妹がいなくなった

アズやっこ

文字の大きさ
上 下
179 / 187

178

しおりを挟む
「…ジェフ様ね、私の誕生日に髪留めを買ってくれてたの」

「うん」

「私の誕生日を祝おうとしてくれたの」

「うん」

「お父様もお母様もサラも祝ってなんてくれなかった」

「うん」

「それなのにジェフ様は祝おうとしてくれたの」

「うん」

「それなのに」

「うん」

「それなのに私がそんな事って言ったの」

「そうか」

「ジェフ様にしてみればそんな事じゃないわ」

「そうだね」

「始めて自分の色を贈る事が出来る大切な日」

「そうだね」

「それを私はそんな事って言って贈らせなかった」

「そうか」

「あれだけ私だけに贈られる贈り物が欲しいと思ってたのに」

「うん」

「花一輪でも欲しいと思ってたのに」

「うん」

「私に贈ろうと思ってくれたジェフ様の気持ちを踏み躙ったの」

「そうだね」

「ジェフ様はよく会いに来てくれたわ」

「うん」

「サラに会いに来てたのかもしれない」

「うん」

「それでも必ず私に会いに来てた。確かに罵倒もしていったけど、それでも私に会いに来てたの」

「うん」

「それなのに私は仕事ばかりしてた。顔もあげなかった時もあった。ジェフ様を蔑ろにしたのは私の方よ」

「そうだね」

「私の状況や立場なんて知る訳がないもの」

「うん」

「ジェフ様との時間を作らなかったのは私だわ」

「うん」

「あの時は余裕が無かった、確かにそうよ。でもそんなのジェフ様には関係ないもの。婚約者としての関係を築けなかったんじゃない、私がそもそも始めから壊してたの」

「そうだね」

「私は自分の事しか考えてない自分勝手な女なのよ」

「うん」

「自分だけが被害にあってると思ってた勘違い女なのよ」

「うん」

「私は自分しか見てなかった。自分が可愛いかった。自分だけ守ってた」

「うん」

「それなのに全部ジェフ様のせいにして、婚約者としての最低限の努めも果たさない、他に好意を持ったとジェフ様に罪をなすりつけた」

「うん」

「婚約者として最低限の贈り物を贈らせなかったのは私だったのに」

「うん」

「サラに好意を抱いたのも私がジェフ様を婚約者として扱わなかったからだった」

「うん」

「全て私が悪いのに、私の罪なのに、それをジェフ様に被せて罪をなすりつけた。全て私が悪いの」

「そうだね」

「私がジェフ様の人生を壊したの」

「そうだね」

「どう償えばいい?どうしたら許して貰えるの?どうしたらジェフ様を救えるの?」

「どうしたら償えるか、許して貰えるか、救えるか、それは難しいよ」

「どうして?」

「俺だって元婚約者を許せない。俺を救ったのはエリーだ」

「うん」

「俺は彼じゃないから分からないけど」

「うん」

「どうして1回受け取らなかったからだけでそれ以降贈り物を贈らなかったんだ?会いに来て罵倒ではなく労う言葉を何故かけなかった?

 それでも彼の気持ちは分かるよ。彼にしてみれば婚約者の誕生日だ、祝ってあげたいと思う。ましてや親が決めた婚約でお互い好意を持ってる訳でもない。それでも自分の色の贈り物を堂々と渡せる日だ。彼はエリーとの婚約を彼なりに頑張ろうと思ってたはずだ。始まりがどうであれ仲良くなりたいと思ってたはずだ。誕生日はそのきっかけでもあった。自分の色の髪留めを贈り、君の笑顔を見たかった。きっと純粋な気持ちだったんだ」

「うん」

「彼にとって「そんな事」って言われた事が、自分との婚約も自分と仲良くする気もエリーには全く無いって思った。彼も成人してない子供だ、その一回、その一言でショックを受けてもおかしくない」

