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妹がいなくなった

チャーリーとジェフ

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「チャーリーちょっといいか?」

「どうした?」


 ミリー商会に訪ねて来たのはミリーの元婚約者ジェフだ。


「なら一杯付き合え」


 時間も夕刻、一杯だけ飲んで愛する妻エリーと愛しい娘フィーナ、産まれたばかりの愛しい息子ハリーの待つ家に帰ろう。



 5年前、浮浪者になったジェフに手を差し伸べ、それから商店街の仕事を世話し、度々ミリー商会へ訪ねてくる。

 初めは経理の相談だった。それからは商店街で配るハンカチの刺繍の依頼、ミリー商店の勧誘、

 友とは言えないが、同じ暗闇を見た同士、仲間、そんな所だろうか。

 今はいい関係を築けている。


 俺達は酒場に着いて一杯酒を飲む。

 真剣な顔をしているジェフ


「どうした?何か用事があったんだろ?」

「ああ」

「どうした?早く言えよ」

「ああ」


 封筒が目の前に置かれ、


「なんだ?」

「遅くなってすまない。5年前に借りた分だ。まだまだ到底足りないが、」


 封筒の中を確認する。


「これは受け取れない」

「だが」


 封筒の中身はお金が入っていた。


「エミリーヌに返して欲しい」

「エリーは受け取らないよ」

「それでも」

「ジェフ、エリーは返して欲しくて手を差し伸べた訳じゃない」

「それは分かってる」

「俺だって見返りが欲しくて今も手助けしている訳じゃない」

「それも分かってる」

「エリーはさ、自分と関わった人間には幸せになってほしいと願ってる。それは昔から変わらないけど、自分だけ幸せだと罰が下ると思ってるのかな?

誰しも他人の幸せより自分が幸せならそれでいいと思ってる。幸せのお裾分けはするけどね。

エリーはお金は受け取らない。それに俺も受け取らない。

俺達はエリーが君に対し行った罪を償っただけだ」

「それも分かってる。だけど少しづつ返して終わりにしたい」

「ん?」

「エミリーヌが返して欲しいとか、チャーリーが見返りを求めてるとかそんなの思っていない。今幸せに暮らしているのに水をさすつもりもない」

「なら」

「………気になる女性がいるんだ。恋人とか結婚とかそんな関係じゃない。好きか、と聞かれたらまだ分からない。それでも話をすると楽しい」

「良かったじゃん」

「だからこそ借りた分は全て返したい。返さないと終わらない」

「昔さ、俺が言われた事なんだけど、罰は平民になった時点で受けた、罪は他人を助け償ったってね。これからは自分の人生を歩けって言われたよ。

だからさ、ジェフ、

この5年君は平民になり働き稼ぎ生活をきちんとしてる。自分の置かれてる立場をしっかり見つめ、誰に何を言われても頑張って努力してきた。もう君に償う罪はないよ。もう君は自分の人生を歩け」

「チャーリー…」

「もうジェフの人生を歩け。償う罪はもうない。エリーは俺が幸せにしてる。子も産まれエリーは今幸せだ。今度はジェフが幸せになる番だ、な?」

「…ありがとう」

「お金は今後も受け取らない。受け取ったらエリーの罪は違う形で償わないといけないだろ?まあどんな形でも俺がついてるけどね?」

「フッ」

「何なら家族全員で頭を下げようか?」

「止めてくれよ」

「まあ冗談だけどね。そうだ、そのお金でお兄さんを食事に誘ったら?自分で働きコツコツ貯めたお金なんだ。それにジェフの頑張りも努力も分かって貰える」

「そうだといいけどな」

「兄弟だろ?」

「ああ」

「なら大丈夫だ」

「一度誘ってみるか」

「それが良いよ」


 俺はジェフとわかれ、家路に着いた。

 後日、お兄さんと食事に行き、今後は兄弟として過ごす事が出来そうだとジェフから聞いた。



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