168 / 187
167
しおりを挟む
セナンが出て行き、少し休憩になった。メイが入ってきてお茶とお菓子の準備をする。
私はアイリーン様と隣に並び座りお茶を口に含む。
「お祖父様」
「何だ」
「明後日セイリーン孤児院へ行って来ます」
「分かった」
「セナンの気持ちを聞きがてら、手紙を渡すつもりでしたがシスター長と直接お会いして話して来ます」
「それが良いだろう。どうせエミリーの事だ、セシルの事を頼みに行くのだろ?」
「はい。私が後見人になるつもりです」
「分かった」
「後はマークの妹さんや弟さんにも会って来ます」
「そうしてくれ」
「なあエリー」
「何?」
「セシルの時、どうして急に代わるって言ったんだ?嫌、俺だって分かるよ?怖がってた事ぐらい。だから一応優しく言ったつもりだったんだけど」
「チャーリーの対応が駄目だった訳じゃないの。セシルが精神的なものか発育の類いか分からないけど、私も一時セシルの様に吃ってたの。私の場合は精神的な方だけど、お父様の前にいくとね…。きちんと話さないとと思うと余計に。私にはメイが側にいてくれたし、グレンも護ってくれたから本当に一時で済んだけど、焦ると余計に話せなくなるの。それに孤児院には大人の男性は居ないでしょ?だから私が代わったの」
「そう言う事だったんだ」
「うん」
「儂も報告は受けてたが、すまないな」
「お祖父様はお祖母様が側にいましたもの」
「まあそうだが、エミリーの辛い時に側にいてやれなかった」
「私とお祖母様と二人を見てたらお祖父様が倒れてしまうわ。お祖父様が倒れたらキャメル侯爵家は没落してましたよ?」
「そうだが」
「一時だけだったので大丈夫です」
「そうか」
「前侯爵」
「何だ?」
「こんな話の後に出したくないのですが」
「何だ」
「先程隔離した子ですけど、どうしますか?」
「あの子な」
「はい。あそこまで依存していては短時間隔離しただけでまともに考えるとは思えませんが…」
「セナンがどちらを選ぶにせよ、心掛けが違う以上同じ様に働く事は出来んだろうな」
「はい」
「セナンと離し独り立ちさせるべきだが、それも危ういしな」
「はい」
「アイリーン譲はどう思う」
「はい。私の時もそうでしたが、王女という私に依存した者もおりました。私の真似をし、私に意見を聞き、私の言う事全てに同調し、私に全てを委ねてきました。心酔する、聞こえは良いですが、依存される方は恐ろしくもありました。
実際、私の学生時代、婚約者がいる令息の腕に自分の腕を絡ませ距離の近い令嬢がいたのですが、私がふしだらと言った一言でその令嬢を陰で虐めていました。早々に気付いたので大きな怪我もなく穏便に済みましたが、私が気付かなければその令嬢がどうなっていたか考えると…。それから彼女の前では何も言えませんでした。
私を慕ってくれるのはありがたいのですが、度を超えた慕いは正直息ができませんでした。
セナンがその様に思っているとは思いませんが、それも狭い籠の中だからこそです。孤児院を出た後まで全てを委ねられたらセナンも一緒に共倒れです。セナンには彼女を背負うだけの心はありませんから。それにあの子も今は己しか支えられません」
「そうだろうな」
「はい」
「ではどうするか」
「短時間で考えが変わるとは思いませんが」
「だろうな。どうしたものか…」
沈黙になり、
「その依存を他に向けさせたらどうでしょうか」
「エミリー、依存する者を変えても意味がない」
「なら神とかならどうです?」
「それも神に依存をし過ぎると変な方向に進んでしまう」
「神に仕えるシスターなら良いと思ったのですが。神はこちらの声は聞いてくれますが、神からは返事はありません。依存するのが人ならば意見を聞けば返事が返ってくるので同じ事の繰り返しになってしまいますが神ならばと思ったのですが…」
「それも危険なのだ。神を心酔するあまり自分が神になったように振る舞い信者を集め、いずれお金の亡者になる。良い行いをしている時は良いが、お金に囚われる様になった時は最後だ」
「それも怖いですね」
「まず他人に依存する事を止めさせなければ意味がない」
