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13 猛獣注意

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「またこんなに腫らして」


リズ姉さん付きから一人の娼婦として働きだした私。


「リズ姉さん」

「ハンナ、あんた私の真似をするんじゃないよ。私は娼婦の心得を教えたんだ。あんたはまだ産まれたばかりの雛鳥。雛鳥が雄の鶏に敵うわけがないだろ」

「ですが」

「いいかい、先ずは客をよく見るんだ。どこまでなら許されるかを会話の中で探るんだ。男は懐の大きい奴ばかりじゃない。小さい男ほど自分優位になりたがる。虚勢を張って強く見せたいからね。そんな男は娼婦を見下す。俺の言う事を聞けと上から押さえつけようとする。馬鹿にしてる女に歯向かわれたらどうしても手が出るんだ。

私の客は一番人気の私を買う。自分は店一番の娼婦が買える、相手をしてもらえる、それに金を払う。だから多少言い返しても手は出さない。私に手を出したらもう相手はしないからね。一番人気は気位が高くないといけない。

でもあんたはまだ媚を売ってなんぼだよ。あんたに今必要なのはずる賢さだね」


リズ姉さんは水で濡らした布で私の頬を冷やしてくれた。

媚を売るか…

今まで自分さえ我慢すれば、そう思って生きてきた。迷惑にならないように従順に生きてきた。物分かりよく手がかからない良い子でいないと私を側に置いてくれないから。

お母様に置いていかれてフェインに捨てられてワンスさんに裏切られた。でも仕方がないで文句の一つも言わず受け入れてきた。

文句を言えば何かが変わった?

お母様もフェインもワンスさんも『ハンナは優しいから許してくれる』ってきっと思っていた。『ハンナみたいに強くない』そう思っていたのかもしれない。

『自分は弱い人間だ。だから何かに縋って生きていかないと生きていけない』

お母様は男性の愛を求め、フェインは寂しい時に側にいてくれる人に、ワンスさんが賭け事に溺れたように、生き甲斐が必要。

私だって強くない。ただ良い子の仮面を上手く被っているだけ。仮面を脱いだ私に誰も見向きもしないから…。

だから私は良い子でいないといけない。

唯一甘えを許されたのは5歳まで。お父様の愛情が嘘偽りの愛だったとしても一緒に過ごしたあの頃、お父様は私を甘やかし私もお父様に我儘を言えた。抱っこをせがみぬいぐるみが欲しいと駄々をこねた。あの頃は何も被らない私を皆が見てくれた。

どう媚を売ればいいの?

どう甘えればいいの?



頬の腫れがひくまで私は食事処の手伝いをしている。


「ディープさん」

「ハンナちゃん」

「こんな夕暮れに珍しいですね」

「今日は出かけていてね。今から話し相手になってくれるかい?」

「はい。今日は何を聞かせてくれますか?」


夕暮れ時のこの時間、若い男性が多く店の中は騒がしい。ディープさんは落ち着いて食事をしたいらしく昼間の人が少ない時間にしか来ない。

ディープさんは食事を済ませ『やっぱりこの時間は騒がしいね。また明日昼間に来るよ』と早々に帰って行った。

ディープさんと入れ替わるように店に入ってきた男性。


「うわぁ、猛獣が来たよ」


マダムは小さい声で呟いた。それから男性まで素早く駆け寄り、


「将軍様が来るなんてね」

「マダム、一晩買える子はいるか」

「今はいないね。もう少し待っておくれ。そしたらリズを何とかして空ける」

「待てん」


その時男性と目が合った。


「お前でいい」


突然手を引かれ店の奥の階段を上がる。


「ちょ、ちょっと待ちなよ。この子は駄目だ。まだ娼婦になって日が浅い。あんたの相手なんて到底できないよ。もう少し待ちな」


男性がマダムを睨む。


「はあぁぁぁ、この子は私の大事な子だ、壊したら承知しないよ。壊さないって約束しな」

「約束は出来ないが善処はする」


階段を登りながら二人が会話しているのを私は呆気にとられていた。何が起こったのかこれから何が起こるのか未だに理解できないでいた。


「いいかいハンナ、何かあったら直ぐに呼ぶんだよ」

「は、はい」

「いいね」


マダムの顔から余り良くない状況だと察した。


「おい」


私の手を引く男性と目が合った。

獰猛な獣のような空気を纏い私を見る目はまるで獲物を射る目をしていた。


「お前の部屋はどこだ」


私達娼婦にはそれぞれ部屋がある。リズ姉さんの部屋が一番広く私の部屋が一番狭い。


「そ、そこです」


私は自分の部屋を指差した。

勝手に開けズカズカと入って行く。布団しかない私の部屋に大柄な男性が入ればより一層狭く感じた。

男性は私を勢いよく布団の上に寝かせた。

私が見上げた先、私に覆い被さるように男性の顔が近くにあった。


「香油は」

「は、はい、ここに」


男性はドバドバと香油を私に垂らし自分の男根に垂らした。


「舌だけは噛むなよ、いいな」


私はコクコクと頷いた。

私の頷きを見た男性は一気に最奥まで突き、獲物を射る目で私を見下ろす瞳と目が合った。

まるで蛇に睨まれた蛙

動くな、じっとしてろ、威圧が私にも分かる。

男性が腰を打ち付けるたびに私の体が激しく揺れる。それでも私の体を離さない男性の手。この狭い部屋に逃げる場所なんて初めからない。マダムが言ったように誰かを呼ぶにもそれを許さない男性の纏う空気。

というよりも呼ぶ暇もないと言った方が合ってるのかもしれない。

男性は『一晩』と言った。その言葉通り夜が明けるまで男性は私を離さなかった。



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