8 / 18
8
しおりを挟む今は図書室。
今日は朝から散々だったわ。あれから教室では皆に見られ、歩けば噂話をされ、食堂へ行けば好奇の目にさらされ…。
もう明日から学園に来れないじゃない!
「朝は凄かったな」
「見てました?」
「あんな朝から見るなって言う方が無理だろ」
「そうですよね…」
「あの後元婚約者凄かったぞ?」
「そうなんですか?」
「崩れ落ちて、と言っても既に片膝は付いていたから両膝付いただけだが、「何故だ、俺はこんなに愛しているのに…俺は一生アイラしか愛さない…」って言っていたぞ」
「へぇ~」
「俺は劇を観ている気分だった」
「無料で観れて良かったですね」
「確かにな、役者顔負けの渾身の演技だったな」
「あの人はそういう人です」
「あれじゃあ次の婚約者は見つからないだろ」
「あれでもまぁ見目は良いので大丈夫ですよ。それに直ぐに他の女性を好きになります」
案の定、3日後には他の女性と歩いているマシュー様を見かけた。
「元婚約者のアイラじゃないか。俺の愛しい人を紹介するよ」
「別に紹介はいらないです。どうぞ幸せになって下さい。そしてもう私に話しかけてこないで下さい」
「フン、お前みたいな性格の悪い奴に話しかけるか!お前が可哀想だと思って声をかけてやったんだ!俺に振られて泣いていると思ってな!」
「そうですか。私は可哀想ではないし振られてもいないのでお気遣いは結構です。今後は話しかけないで下さい。私達は他人なので」
「最後まで可愛げのない奴だな!縋って来たら邪険にするのは可哀想だと思っていたが、今後一切縋りついたりするなよ!俺の愛は愛しい人のものだからな!
後悔するなよ?」
誰が後悔するか!婚約破棄になって清々したのはこっちよ!
またも食堂の出入り口でこのやりとり…。食堂には昼食を食べている生徒が大勢いて視線は勿論私達に注がれている。
無駄に大きな声でマシュー様が話すから注目を浴びてるわ。
マシュー様は愛する人と仲良さそうに食堂へ入って行き、私はその後を一人で入って行く。
傍から見たら私は振られても元婚約者に縋る痛い女性に見えるじゃない!
レミーに先に行っててなんて言うんじゃなかった…。
「疲れた…」
「食堂で凄かったな」
「やっぱり見てましたよね」
「見てたな。おそらく食堂にいる奴は全員見てたな」
「ですよね…」
私は癒やしの場に来ている。黄昏さんと話すのが今の私の癒やしになっている。
それに図書室では他人の事を気にしない人しかいないから誰かの視線にさらされる事はない。
最近ずっと噂の的だから居心地が悪くて、図書室が唯一の癒やしの場になっている。
「お前も大変だな」
「はい……」
「大変な時に何だが…」
「どうしました?」
「婚約者が出来そうだ」
「良かったですね」
「まだ分からないぞ?」
「でも候補がいるって事ですよね?」
「まだ顔合わせもしていない」
「それでもおめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
黄昏さんの笑った顔を見た時、
ツキン
ん?
「今度は貴方を理解してくれる人だと良いですね」
「理解か…」
「ちょっと不器用でキツい言い方をする事もありますが、優しくて貴方なりに婚約者を思っています。仏頂面は少し怖いですが、笑った顔は素敵ですよ?」
「そんな事はない」
「私が困っていた時に声をかけてくれたじゃないですか。例え知らない、話した事もない人でも困った人を見て見ぬふりを出来なかった証拠です。それは優しさです。
私が貴方に思った事は損な性格だなと思いました。話せば話してくれるし、聞けば答えてくれる。それに私の話も聞いてくれたでしょ?
それを今度は婚約者さんとして下さい。貴方なら大丈夫です」
「それもお前のおかげだ。今迄言わなくても分かってもらえると思っていたし、男だから愚痴をこぼすのはかっこ悪いと思っていた」
「愚痴なんて生きていたらありますよ。愚痴ばかりだと嫌ですが、その分相手を思う気持ちも言葉にすれば相手には伝わります。相手からすれば愚痴をこぼせるほど自分に心を開いてくれていると嬉しく思うと思いますよ?」
「気持ちな」
「手紙や花言葉ですよ」
「そうだな」
「後はせめて自分が贈った贈り物は把握して下さい。自分が贈った贈り物を付けてくれた時に「付けてくれて嬉しい」「やっぱり似合うな」それで気持ちは伝わります」
「それは分かってる」
「今度は上手くいきますよ」
「俺も上手くいくように努力する」
「その意気込みです」
黄昏さんも婚約者ができちゃうのか…。
なんか少し寂しいな…。
せっかく仲良くなれたのに……
49
お気に入りに追加
2,207
あなたにおすすめの小説
──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。
ふまさ
恋愛
伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。
「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」
正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。
「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」
「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」
オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。
けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。
──そう。
何もわかっていないのは、パットだけだった。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
この恋に終止符(ピリオド)を
キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。
好きだからサヨナラだ。
彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。
だけど……そろそろ潮時かな。
彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、
わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。
重度の誤字脱字病患者の書くお話です。
誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
そして作者はモトサヤハピエン主義です。
そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんでも投稿します。
婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。
ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」
はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。
「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」
──ああ。そんな風に思われていたのか。
エリカは胸中で、そっと呟いた。
【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?
曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」
エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。
最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……?
小説家になろう様でも更新中
「……あなた誰?」自殺を図った妻が目覚めた時、彼女は夫である僕を見てそう言った
Kouei
恋愛
大量の睡眠薬を飲んで自殺を図った妻。
侍女の発見が早かったため一命を取り留めたが、
4日間意識不明の状態が続いた。
5日目に意識を取り戻し、安心したのもつかの間。
「……あなた誰?」
目覚めた妻は僕と過ごした三年間の記憶を全て忘れていた。
僕との事だけを……
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)
青空一夏
恋愛
従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。
だったら、婚約破棄はやめましょう。
ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!
悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる