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6 愛は必要ですか?
しおりを挟むこの国の歴史、先代の王達、それ等から学ぶものは多い。
良い風習は残し、悪い風習は見直す。
女性が口を出すのを良しとしない、それは遥か昔、狩りは男性の仕事だった。剣を使い弓を射る、そうして狩りをしていた。男性は強く女性は守る者。
狩りが政になり国が出来た。族長が王になり今がある。
政は男性が率先して行ってきた。開拓した土地を守る為に剣を持ち、そして国土を広げる為に剣を振るう。
武力と知能、その最前線にはいつも男性が立っていた。
それが今も残る風習。
女性しか子供は産めない。自分の跡を継ぐ子、その子供を産む女性を守る、それが家の繁栄に繋がり代々続いていく。
一昔前、夫婦の始まりは親が決めた顔も知らない初めて会った人、それが当たり前の世の中だった。
人によっては妥協した人もいるかもしれない。我慢と忍耐、それが当たり前で別れるという概念はなかった。
幸か不幸か、それはその人その人で違う。
そして月日が流れ愛し合う者同士が婚姻し家が継がれていった。
今は産まれながらに定めが決められている。王族か貴族か平民か。それでも始まりはこの地で暮らす民の一人。
部族が集まり国になり、国を導く為に長が王になり、王を支える者達と地を耕し守る者達に分かれ、それが今の貴族と平民になった。
女性しか子を産めないからこそ女性を家の中で囲う。狩りに出れば命懸け、男性が命を落としても女性が残れば子孫は残せる。
子孫を残す、それが本能だから。
なら子孫を残さない者達が不幸か、それは違う。使用人の中には主に生涯を捧げ尽くす者達がいる。その者達にとって子孫を残せなくても主と共に、それが幸せ。
それに職に生涯を捧げる者達にとってもそれが幸せ。
生き甲斐はその人を幸せにする。
子孫を残すだけが全てではない、それが見直した風習。
表舞台には男性が立つ、それは今後も無くならない。
代々第一王子が王になり、王妃を除けば王の側で支えるのは男性ばかり。実際に女性を軽視する国は多い。
昔、狩りも数人の男性で行っていた。指示を出す者、その指示に従う者達、そうして狩りは成功し食料にありつけた。そうした男性としての本能は根強く残り続ける。
それが良い悪いではなく。
そういう意味では私は不幸だった。家族に恵まれ贅沢な暮らしもできた。それでも、子孫を残す残さないの前に当たり前のように婚約し婚姻し夫婦になり、絵に描いたような女性の幸せを得ても幸せと呼ぶには程遠い所に私はいた。
前の私に問いたい。
『愛は必要ですか?』
そして今の私にも問いたい。
『愛は必要ですか?』
フレディやフランキーには愛が必要だと即答できる。
なら私は?
たかが愛されど愛、愛だけで生活はできない。それでも愛は人に潤いを与える。
それに愛は何も異性だけではない。主に仕える使用人の忠誠心、職に自分の腕に持つ誇り、それも愛と呼べるんじゃないの?
だから生き甲斐も何もなくただ生きていた私は不幸だった。
お母様が前に言っていた。
『お父様が行う事に異を唱える事はしなかったわ。でも旦那様には意思を伝える事はできると思うの。その言葉がその態度が私は傷つきますって。
夫婦といっても夫婦になるまでは赤の他人。それにその人にしかその人の心の中は分からないわ。良かれと思った事が相手を傷つける事もある。だから人は声を得て言葉で伝える事ができるの。
意思を伝え相手がどう思いどう行動するか、それは相手の自由。相手にも相手の心があるから。
我慢や忍耐は美学かもしれない。それでも我慢と忍耐の先に何が残るの?幸せ?それとも空虚な心?
お母様はこう思うの。縁あって夫婦になったのだから自分も相手にも幸せになってほしい。その為の努力は必要よ?感謝を伝える、思いを伝える、私達は言葉という最強の武器を持っているんだもの。
だからね、グレース、貴女が幸せだと思えないのなら、言葉を伝えるに値しないとそう判断したのなら、貴女は貴女が幸せだと思う生き方をしなさい。
それが母親の私の願いよ』
どれだけ隠しても噂話は広がる。
あれはフレディが妻の私よりも弟嫁のロザンヌ様を優先している、そう噂話が流れた時だった。
女癖の悪い弟、弟思いの兄、だから弟嫁のロザンヌ様を労り気に掛けている。同情、配慮、そう映っていた。
女性は口を出さない、それでも夫婦間なら許される事はある。でも私は意思疎通、それをしなかった。
フレディの事は理解しているつもりだった。何も言わなくても分かってもらえる。それにフレディがロザンヌ様を愛しいと思っていたのも知っていた。
だから初めから努力を怠った。
夫婦になる為の努力を私は怠った。
夫婦になる為の努力をしていたら、違った未来が待っていたかもしれない。
私が反省すべき事だわ。
フレディ一人を責める事はできない。
よし!私は自分の幸せを見つけながら未来を変える。
そこに愛が生まれればそれも良し。生き甲斐を見つけるも良し。
今度は自分の為に、死ぬ直前『私の人生は幸せだった』そう思える人生を歩もう。
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