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番外編

番外編 初めての……

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今日は婚姻式。

真っ白なウエディングドレスに身を包んだ私は少し緊張している。

控室の椅子に腰掛け、ある日ハンスに言われた言葉を思い出した。

「お互い初めての唇への口づけは婚姻式の時にしたい」

手の甲や髪の毛、それと額には今までも口づけされたことはある。それでも唇への口づけは一度もなかった。

婚約者同士なら唇への口づけも許された行為。昔は婚姻式に初めて唇への口づけを許された。そんな時代もあったけど、今は時代も変わり、婚約者同士なら唇への口づけをしているそう。

ハンスは愛の言葉を伝えてくれる。手を繋いだり抱きしめたり、全身で愛を伝えてくれる。

だからこそ、手の甲や髪の毛、額には口づけを落とすのに、どうして唇への口づけはしないのかと思っていた。

今までだってハンスの唇が私の唇に近づくことが何度もあったのよ?でも女性の私から聞くに聞けないじゃない?

だからお兄様には悪いけど、聞くきっかけになると思ったの。

「今朝ね、お義姉様に用事があって部屋を訪ねたの。そしたらお兄様と口づけをしていたの。お兄様とお義姉様は夫婦だから口づけをしていても当然よね。でも、ほら、今は婚約者同士でも口づけをしているでしょ?だから別に珍しいことではないんだけど、ただ、部屋に入っていいものか、夫婦の時間を邪魔しては悪いかなって思ったの」

「分かる。俺も兄上と義姉上のそういう場面によく出くわしたよ。まあ家は父上と母上は子供がいようが気にしない人達だから。子供の頃は両親が仲良くて嬉しいって思ってたけど、年頃になると気まずくてさ。親の何を見せられているんだって。隠れてすることじゃないけどさ、隠れてしてくれって思ったよ」

ハンスはハハハッとうんざりするような顔をした。

「だから……、……私には、しないの?」

私は顔を俯けた。

「違う!違うよ、俺がどれだけ我慢してると思ってるの?」

顔を上げた私はハンスを見つめる。

「我慢してるなら、どうしてしないの?」

「婚約者同士なら許された行為ではあるけど、やっぱり初めての口づけは婚姻式の時にしたい。だからそれまでは我慢する。でもリシャが本当に可愛すぎて我慢できないんだ。だから唇以外に口づけしたくなるんだよ」

ハンスは真剣な顔で私を真っ直ぐ見つめた。

ハンスの指が私の唇に優しく触れる。

「婚姻式では奪うから……。リシャの初めてを全部俺がもらうから、覚悟していて」

獲物を狙うような瞳に、私はドキッとした。

「婚姻式では我慢しない。遠慮なく唇に口づけするから。リシャが恥ずかしいと言ってもやめない」

あの日からハンスは指すら私の唇に触れたことはない。

そして今日、あの約束の日。

獲物を狙うような瞳に捕らわれた私はもう逃げられない。

唇への口づけで、どんな多幸感に包まれるのか……。未知な私は少し怖くもあり、楽しみでもある。

コンコンコンコン

「お時間です」


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