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しおりを挟む1年の婚約を経てマティス様とあちらの国で婚姻する。伯爵家の庭で身内と友達だけ招きお披露目パーティーを開いた。マティス様のご両親とはあちらの国へ行った時にお会いする。あちらでは婚姻式を挙げる予定でいる。
私はウエディングドレスのような白のドレスを着た。
友達とも暫く会えない。5歳になる甥っ子とも暫く会えない。今度いつ帰って来るのかは分からない。
「ジュリアおねえちゃん、いかないで。ぼくとずっといっしょにいてよ…」
甥っ子は泣いて私のドレスの裾を掴んでいる。その姿に私も涙が出た。
お父様とお母様はお兄様に当主を譲り領地へ行った。昨日、領地から帰って来て今はマティス様と話している。
お父様には『すまなかった』と言われた。お父様は今、領地でワイン作りをしている。ワイン作りが楽しいのかとても優しい顔をしていた。こっちにいる時はいつも険しい顔をしていたから。
お披露目パーティーも終わりマティス様と同じ部屋。
「マティス様、初夜は婚姻式を挙げてからでも良いですか?」
「俺は構わないが」
「ありがとうございます。マティス様のご両親に認めてもらってからと思いまして」
「両親は大喜びだぞ?」
「それでもやっぱり…」
「ジュリアの気持ちも分かる。俺もジュリアに格好つけたい。だけどな、愛しいジュリアが横に居て触れられないなんて辛い。国へ帰ったら寝かせないからな」
私は恥ずかしくなり顔を俯けた。
「ですが私は、その…」
「俺も女性を抱くのは17年ぶりだ」
私は驚き顔を上げた。
「今はまだ口付けで我慢する」
そう言うとマティス様は私の唇を奪った。
「愛してるジュリア」
マティス様の声で聞くのは初めて。それでも手紙には毎度書いてあった。初めは『好きだ』『会いたい』それがいつしか『愛してる』『愛しい』『早く会いたい』になった。手紙をやり取りするだけの婚約期間。それでも日常をお互い手紙に書いた。そして思いも手紙に書いた。
「私もマティス様を愛してます」
マティス様は私を抱き寄せ口付けをする。
マティス様の腕の中で私は眠りについた。
次の日、港へ向けて邸を出る。途中宿屋に泊まりながら一週間かけて港に着いた。
先にマティス様の船に私の荷物を積む。
マティス様と船長が話をしている間、私は次から次へと荷物が積まれるのを見ていた。
その時、騒がしい声が聞こえた。
「船だけは、船だけはやめてくれ。船が無いと俺は…」
「この船はもう俺の船だ。お前は借金が返せなくて手放しただろ」
「船が無いと没落する」
「そんなの俺の知ったことか」
男性に縋る一人の男性。男性はマティス様を見つけ、
「マティス殿、一生の頼みです。また経路を再開させて下さい。マティス殿に手を切られて侯爵家は…もう、もう……」
髭を生やし髪はぼさぼさ、服も明らかに質が落ちた物を着ている。マティス様の目の前で地面に頭を付けて懇願する男性。
「行こう」
マティス様は私の手を繋ぎ馬車へ向かった。
「ジュリア、すまない。俺が悪かった」
マティス様は私の腰を抱き寄せ、私を抱きしめた。そして私の背中の後ろにいるであろう男性に向かって、
「俺の愛する妻の名を気安く呼ぶな、不愉快だ!」
そう言うと私の腰を抱き寄せたまま馬車まで向かった。
後ろでは男性の声がしている。「マティス殿一生の頼みです。お願いします」「ジュリア俺を捨てないでくれ。俺はあの女に騙されたんだ。あの女はもう居ない、ジュリアーー」
馬車に乗り込み男性を見た時には騎士達に抵抗し暴れる男性の姿。馬車が動き出した時には騎士達に捕まり連れて行かれる所だった。
「地に落ちたな」
マティス様がぼそっと呟いた。
あの人もまだ侯爵家当主。港には他国の人達が多くいる。そんな場所で醜態をさらした。この国だけでなく他国でも侯爵家の名は地に落ちた。今後、侯爵家に手を貸す者はいない。
お父様とお母様、お義姉様、甥っ子に見送られ乗船した。お兄様は婚姻式とあちらの国のマティス様の商会に行く為にお兄様の友人も一緒に乗船した。
新婚旅行を兼ね旅客船であちらの国へ行く事になった。1週間で着く所を2週間かけて他の港にも立ち寄りながらゆっくりと向かう。
部屋は私とマティス様、お兄様と友人。
甲板に出てお父様達に手を振る。お腹の大きいお義姉様の代わりにお父様が泣いてる甥っ子を抱っこしている。
船が出港し私はまだ見ぬこれから暮らす国へ思いを馳せる。私の肩を抱き寄せる愛しい人と幸せになる。
お父様達の姿がぼやけて見える。愛しい人の優しい手が私の頬を伝う涙を拭う。
マティス様は私を抱きしめた。私はマティス様の胸の中で涙を流す。お兄様と友人は先に船室へ戻り、私とマティス様は大海原を眺める。
それからは船旅を楽しんだ。港に寄れば下船して数時間の港街を観光する。美味しい物を食べ、その港街の銘産を買う。
「領域に入ったな」
夕日を一緒に眺めていた私の肩を抱き寄せマティス様は呟いた。
2週間の船旅、愛しい人と同じ部屋、側に寄り添い口付けを交わす。
口付けの先は……秘密。
完結
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
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コメントありがとうございます。返信が遅くなりすみません。
甥っ子の行動、可愛いですよね。泣いて「行かないで〜」と言われたら「行かない」と言っちゃいそうですが…。
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とてもとてもクズでした!
胸くそ悪い!
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思わずふぅーっとため息が漏れました。
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