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今は図書室。

今日は朝から散々だったわ。あれから教室では皆に見られ、歩けば噂話をされ、食堂へ行けば好奇の目にさらされ…。

もう明日から学園に来れないじゃない!


「朝は凄かったな」

「見てました?」

「あんな朝から見るなって言う方が無理だろ」

「そうですよね…」

「あの後元婚約者凄かったぞ?」

「そうなんですか?」

「崩れ落ちて、と言っても既に片膝は付いていたから両膝付いただけだが、「何故だ、俺はこんなに愛しているのに…俺は一生アイラしか愛さない…」って言っていたぞ」

「へぇ~」

「俺は劇を観ている気分だった」

「無料で観れて良かったですね」

「確かにな、役者顔負けの渾身の演技だったな」

「あの人はそういう人です」

「あれじゃあ次の婚約者は見つからないだろ」

「あれでもまぁ見目は良いので大丈夫ですよ。それに直ぐに他の女性を好きになります」



案の定、3日後には他の女性と歩いているマシュー様を見かけた。


「元婚約者のアイラじゃないか。俺の愛しい人を紹介するよ」

「別に紹介はいらないです。どうぞ幸せになって下さい。そしてもう私に話しかけてこないで下さい」

「フン、お前みたいな性格の悪い奴に話しかけるか!お前が可哀想だと思って声をかけてやったんだ!俺に振られて泣いていると思ってな!」

「そうですか。私は可哀想ではないし振られてもいないのでお気遣いは結構です。今後は話しかけないで下さい。私達は他人なので」

「最後まで可愛げのない奴だな!縋って来たら邪険にするのは可哀想だと思っていたが、今後一切縋りついたりするなよ!俺の愛は愛しい人のものだからな!

後悔するなよ?」


誰が後悔するか!婚約破棄になって清々したのはこっちよ!


またも食堂の出入り口でこのやりとり…。食堂には昼食を食べている生徒が大勢いて視線は勿論私達に注がれている。

無駄に大きな声でマシュー様が話すから注目を浴びてるわ。


マシュー様は愛する人と仲良さそうに食堂へ入って行き、私はその後を一人で入って行く。

傍から見たら私は振られても元婚約者に縋る痛い女性に見えるじゃない!

レミーに先に行っててなんて言うんじゃなかった…。




「疲れた…」

「食堂で凄かったな」

「やっぱり見てましたよね」

「見てたな。おそらく食堂にいる奴は全員見てたな」

「ですよね…」


私は癒やしの場に来ている。黄昏さんと話すのが今の私の癒やしになっている。

それに図書室では他人の事を気にしない人しかいないから誰かの視線にさらされる事はない。

最近ずっと噂の的だから居心地が悪くて、図書室が唯一の癒やしの場になっている。


「お前も大変だな」

「はい……」

「大変な時に何だが…」

「どうしました?」

「婚約者が出来そうだ」

「良かったですね」

「まだ分からないぞ?」

「でも候補がいるって事ですよね?」

「まだ顔合わせもしていない」

「それでもおめでとうございます」

「ああ、ありがとう」


黄昏さんの笑った顔を見た時、


ツキン


ん?


「今度は貴方を理解してくれる人だと良いですね」

「理解か…」

「ちょっと不器用でキツい言い方をする事もありますが、優しくて貴方なりに婚約者を思っています。仏頂面は少し怖いですが、笑った顔は素敵ですよ?」

「そんな事はない」

「私が困っていた時に声をかけてくれたじゃないですか。例え知らない、話した事もない人でも困った人を見て見ぬふりを出来なかった証拠です。それは優しさです。

私が貴方に思った事は損な性格だなと思いました。話せば話してくれるし、聞けば答えてくれる。それに私の話も聞いてくれたでしょ?

それを今度は婚約者さんとして下さい。貴方なら大丈夫です」

「それもお前のおかげだ。今迄言わなくても分かってもらえると思っていたし、男だから愚痴をこぼすのはかっこ悪いと思っていた」

「愚痴なんて生きていたらありますよ。愚痴ばかりだと嫌ですが、その分相手を思う気持ちも言葉にすれば相手には伝わります。相手からすれば愚痴をこぼせるほど自分に心を開いてくれていると嬉しく思うと思いますよ?」

「気持ちな」

「手紙や花言葉ですよ」

「そうだな」

「後はせめて自分が贈った贈り物は把握して下さい。自分が贈った贈り物を付けてくれた時に「付けてくれて嬉しい」「やっぱり似合うな」それで気持ちは伝わります」

「それは分かってる」

「今度は上手くいきますよ」

「俺も上手くいくように努力する」

「その意気込みです」



黄昏さんも婚約者ができちゃうのか…。

なんか少し寂しいな…。

せっかく仲良くなれたのに……




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