妹がいなくなった

アズやっこ

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「朝起きてから君は何をするの?君が孤児院で任せられてる事は? 何かしらあるだろ?」

「シスターから手が離れた幼い子達の手伝い」

「それが君が任せてられてる事?」

「うん。後は皆で洗濯干したり」

「それから?」

「お世話してる子達のお風呂を入れて」

「うん」

「寝かせる」

「そうか。なら小さい子の面倒は見れるんだ」

「皆もやってるから」

「そうだね、孤児院は年長者が下の子達のお世話をするからね」

「うん」

「洗濯は干すだけなの?洗うのは?」

「洗うのは違う年の子達がやってる。学校に通う前の子達」

「なら君もやってきた?」

「うん」

「洗濯は得意な方?」

「苦手」

「苦手でもやってたんだ」

「その年の時に任された事だったから。それに苦手だからってやらないと皆にも迷惑かけるから」

「そうだね。なら小さい子達のお世話は苦手?」

「そこまで苦手じゃない。言う事聞いてくれない時もあるけど」

「幼くても自分の意思は持ってるからね」

「うん」

「君もその子達みたいに自分の意思を持ったら?嫌な時は嫌って」

「嫌って言ったらやらなくていいの?」

「そうじゃない。俺が言いたいのは自分の意思を持ってほしいって事だよ? 幼くても自分の意思をその子達は伝えてくるだろ?嫌な時は嫌って」

「うん」

「でも嫌と言っても全部聞いて貰える訳じゃない。それでも自分の意思を伝えようと必死に伝えてくるだろ?」

「うん」

「君もそういう年があったんだよ?自分の意思を伝えようと泣いたかもしれない、一生懸命話したかもしれない。それでも人は我慢を覚える。決められた時間にご飯を食べるよね?」

「うん」

「ご飯の時間と分かっていてもまだ遊びたい、幼い時は泣いたり、嫌と言って自分の意思を言うよね?」

「うん」

「でも成長するにつれてそれは駄目だと分かる」

「うん」

「遊びたいけど我慢してご飯を食べる」

「うん」

「何十人と一緒に生活している君達には決められたルールがあって、それを守らないといけない。起きる時間、ご飯の時間、お風呂の時間、寝る時間、任されるお手伝い、色々あると思うけど、一緒に生活している以上ルールは守らないと他の子に迷惑をかけるよね?」

「うん」

「幼い時は自分の意思を持てたのにいつしか我慢するようになる。それでも自分の意思は持ち続けれるんだ。自分はこう考える、こう思う、それは意思だ。皆と同じの時もあれば違う時もある。それは当たり前の事なんだ。一人一人意思が違うんだから」

「うん」

「でも今の君は自分の意思を持っていない。エナンに決めて貰い、自分で考える事をしない。違うか?」

「それは…」

「エナンちゃんが決めてくれるから、エナンちゃんと一緒なら何でもいい、君はずっとこう言ってる。エナンが決めたらそれはエナンの意思だ、君の意思じゃない」

「………」

「君はまず自分の意思を持とう。別に口に出さなくてもいい、心の中で思うだけでいいんだ。例えば、そうだな、簡単な事だと、毎食のご飯で自分は何から食べるかを食べる前に決めよう。決めたらエナンが違う物から食べても自分は決めた物から食べる。それなら出来そう?」

「多分」

「なら今日のご飯からやってみるんだ。それが出来るようになったら、そうだな、皆は外で遊びたいって言ったとする、その時君は自分の思いを考えるんだ。本当に自分は外で遊びたいのか、本当は部屋の中で遊びたいのか、自分の心の中で自分で考える。本当に外で遊びたいならそれでいいし、本当は中で遊びたいと思ったら心の中で「私は部屋の中で遊びたい」って思うんだ。

これは他の事でも例えられるだろ? 毎回誰かが何かを言った時、誰かに聞かれた時に自分の気持ちはどっちだろうと考える。そして自分ならどうするだろうと考える。心の中までは皆には見えないから心の中は君だけのものだ。 心の中だけなら文句を言ってもいいしね。でも文句ばかり思うのは駄目だよ?

人は自分とは違うんだ。それを頭に入れておかないといけない、分かるね?」

「うん」

「10人いれば10通りの考えがあり思いがある。時にそれが5通りの時もあるしゼロの時もある。皆が同じ考えで同じ思いの時もある。それでも一人一人自分の意思で考えた結果なんだ」

「うん」

「君にも必ず出来る。自分の意思を必ず持てる」

「うん」

「まずは簡単な事から始めよう」

「分かった」

「もし出来なくても自分を責めてはいけないよ?忘れてもいいんだ。それでも思い出したらご飯の時はやってみる事、良いね?」

「うん」


 少女が部屋を出て行き、


「何とか終わったのかしら」

「そうだね」

「でもご飯の何から食べ始めるだった?あれは良いかも。だって何から食べ始めるかなんて考えて食べた事ないもの。何となくこれから食べようと思ってるとは思うけど、勝手に手が伸びて食べてるから」

「普通はそうだよ。美味しそうと思ってもどれから食べ始めようかなんて食べ始める前に決めたりしないだろ?」

「そうよね」

「でもあの子の場合、自分で考えるが大事なんだ」

「そうね」

「少しでも自分の意思を持ってくれれば良いけどね」

「そうね」


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