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しおりを挟む抱っこをすると温かくずっしり重いジェイク君。ぐっすり眠るジェイク君を寝室のベッドに寝かせる。私は眠るジェイク君を見つめる。
髪を撫で、頬を撫でる。小さい手を優しく包む。
髪の色は私と同じ、顔立ちはローガン様に似ている。私とローガン様の間の子が出来ればこの子に似た子だったかもしれない。
私が産めたらどんなに良かったか。
眠るジェイク君を見ていると頬を伝う涙が溢れた。
部屋に入ってきたローガン様は私を後ろから抱きしめる。私はローガン様の胸の中で泣いた。ローガン様は優しく私の背中をさする。
「ジニア…、」
ローガン様の優しく辛い声。ローガン様が選んだ選択だけどローガン様自身も苦しんだのかもしれない。
泣くだけ泣いたら落ち着き、ローガン様から離れた。
「ジニア、自分の子ではない子を見ると辛いか?」
「少し…」
「言ってくれ、ジニアの気持ちを教えてくれないか」
「私が産めたらどんなに良かったか、それは本心です。私がローガン様の子を産みたかったそれも本心です。得たかったもの、それでも得ることが出来ないもの。
アイビー様が羨ましい…」
「ジニア」
ローガン様は私を優しく抱きしめた。
「私もアイビー様のようにローガン様の子を産みたかった……」
「俺が悪いんだ。ジニアのせいじゃない。全て俺が悪いんだ。ジニアを子に取られたくないと願った。それにジニアが止めてと言っても止めなかった。俺が殺したんだ。自分の子を俺が殺した…」
「お医者様も言っていたではありませんか。それは関係ないと」
「それでも俺は一生自分を許せない。俺のせいでジニアが傷つけられるのは嫌だった」
「ふぇ、ふぇ」
私はローガン様から離れジェイク君を抱き上げた。
「大きな声を出して驚かせちゃったわね。もう大丈夫よ。よしよし」
ジェイク君の背中をトントンと優しく叩く。
「綺麗だ、ジニア、綺麗、だ……」
ローガン様の目から涙が溢れる。
「もうローガン様、」
私の目からも涙が溢れる。
ローガン様は私とジェイク君を優しく包みこんだ。
「ジェイクは俺とジニアの子だ。誰が何を言おうと俺とジニアの子だ…」
ローガン様の震えが私に伝わる。
ローガン様もずっと後悔して過ごしてきた。アイビー様に頼んでまで子を作ったのも自分のせいで子が出来ないと思っていたから。自分が殺したと自分を恨み憎み後悔し続けた。
それでも原因は私の方。子が出来ないのは私の体の方。
ローガン様は優しい人。
私のせいとは言わない。子が出来なければいいと思っただけで子が出来ない訳ではない。現に子は出来た。その思いだけで神が連れて行く訳がない。それも2度も…。
それでもローガン様は自分のせいだと言う。私のせいだと責められたら嫌いになれたのに。私のせいだと罵ってくれればどんなに楽だったか…。
母乳の時以外は私がジェイク君の面倒を見ている。
「ジニア、もう出る」
今はローガン様とジェイク君が湯浴みをしている。私は寝室にある浴室の中に入りジェイク君をローガン様から受け取る。寝室のベッドの上に寝かせ体を拭き服を着せる。
ローガン様も浴室から出てきた。
「ローガン様きちんと拭いて出てきて下さい」
「ならジニアが拭いてくれ」
私はローガン様に呆れた顔を向けた。
「すまない…」
「髪の毛もきちんと拭いて下さいね」
「分かった」
母乳を飲ませる為にアイビー様の部屋にジェイク君を連れて行き、寝室に戻って来た。
椅子に座り髪の毛を拭いているローガン様のタオルを手に取りローガン様の髪の毛を拭く。
「悪い」
「ローガン様、これからどうするつもりですか?」
「俺はジニアともう一度夫婦になりたい」
「もしアイビー様がジェイク君と離れたくないと言ったら?」
「それは契約違反だ」
「それでも自分の産んだ子に愛情を持つのが母親です。もしその時はアイビー様と再婚して下さい」
ローガン様は振り返った。
「それは出来ない。俺はジニアしか妻にしたくない。その時は充分なお金で支援する。アイビーとジェイクが暮らす邸を買ってそこで暮らしてもらう」
「ローガン様、ジェイク君の父親はローガン様です。父親がいて母親がいて子供がいる。それが家族の理想です。父親としての責任がローガン様にはあります」
「それでも俺が愛しているのはジニアだけだ」
ローガン様の真剣な目。真っ直ぐ私を見つめる。
アイビー様の部屋にジェイク君を迎えに行き、
「アイビー様、勉強も大事ですが睡眠も大事ですよ」
「ありがとう。それでも遅れた分やりたいの」
生き生きとした顔で話すアイビー様。今は母親の顔ではなく夢を追う女性の顔をしていた。
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