「うん」

「彼にとってエリーに贈り物を贈る事が怖くなったと思う。それこそ花一輪も贈れない程に。エリーとの婚約を、婚約してからの事を胸に抱いていた分だけエリーを憎むしかなかったんだ」

「うん」

「彼はそれだけ深く傷ついた」

「うん」

「彼を責める事は出来ない」

「当たり前よ」

「それでも彼がもう少し大人だったら違ってたと思う」

「そんな事、」

「そうだね、彼はまだ子供だった。婚約に夢を見る子供だった。一言で傷付く子供だったんだ。

 エリーもまた子供だった。彼の言葉を冷静に聞けない程余裕が無い子供だったんだ」

「うん」

「もし今なら、エリーが例え仕事をしていても彼が誕生日を祝いたいと言えばその言葉を聞ける。会いに来たなら少し手を止めて時間を作る事が出来る」

「うん」

「心に余裕が出来たから、そうだろう。仕事が慣れたから、そうだろう。それでもそれは今だからだ」

「うん」

「エリーに罪がない訳じゃない。婚約者を蔑ろにした」

「うん」

「それでも君の父親が仕事をしていたら君は子供らしく婚約者との時間を作り婚約者との関係を築けた。

君に罪がない訳じゃない、それでも君が罰を受ける必要もない」

「でも、」

「それに彼に罪が全くない訳ではない。いくら心が傷付いたからと言って罵倒を繰り返すのは罪だよ?」

「それでも」

「距離を置けば良かった。わざわざ会いに来て罵倒するくらいなら会わなければいい。他に好意を抱く理由も分かる」

「うん」

「何故君の妹に好意を抱いた?優しくされたから?それでも君の妹に好意を持たなくても良かったじゃないか。彼は君を傷付ける為に妹を利用した。それは罪だよ?」

「………」

「君が罪を償いたいと思うならそうすれば良い。俺も一緒に償うよ。

 救いたいと思うなら救えば良い。俺も一緒に考えるよ。

 エリー、俺は君の婚約者だ」

「うん」

「一緒に考えよう、一緒に傷付こう、一緒に償おう。エリーと一緒にやれるのは婚約者の俺だけだよ?」

「うん、ごめんなさい」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】2愛されない伯爵令嬢が、愛される公爵令嬢へ

華蓮
恋愛
ルーセント伯爵家のシャーロットは、幼い頃に母に先立たれ、すぐに再婚した義母に嫌われ、父にも冷たくされ、義妹に全てのものを奪われていく、、、 R18は、後半になります!! ☆私が初めて書いた作品です。

【完結】8私だけ本当の家族じゃないと、妹の身代わりで、辺境伯に嫁ぐことになった

華蓮
恋愛
次期辺境伯は、妹アリーサに求婚した。 でも、アリーサは、辺境伯に嫁ぎたいと父に頼み込んで、代わりに姉サマリーを、嫁がせた。  辺境伯に行くと、、、、、

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

従姉と結婚するとおっしゃるけれど、彼女にも婚約者はいるんですよ? まあ、いいですけど。

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィオレッタはとある理由で、侯爵令息のフランツと婚約した。 しかし、そのフランツは従姉である子爵令嬢アメリアの事ばかり優遇し優先する。 アメリアもまたフランツがまるで自分の婚約者のように振る舞っていた。 目的のために婚約だったので、特別ヴィオレッタは気にしていなかったが、アメリアにも婚約者がいるので、そちらに睨まれないために窘めると、それから関係が悪化。 フランツは、アメリアとの関係について口をだすヴィオレッタを疎ましく思い、アメリアは気に食わない婚約者の事を口に出すヴィオレッタを嫌い、ことあるごとにフランツとの関係にマウントをとって来る。 そんな二人に辟易としながら過ごした一年後、そこで二人は盛大にやらかしてくれた。

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

義理パパと美少年のエッチ

リリーブルー
BL
さびしい少年が、義理パパにエッチなことをせがんでしまう。パパは社長さん!? ライバルは秘書!

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

処理中です...