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第十九話 驚愕の少年

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「んだコレは? おい、オリビア」
「む? 呼んできてくれたのか、ありがとうシンクレア」
「いえいえ。ほらぁ、オブラさん、すっごいことが起きてるでしょ~!」
「……一体何があった? 説明しろ」

 俺はガキから視線を逸らさずに、二人に状況説明を望む。
 そこへ口を開いたのはオリビアである。

「見て分かる通り、あそこに立つ少年が、他の受験者たちを倒しただけだ」
「だけって……」
「しかも一瞬にしてな」
「何!? ……マジかよ、シンクレア?」
「マジですよぉ。もうめっちゃビックリです! 何なんですかあの子はぁ!」

 時間にして開始から五分くらいか。

 900人程度なら、俺だってそのくらいの時間があれば問題なくできる。
 しかし奴はまだ冒険者にもなってないただの一般人だ。

「彼の名は……アオス・フェアリード。聞いたことが無いな」

 手元の資料を見ながらオリビアがガキのプロフィールを口にしていく。

 俺だって名前も出身地も聞いたことがない。あれほどの力量なら、冒険者でなくとも名が知れ渡っていていいはずだが……。

「相当なド田舎に住んでたんじゃないですかぁ? でも見た目はちょっと可愛いし、どことなく気品みたいなものも感じるんですよねぇ」

 確かに。弓を持つ立ち姿に、どこか身分の高さから来る品の良さのようなものが漂っている感じがする。

「でもどうするんですかぁ。まだ制限時間までニ十分以上ありますけどぉ」

 シンクレアの言う通りだ。しかし眠っている奴らを見ると、すぐに目を覚ますとも思えない。
 そもそも立ち上がったとて、あのガキには勝てないだろう。

 しかし腑に落ちねえ……。

「あ、ちょ、どこに行くんですかぁ、オブラさん!」

 俺はシンクレアの言葉を無視し、一人でアオスとやらへと近づいていく。

「おい、ガキ」
「? 試験官さん?」
「……これはお前がやったことなんだよな?」
「はあ……そうですが」

 どうも分からねえ。

 確かに体捌きに関しては目を見張るものがあったが、一瞬にして何百人もの人間を一瞬で倒せるスペックがあるとは到底思えない。

 ……いいや、んなことは試してみりゃ分かることか。

 俺は何の言葉も発さず、ガキに向けて拳を放った。
 オリビアたちは「あ!?」と驚くが、俺の拳は空を切ったのである。

「…………やるじゃねえか」

 見れば、手が届くところにいた場所にガキはすでにいなかった。

「いきなり何を……って、これも試験ですか?」
「……まあそんなようなもんだ」

 完全に俺の趣味みたいなものだが。

「ちょっとぉ、いきなり受験者に何してるんですかぁ!」
「やれやれ。相変わらず『白炎』殿は乱暴だ」
「うるせえ! いいから黙って見てやがれ!」

 俺はそのままガキに向かって突っ込み、拳や蹴りを繰り出す。
 だがさすがは俺が見込んだ体捌きを見せ、軽やかに回避していく。

 こんにゃろっ……!

 とはいっても、冒険者候補生のガキに舐められても困る。ちょっとくらい本気を出す。
 身体から魔力を放出し、肉体強化を行っていく。

「おらぁぁぁっ!」

 威力も速度も強化したハイキックを放つ。

 ――捉えた!

 そして見事にガキの頭部に命中した……と思ったが、

「な、何ぃぃっ!?」

 あろうことか片腕であっさりと防御し切っていたのである。

 嘘だろおい! 魔力強化もなしで俺の蹴りを……っ!?

 するとガキがその場から跳躍し、そこで弓を構えた。
 しかしよく見ると、弦は引いているものの、そこには肝心の矢が見当たらない。

「何だ? 何をするつもりだ?」

 ガキが弦を離すが、やはり何も射られては――。

「――いぶぅっ!?」

 な、何……だと……っ!?

 突然顔面が殴りつけられたような衝撃を受け体勢が崩れる。
 だが倒れる前に両足に力を入れて踏ん張り、上半身を起こす。

「……へぇ、さすが。今のでも倒れないなんて」

 どうやらガキが何かしたのは明らかのようだ。
 地上に降りてきたガキは、感心するような目で俺を見つめている。

 俺は口から零れ出した血を拭い、ギロッとガキを睨みつけた。

「今、何しやがった?」
「説明義務がありますか?」
「…………いや、ねえな。さあ、続きをしようぜ」

 俺もバカだ。わざわざ自分の手の内を他人に教える奴はいねえ。ガキだからって甘く見てた。
 するとガキがまだ弓を構えて、矢を射るような仕草をしてくる。

 俺は咄嗟に顔面を両腕をクロスして守った。
 そこへやはり殴られたような衝撃が腕に走る。しかしこれは明らかに質量のあるもので殴られたようなものじゃない。

「! ……やっぱり一撃じゃダメか。なら……」

 ガキが呟いた直後、風も吹かないこの場所に何故か風が吹き荒れる。

 いや、これは周囲の大気が動いているのか?

 その大気の激しい流れが、ガキへと向かっていっている。

「次は少しキツイのいきます。会場を壊したらすみません」
「あん? 壊――っ!?」

 直後、ガキが弦を引く手を放したとほぼ同時に、俺の全身を、見えない何かが襲い掛かってきた。

 すぐに先程よりも防御態勢を強くするが、息つく暇もなく連撃が繰り出されてくる。

「うぐぅぅぅぅぅっ!?」

 どういうわけだコラァッ! 奴は一発しか射ってねえだろうがぁぁっ!

 実際にガキはもう射ち終わったような自然体だ。それなのに、まだ次々と衝撃がやってくる。
 徐々に上半身の服が破け飛び、俺の身体も少しずつ後方へ押されていく。

 勢いはまったく弱まらず、気づけば後ろにあった会場の壁まで下がってきていた。
 そしてそのまま押し潰されるようにして俺の身体が壁にめり込んでいく。

「「……………っ」」

 その様子を、オリビアとシンクレアは、言葉を失って見入っている。
 そして俺はというと、破壊された壁の中から、笑みを浮かべながら出てきた。

「面白え……面白えじゃねえかぁ!」

 こうなったら俺の魔法でコイツを――。

「――――――そこまで」

 その時、観客席の方から声が降ってきた。



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