターは暗闇でも問題なくこちらを判別し攻撃を仕掛けてこられるが、俺たちは明かりがなければ周囲を確認することさえできない。確かに行動範囲が限定されてしまう。

「ですから地下ダンジョンの攻略では、周りを照らすことのできる魔法を持つ者をパーティに入れるのがセオリーなのです。……九々夜」
「は、はい!」
「周りを照らせますか?」
「えと……はい! やります!」

 九々夜が指名を受けると、両手を前にかざした。すると彼女の目の前の地面に魔法陣が浮かび上がる。

「お願い、力を貸して――《月灯《つきび》》!」

 すると魔法陣から、人間の頭ほどの大きさの〝ナニカ〟が浮かび上がってきた。

「――チカーッ!」

 ソレは、どう見ても兎のような小動物。しかし羽が生えて空を飛んでいるので、恐らくはモンスターだとは思うが……。
 またその兎もどきを見たアリア先生が感心するように「ほう」と声を上げている。

「月灯、明かりをお願いできるかな?」
「チカチッカ!」

 九々夜の頼みを聞き入れ、任せろと言わんばかりに兎もどきが返事をすると、驚くことに身体を発光させて、その光で周囲を照らした。

 ランタンよりも明らかに広範囲を明るくさせているので、これなら周りの状況を広く確認しながら進むことができる。

「報告にあった通り。本当に九々夜は『召喚魔道士』なのですね」

 ……『召喚魔道士』! 

 俺が驚いたのは、聞いたことはあったが初めて目にしたからだった。
 九々夜のような『召喚魔道士』は、その名の通り、契約したモンスターを召喚する魔法を使うことができるのだ。

 ただし稀少なタイプであり、召喚は大量の魔力を必要とするので、現実的ではない魔法として、あまり好まれていない。

 だが使いこなせるならば、強力無比な力なのも違いない。
 何故なら多種多様なモンスターを呼び出せるということは、その都度状況に応じた戦法が取れるということ。

 今みたいに暗闇を照らすこともできれば、火や風を起こしたり、攻撃特化、あるいは防御に特化したモンスターなど、様々な場面で使用することができるのだ。
 つまりは万能の『魔道士』として評価される。

「わぁわぁわぁ、なにそれ! めっちゃ可愛いんだけどっ!」
「チカチ?」
「あ~! ハグしていい? 撫でていい? もらっていい?」

 どうやらトトリのツボにハマったようで、彼女の押しに九々夜が後ずさる。

「え、えっと……触るのは構いませんけど、上げることはできませんよぉ」

 しかし九々夜に触っていいと言われ、トトリは兎もどきをその胸に抱きしめる。思った以上に豊満な二つの脂肪に埋もれ、兎もどきはどこか苦しそうだ。

「トトリ、それくらいにしなさい。今は実習中ですよ?」
「ひゃいっ! すみませんでしたぁっ!」

 アリア先生の注意を受け、一気に我に返ったトトリは、慌てて兎もどきを手放す。

「へへーん、どうだ? ウチの妹はすっげえだろぉ?」
「も、もうお兄ちゃん、いちいちそんなこと言わなくていいから!」

 まあ確かに珍しいのは認める。ただ凄いかどうかはまだ分からない。彼女が召喚を使いこなせているかは、これから理解できると思うから。



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