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憎しみ合う番、この先は…
長い夜…
しおりを挟む私は出産の為、産院へ泊まっている。
ガイは一日に何回も顔を出す。
「アイリスどうだ?」
「ガイは暇なの?」
「そんな訳ないだろ?それでも心配なんだ」
「産婆さんも言ってたでしょ?まだお産も始まってないって。初産で人族の私が獣人の子を産む以上何かあってはいけないから早めに産院に泊まってるのよ?」
「それでも心配はするだろ?」
「ほらほら早く戻って。まだまだそんな兆候もないの」
「うん……。出産が始まったら直ぐに知らせてくれ」
「分かったから」
ガイは渋々部屋を出て行った。
初めてのお産、それに獣人の子を産む。怖くない訳じゃないけど、いつ産まれてもおかしくないとはいえ、お産も始まっていないのにガイにずっとついていてもらってもね…。
仕事を終えたガイが部屋に来た。
「アイリスどうだ?」
「大丈夫よ?」
「今日は産まれないか」
「そうね」
昼からお腹が痛くなりトイレに駆け込む事は多かったけど、ただの腹痛。私はそう思っていた。
ガイが帰り、私は布団に入り寝ようと…。
お尻に生温かいものが流れ、「おもらししちゃった」と思ったの。
産婆さんに言うのも恥ずかしい。それでもシーツを変えるにも産婆さんに言わないと貰えない。だから私は産婆さんの部屋へ行った。
コンコン
「は~い」
「夜遅くすみません。アイリスです」
「どうしたの?」
と、産婆さんは部屋の扉を開けた。
「恥ずかしいのですが…」
「どうしたの?」
「おもらししちゃったみたいで…」
私は恥ずかしさとこの歳でおもらしした自己嫌悪に、真っ赤になって俯いた。
「おもらし?」
着ている服は濡れていて、見て直ぐに分かると思う。
「お腹は痛くない?」
「はい。昼からお腹を崩していてトイレに駆け込む事はありましたが今は大丈夫です」
「そう。お産が始まるわね。誰か知らせる人は?」
「ガイを、夫に知らせを」
「ごめんなさいね。お産の時は獣人の立ち入りは出来ないの。出産したら会えるけど。お母さんは?」
「人族街にいて」
「人族街ね…。今からだと無理ね」
「はい」
夜も更けた時間、それに産婆さんは勿論だけど、産院も獣人の方達ばかり。いくら出産とは言え、人族街へ立ち入るなら手続きをしないといけない。その間に出産していてもおかしくない。
それにお母様は共存街でも立ち入る事を躊躇う。獣人も普通に生活している街へ来るにはまだお母様には無理だから。
「アイリスさん」
「はい」
「私達を頼っていいから。私達は貴女を手助けする為にここにいるの。だから遠慮しないで。良い?」
「はい。お願いします」
それから2時間後、本格的に陣痛がきた。
昼からお腹の調子が悪かったのは陣痛が軽くきていたからだった。
獣人が出産に立ち会えないのは苦しむ声に痛みを口にする声に夫である獣人が妻を護ろうと我を忘れるから。
出産は命を産む。
我を忘れた夫など気にしていられない。それは子を産む妻も産院にいる産婆さんはじめ助手の方も。
子を産むは同じでも子を産むまでは一人一人違う。だからこそ他事に目を向けられない。それで子の命が失われる事もあるから。
私は長い夜をこれから一人で迎える事になった…。
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