私は旦那様にとって…

７

後日医師から証明書を受け取った。


「奥様いいですか？これはもしもの時に、です。いいですね？医師として先ずはご当主ときちんと話し合う事を勧めます」

「分かりました」


私は私室の机の奥底に隠した。


アイビー様のお腹は大きくなりました。


「ジニア今帰った」

「おかえりなさいませ」

「アイビーの腹も大きくなっただろ」

「そうですね」

「俺の子が産まれるのも後少しだ。今から楽しみだ。男か女か、ジニアはどっちがいい」

「そうですね、男の子でも女の子でも健康ならそれで」


嬉しそうにアイビー様とのお腹の子の事を話す旦那様。


「子が産まれたらジニアもアイビーを助けてほしい。出来れば子を産んだアイビーには休養をさせたい。アイビーの代わりにジニアが赤子の面倒を見てくれ」

「分かりました」


旦那様はアイビー様とお腹の子に会いにアイビー様の私室へ行った。最近は邸に帰ると真っ先にアイビー様の私室へ行く事もあり、そのままアイビー様と過ごす。

旦那様は着替えに自分の私室へ戻ってくるだけ。

私もそろそろ覚悟を決める時が来た。だけどあと一歩、踏ん切りがつかない。


私室の開いている窓からは気持ちのいい風が入ってくる。風に乗って楽しく話す声が聞こえる。

ふっと外を見れば、庭には膝の上に座らせ大きなお腹を撫でる旦那様の姿が。

その光景は、愛し合う夫婦に子が出来、お腹が大きくなった妻を膝の上に座らせ、二人の愛しい子が宿るお腹を撫でる。

子を宿した夫婦の情景。


今日は気持ちのいい風が吹いている。私の頬を雫が伝い、吹き抜ける風が私の頬を冷たく冷やした…。



次の日私は旦那様を見送ります。


「行ってくる」

「旦那様、いってらっしゃいませ。お気をつけて」

「ああ、直ぐに戻る」


私は微笑んで旦那様を送り出した。


「馬車の用意をお願い」


私の横に立つ執事へ声をかけた。


「旦那様はご存知ですか？」

「どうして？」

「旦那様からは奥様を邸から一歩も出すなと言いつかっています」

「教会へ行くだけよ？誰にも会わないわ。私はただ神にお伝えするだけ。旦那様に子が宿ったと。それから無事出産を迎えたいと私の気持ちをお伝えするだけよ。私は旦那様な妻だもの。妻の私が子を授けてくれた神にお礼をしないと」

「分かりました。直ぐにお戻り下さい」


それから私は私室へ戻り落ち着いた色の服に着替え、証明書を鞄に入れ、後は大事な物を入れ、馬車に乗り込み教会へ向かった。御者に帰ってもらい教会の中へ入る。

神父様に証明書を見せ、


「この選択に間違いはありませんか？もう一度考えて下さい」

「何度考えても同じです。神父様、家族は家族の姿が望ましいと私は思います」

「分かりました。気持ちは変わらないようなので受理しましょう」

「ありがとうございます」


私は神父様にお辞儀をして教会を後にした。


お金を自由に持てない私は唯一お母様から結婚する時に譲り受けた指輪をお金にしようと。


『ジニア、何かあった時はこれを売りなさい。数日分にしかならないかもしれないけど無いよりはましよ』


お母様、ごめんなさい。これだけは売りたく無かった。でも旦那様から貰った宝石を売る事は出来ないわ。だから置いてきたの。勝手に離縁する私が使う事は出来ないから。

私は商会の前でウロウロとしている。


「おや、先程のご婦人ではありませんか」

「神父様」

「どうしました？」

「お恥ずかしいのですが私には自由に持ち出せるお金はありません。唯一の物が母から譲り受けたこの指輪だけです。ですが換金するのに気が引けて」

「それはそうでしょう。お母様の大事な指輪です。行く所がないなら教会へ来ませんか？」

「教会へですか？」

「教会は行き場のない者を一時的に受け入れています。ゆくゆくは自分で仕事を探し生活してもらいますが、その間どうぞ教会へ来て下さい」

「良いんですか？」

「ええ。ただし教会の掃除、隣接する孤児院の食事など手伝ってもらいますが」

「掃除も食事作りも得意です」

「なら良かった」


私は神父様と一緒に教会へ戻り空いてる部屋で生活を始めた。ここで、これから仕事を探し一人で生活出来るように頑張ろう。