年の差のある私達は仮初の婚約者

アズやっこ

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それからもラウル様と街を歩く。

「あのお店に寄りたいのですが」

視線の先には人気のクッキー店。今日もクッキー店は大盛況。

「あの店か」

ラウル様は私の手を引き目的の店まで進む。店に着き私は一人で入ろうとした。店の中は女性客ばかり。でもラウル様は気にせず店の中に入る。

「ラウル様」

「ん?」

店の中にいた女性達はラウル様をチラチラと見ている。私だって男性が入ってきたら見ると思う。

「あの、お店の外で待っていてください」

「なら買う物が決まったら教えてくれ」

「これはお姉様達へのお礼です。お姉様達に私が贈りたいんです。お礼をラウル様に出していただいても私は嬉しくありません」

「そうか…、分かった。ゆっくり選んでくれ」

ラウル様は店の外で待っている。ラウル様が店の前で立っているからか、クッキー店に入ろうとする女性達が入りづらそうにしている。私は急いでクッキーを選ぶ。

どれにしようか、ついでに自分の分やアニーの分、レイラやメイド達の分も選んだ。

私は欲しいクッキーを書いた紙をお店の人に渡した。数が多い場合はこうして紙に書くとお店の人が用意してくれる。

 このクッキー店でのルールは貴族や平民の差別はしない。だから宅配はしていない。それにサインではなくお金を支払う。それでも買いにくる貴族女性は多い。

私もお店のルール通りにお金を支払う。

「お連れさん、この前はお一人でここに来たんですよ」

「え?」

「ここの中に入る男性は珍しいですから。それにお一人では…」

確かにここの中に入るには勇気がいる。それに一人でここに来る男性は珍しい。

「俺の婚約者がここのクッキーを好きらしいんだが、どれが美味しい、どれが人気だって。これにしようかあれにしようかって真剣な顔で悩んでいましたよ?」

どうして私がここのクッキーが好きだと知っていたのかしら。ラウル様には一度も言ったことがないのに。

「クッキーをお渡しした時に、喜んでくれるかなって。それはとても愛おしいそうな顔をしていました。だから婚約者は誰なんだろうって、貴女だったんですね。いつも私達のクッキーを買ってくださりありがとうございます。これからもご贔屓に」

「ええ、もちろん。ここのクッキーは本当に美味しいもの」

「またお待ちしてます」

「ありがとう」

お店の人は持ちやすいように買ったクッキーを二袋に分けて入れてくれた。私は二袋持ちお店を出る。

「お待たせしました」

ラウル様は私が手で持っている袋をさり気なく持った。花屋で袋に入れてもらったお互いに選んだ花束も、ラウル様がクッキー店から出て行く時に持っていった。それに最初に買った便箋と封筒も。ラウル様の片手は大量の袋を持っている。

「ラウル様、自分の物は自分で持ちます」

「ならセレナは俺の手を離さず持っていてくれ」

片手を差し出すラウル様。

「ありがとうございます」

私はラウル様のご厚意に甘え、手に手を重ねた。ぎゅっと私の手を握るラウル様。ラウル様は嬉しそうに笑った。

「行きたい所があるんだが」

ラウル様は私の手を引き目的地まで歩いた。

「ここは…」

観劇の帰りに立ち寄った教会。ラウル様は扉を開け、以前の時のように一番前の椅子に座り、手を繋いでいる私も隣に座った。

真っ直ぐ神の像を見つめるラウル様。

「前に来た時、俺は神頼みはしないと言った。だが本当は俺もしていた。セレナの言った通り意志を表明し、その為の努力も俺なりにしてきたつもりだ。だが未だに自信はない。ここでなら神も奇跡を起こしてくれるかもと、こうして神の慈悲にあやかろうとするほどに俺には自信がない」

「ラウル様?」

「神は卑怯者の俺にも奇跡を起こしてくれるだろうか」

ラウル様は私の手を離し立ち上がり、椅子に座る私の前に立ち、片膝を付いて座った。私を見上げるラウル様と目が合う。

「俺達は仮初の婚約者だ。セレナに好きな人が現れるまでの関係だと、俺は何度も自分を律した。こんな俺よりも若い男性の方がセレナを幸せにできる。こんな俺が、一度失敗した俺がセレナに相応しいわけがない。一度目の結婚を後悔したことはなかった。だが今は後悔している。どうして俺は初婚ではないのか。どうして俺は……」

私を真っ直ぐ見つめていたラウル様の顔が苦しそうに歪んだ。

「俺はセレナが好きだ。好きな人が現れるまで、そう自分を律したが、今はセレナが俺を好きになってくれたらと願っている」

ラウル様は真剣な顔で私を真っ直ぐ見つめた。

「俺の婚約者になってほしい。仮初の婚約者ではなく本当の婚約者に、なってはくれないだろうか」

私はラウル様に微笑んだ。

「私を貴方の本当の婚約者にしてくださいますか?」

「セレナ……」

ラウル様は泣きそうな顔で私を見つめる。

「本当に?」

「はい」

私も泣きそうな顔でラウル様を見つめる。

膝の上に置いていた私の両手をラウル様の両手が包んだ。その上にラウル様は額を置いた。

涙が瞳に溜まるのが分かった。こんなに嬉しいことはない。こんなに幸せなこともない。

『ありがとうございます。奇跡を起こしてくれて、本当にありがとうございます』

私は何度も心の中で神に感謝した。


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