27 / 39
27
しおりを挟む額を上げたラウル様。
「陰口を叩かれるだろう。しなくていい苦労もするだろう」
それは貴方を好きになった時点で覚悟している。子爵令嬢の私が侯爵夫人になるにはそれ相応の苦労をしなければならないのも覚悟の上。
「母上は厳しい人だ」
厳しいくらいがちょうどいい。
ラウル様は胸元から小さい箱を取り出した。
私を見つめるラウル様。
「俺の妻になってほしい」
小さい箱の中には指輪が入っていた。
「私もラウル様の妻になりたいです」
ラウル様は箱の中から指輪を取り出し私の指にはめた。
「好きだ、セレナ」
「私もラウル様が好きです」
ラウル様は私の手の甲に口づけした。
見つめ合う私達。お互い自然と微笑む。
ラウル様は立ち上がりまた隣に座った。繋がれた手をお互いぎゅっと握る。そしてまたお互い顔を見つめ微笑んだ。
「どうしてラウル様が卑怯者なんですか?」
「うん……」
言いづらそうにしているラウル様。
「別に無理には聞きませんが」
「いやな、俺はエマに協力を頼んだんだ。セレナの好きなもの、好みとか、まぁ色々情報をな」
「だから…」
私はボソッとつぶやいた。
「ん?なんだ?」
「いいえ」
私は顔を横に振った。
「なら私の気持ちも知っていたんですか?」
「エマもそこだけは教えてくれなかった。ただ、「いい返事かもしれないでしょ、ラウル様が頑張らないといけないことは気持ちを伝えることよ」とは言われたが、いまいち自信がもてなくてな。そしたら「お前は男だろ、しっかりしろ」とジョーイに怒られた。それから「お前が意気地なしのままならセレナには別の男を紹介するからな」そう発破をかけられた」
ラウル様は真っ直ぐ神の像を見つめる。
「だから今日ここで気持ちを伝えようと思った。ここでなら意気地なしの俺の背を押してくれるんじゃないかと思ってな。こんな俺に慈悲を与えてくれるんじゃないか、奇跡を起こしてくれるんじゃないか、そう思った」
「ですがそれはラウル様の勇気です。意気地なしは私です。私は気持ちを伝える勇気がありませんでした」
ラウル様は私の肩を抱き寄せた。
「ジョーイとエマに感謝しないとな。俺に勇気を出せと背中を押してくれた。俺のせいで兄妹喧嘩までさせたのにな」
「では二人に何か好きなものを贈りましょう」
「ああ、そうだな」
きっとエマがラウル様に協力していると知ったジョーイお兄様はエマに注意をした。仮初の婚約者になる前にどうして友人として私を止めなかったと。
ジョーイお兄様もラウル様の友人としてラウル様には幸せになってほしいと望んでいる。それでもこれは違うと。
だからあの集まりの時に私に声をかけた。どうしてそんな馬鹿なことをしたんだと。でも私の気持ちを知り、ラウル様の背中を押した。
きっとエマに協力を頼んだ時、ラウル様は自分の気持ちをエマに伝えたのだろう。でも気持ちを伝えるつもりはないと言った。あくまで私が好きな人を見つけるまでの仮初の婚約者でいいと。私に好きな人が現れたら身を引くつもりだと。
幼い頃から私をよく知るエマには、私がラウル様に好意を抱いていると分かった。私の言葉や態度や表情から。
両思いなのにお互い消極的。
それに私はエマ曰く自分への好意には鈍感らしい。始まりは仮初の婚約者でも婚約者になればいずれ本当の婚約者になれる。そう思ったエマはラウル様に協力した。
「俺の妻になれば苦労をさせると思う」
「それは私がしなくてはいけない苦労です」
「誰かに何か言われたら教えてくれ」
「誰に何を言われても気にしません」
「俺と一緒にいれば白い目で見られ、後ろ指を指されるだろう」
「なら堂々としましょう。私達が仲良くしていればそのうち誰も私達のことなんか気にしません。お互い大好きだと皆さんに伝わります」
私はラウル様を見つめる。
申し訳なさそうな顔をするラウル様。
「私はラウル様が好きで貴方の妻になりたいんです。苦労も貴方の妻になるには必要なことです。後妻は薄外聞が悪いのは確かです。それでも私がラウル様を好きなんです」
「俺もセレナが好きだ。愛しい。離したくないしもう離せない」
「私も離れません」
「一緒に耐えてくれるか?」
「耐える必要はありません。私達はお互い好きで婚約し婚約者になりました。初婚じゃないとか後妻だとか、そんなことは瑣末なこと。それに私が後妻になり誰かに迷惑をかけますか?それでも人は陰口を叩くでしょう。ですがそれに惑わされる必要はありません。私達の気持ちさえ、お互いを思いやる気持ちがあれば、それだけで心強くなります」
「セレナ」
ラウル様は私を抱きしめた。
「あの晩の俺の行動を今の俺が褒めてやりたい。よくぞ後を追ってくれたと。あのまま終わりにしなくて良かった」
「それは私も同じ思いです。あのバルコニーで会ったのが貴方で良かった」
「セレナ」
私を真っ直ぐ見つめるラウル様。私もラウル様を真っ直ぐ見つめる。自然と近づくラウル様の顔。私は目を閉じた。ぎこちなく触れるラウル様の唇。
重なる唇が離れ、ラウル様は私を抱きしめた。
「好きだ、お前が愛おしい……」
「私も貴方が愛おしい……」
私はラウル様の背に手を回した。
31
お気に入りに追加
1,040
あなたにおすすめの小説
会うたびに、貴方が嫌いになる
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。
アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
王子様、あなたの不貞を私は知っております
岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。
「私は知っております。王子様の不貞を……」
場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で?
本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
死に戻るなら一時間前に
みねバイヤーン
恋愛
「ああ、これが走馬灯なのね」
階段から落ちていく一瞬で、ルルは十七年の人生を思い出した。侯爵家に生まれ、なに不自由なく育ち、幸せな日々だった。素敵な婚約者と出会い、これからが楽しみだった矢先に。
「神様、もし死に戻るなら、一時間前がいいです」
ダメ元で祈ってみる。もし、ルルが主人公特性を持っているなら、死に戻れるかもしれない。
ピカッと光って、一瞬目をつぶって、また目を開くと、目の前には笑顔の婚約者クラウス第三王子。
「クラウス様、聞いてください。私、一時間後に殺されます」
一時間前に死に戻ったルルは、クラウスと共に犯人を追い詰める──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる