1 / 20
1
しおりを挟む私は一人、婚約者との待ち合わせの喫茶店で待っている。
もうケーキは2個頼んだ。紅茶ももう5杯目…。流石にお腹がいっぱいだ。
窓の外を見ても来る気配はない。
カランカラン
出入り口の開く音に目を向けても現れてほしい人は来ない。
もう帰ろうかと思っていた時、
カランカラン
待ちあわせの婚約者が入って来た。
「エリザ、すまない」
「ううん、大丈夫よ」
「すまない、もう帰ってくれるか」
「分かったわ、また今度出掛けよ?ね?」
「ああ」
慌てて出ていく婚約者を私は見送った。
私、伯爵家の長女でエリザ。
婚約者の彼、伯爵家の次男でレオ。
私達は婚約した。レオにはお兄様がいた。レオが婚約者になれたのも次男だったから。いずれ私の家に婿養子に入りお父様から爵位を継ぐ為に同じ伯爵家のレオに白羽の矢が立った。
私も席を立ち喫茶店を後にした。
今日みたいな事は今に始まった事じゃない。もう何度も待ち合わせに遅れて来て、帰るように言われ、直ぐに帰って行く。
また今度
そのまた今度もどうせ私は待ちぼうけ…。
私は初恋だけどレオの初恋は私じゃない。この婚約だってお父様が無理矢理話しを通したんだもの…。私が悲しむのは違うわよね。
学園を入学してから婚約して、卒業しこれから結婚へ向けて準備を進めようと…していた時だった。
私もレオも18歳、レオは男性だからまだ良いけど、私はもう最後の選択に来ている。
このまま婚約を続けるか、
婚約を白紙に戻し違う人を見つけるか、
護衛は少し後ろを歩いて付いてきてくれている。
懐かしい公園、ここで私はレオに恋をした。
本当にありがちな話、
8歳の時、この公園の近くの伯爵家のお友達の家でお茶会をしていた時、子供達だけで邸を抜け出しこの公園へ来たの。風に吹かれて私の帽子が飛んで落ちた所に寝ていたのがレオだった。
私は寝ている男の子を起こさないようにそっと帽子を取った。その時、目を開いた男の子と目が合い、目が離せなかった。
キラキラと太陽のひかりに反射したブルーの瞳、宝石のようなその瞳を近くで見たくて近づいた時に顔が近づきすぎて私の頬に男の子の唇が当たった。恥ずかしくて私は咄嗟に逃げちゃったけど、それからもあの男の子を思うと胸が高鳴ったわ。
学園に入学した時、同じクラスにいたレオを見た時、あの男の子だって直ぐに分かった。それから少しした時、お父様に婚約者と紹介されたのがレオだった。私は飛び跳ねて喜んだわ。
だけど、
婚約者として隣に居たら直ぐに分かった。レオには好きな人がいるって。
それでも私は気付かないふりをした。
婚約者になりレオの優しさ、口数は少ないけど、その少ない口数の中に愛しさを感じたから。
私に風が当たらないように自分が壁になったり、私のつまらない話しを聞いてくれたり、苦手なトマトを知らない間に食べてくれてたり、私が作った固いクッキーを食べてくれたり、上手くもない刺繍入りのハンカチをずっと使ってくれてたり、馬車が横を通るとそっと立ち位置を反対にしたり、雨が急に降り出した時はレオのジャケットを頭に被せてくれたわ。
レオの優しさに私はまた恋をしたの。
気にするな、美味しい、嬉しい、
口数は少ないけどそこにレオの気持ちがこもってた。
レオは口数こそ少ないけど一緒にいる時は私の頭を撫でるの。その優しい手の温もり、私を見つめる優しい瞳、
「好きだ」
って言われた時は本当に嬉しかった。
好きだって言われたのも、クッキーを食べたのも、手を初めて繋いだのも、学生の頃のデートはいつもこの公園だった。
この公園にも最近は来ていない。
私は頬を伝う涙を拭い、懐かしい公園を通り過ぎた。
261
お気に入りに追加
1,682
あなたにおすすめの小説
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
彼が愛した王女はもういない
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。
どちらも叶わない恋をした――はずだった。
※関連作がありますが、これのみで読めます。
※全11話です。
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
婚約破棄のその後に
ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」
来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。
「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」
一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。
見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる