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しおりを挟む父上に呼ばれ書斎へ入った。
「明日、侯爵家のお茶会に呼ばれている。お前はイザベラをエスコートするんだ、良いな」
「夜会の時も言いましたが、エスコートするならエルザをエスコートします。それに兄上が亡くなって夜会ですか?お茶会ですか?」
「イザベラには気分転換が必要だ。ノアが死んだと思っていない以上、家に閉じ込めておく事もないだろう」
「ですが、俺がエスコートしなくても…」
「義理の姉をエスコートするのがそんなに嫌か?家族をエスコートするのが家族の役目だろ?違うか?
それにイザベラはお前をノアだと思っている。お前がエルザをエスコートしていたら浮気だと思うだろ。ノアは浮気をするような男だったか?どうだ?そんな軽薄な男だったか?」
「違いますが…」
「家族をエスコートしてお茶会へ行く、何の問題もない。そしてお前は夜会の時のようにノアとして振る舞え。ノアの真似をしろ。まるでノアのように見えるようにだ、分かったな!」
「ですが、」
「エリザと婚姻したいならやるんだ。口答えは許さない!」
追い出されるように書斎から出て、
「ノア~」
イザベラがこっちに向かって歩いて来た。
「お茶会のドレスどうしよう。お腹が出てきたから目立つわよね。でもノアとの子だもの、幸せの象徴だから見せびらかすのも良いかも。そう思うでしょ?」
「イザベラ、子にもよくないからお茶会は遠慮させてもらおう。夜会の時も調子を崩しただろ?」
「あの時は悪阻もまだ終わってなかったからよ?今は大丈夫よ?それにこれからどんどんお腹が大きくなるわ、そしたら行けなくなるし、この子を産んだらお茶会や夜会に暫く行けないでしょ?ね?お願い。これで最後になるかもしれないじゃない。
それに侯爵家には参加する返事を出したのよ?それにお茶会は明日なのよ?明日のお茶会を断るのはあちらに失礼だわ」
父上は本当に俺の事なんてどうでも良いんだな。俺が婚約を解消されようが、エリザにどう思われようが、俺の事なんてどうでも良いんだな…。
父上にとって大事なのは兄上とイザベラで、そしてイザベラの腹に宿った兄上の子……だけか…。
侯爵家のお茶会で、俺はイザベラをエスコートして兄上のように振る舞っている。兄上のように、にこやかにし色々な人と話す。イザベラに笑いかけ……、
イザベラが「旦那様」と言うたび俺の内で何かが壊れていく。
イザベラの声がまとわりつき俺を雁字搦めにする。
「旦那様?」
もう止めてくれ!
誰か、助けてくれ!
誰か、
誰か、
エリザ……、
俺を助けてくれ………
「旦那様、どうしたの?」
「少し席を外す」
「分かったわ、早く帰って来てね?」
「ああ」
俺はイザベラから離れ少し一人になりたかった。
力の入った体が、握り拳が、
兄上として振る舞うのに何の意味がある!皆、兄上が亡くなったと知っているのに。
今日イザベラがしゃべっていたのはイザベラの友達ばかり、その人達からは哀れみの目を向けられ、事情を知らない人達からは怪訝な目を向けられた。
旦那様と呼ばれそれに相槌を打つ
もう限界だ!
エリザごめん、婚約は解消する。結婚もできない。
エリザの幸せをいつまでも願っているよ……。
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