「確かにそうですが」
「誰かが根気よく諭していかなければならない」
「諭す?教えるのではなくて?」
「ああ。教えるのではなく諭すだ。先程話した子の中にも居ただろう、セナンが強いから側にいると言った子が」
「はい」
「あの子もある意味依存しているのだ。ただ違う所は個人ではないという事だ。あの子はセナンに依存しているのではなく強い者だ。強い者の側にいて自分の場所を確保する。孤児院ではセナンだったと言うだけで外に出れば出た所で見つけていく。
我々が自分で考えろと言った事によりセナンを早々に切り捨てた。計算してやっているのなら強かだが、己の保身の為にやるのであればいずれは破滅だ」
「破滅ですか…」
「強いものに巻かれろそれが悪い事ではない、出世術だ。だが己の心は己の物と芯をしっかり持っていればだ。目指すものがあり目指すものの為に権力者に取り入る、それ等は誰しもやる事だ」
私はアイリーン様と隣に並び座りお茶を口に含む。
「お祖父様」
「何だ」
「明後日セイリーン孤児院へ行って来ます」
「分かった」
「セナンの気持ちを聞きがてら、手紙を渡すつもりでしたがシスター長と直接お会いして話して来ます」
「それが良いだろう。どうせエミリーの事だ、セシルの事を頼みに行くのだろ?」
「はい。私が後見人になるつもりです」
「分かった」
「後はマークの妹さんや弟さんにも会って来ます」
「そうしてくれ」
「なあエリー」
「何?」
「セシルの時、どうして急に代わるって言ったんだ?嫌、俺だって分かるよ?怖がってた事ぐらい。だから一応優しく言ったつもりだったんだけど」
「チャーリーの対応が駄目だった訳じゃないの。セシルが精神的なものか発育の類いか分からないけど、私も一時セシルの様に吃ってたの。私の場合は精神的な方だけど、お父様の前にいくとね…。きちんと話さないとと思うと余計に。私にはメイが側にいてくれたし、グレンも護ってくれたから本当に一時で済んだけど、焦ると余計に話せなくなるの。それに孤児院には大人の男性は居ないでしょ?だから私が代わったの」
「そう言う事だったんだ」
「うん」
「儂も報告は受けてたが、すまないな」
「お祖父様はお祖母様が側にいましたもの」
「まあそうだが、エミリーの辛い時に側にいてやれなかった」
「私とお祖母様と二人を見てたらお祖父様が倒れてしまうわ。お祖父様が倒れたらキャメル侯爵家は没落してましたよ?」
「そうだが」
「一時だけだったので大丈夫です」
「そうか」
「前侯爵」
「何だ?」
「こんな話の後に出したくないのですが」
「何だ」
「先程隔離した子ですけど、どうしますか?」
「あの子な」
「はい。あそこまで依存していては短時間隔離しただけでまともに考えるとは思えませんが…」
「セナンがどちらを選ぶにせよ、心掛けが違う以上同じ様に働く事は出来んだろうな」
「はい」
「セナンと離し独り立ちさせるべきだが、それも危ういしな」
「はい」
「アイリーン譲はどう思う」
「はい。私の時もそうでしたが、王女という私に依存した者もおりました。私の真似をし、私に意見を聞き、私の言う事全てに同調し、私に全てを委ねてきました。心酔する、聞こえは良いですが、依存される方は恐ろしくもありました。
実際、私の学生時代、婚約者がいる令息の腕に自分の腕を絡ませ距離の近い令嬢がいたのですが、私がふしだらと言った一言でその令嬢を陰で虐めていました。早々に気付いたので大きな怪我もなく穏便に済みましたが、私が気付かなければその令嬢がどうなっていたか考えると…。それから彼女の前では何も言えませんでした。
私を慕ってくれるのはありがたいのですが、度を超えた慕いは正直息ができませんでした。
セナンがその様に思っているとは思いませんが、それも狭い籠の中だからこそです。孤児院を出た後まで全てを委ねられたらセナンも一緒に共倒れです。セナンには彼女を背負うだけの心はありませんから。それにあの子も今は己しか支えられません」
「そうだろうな」
「はい」
「ではどうするか」
「短時間で考えが変わるとは思いませんが」
「だろうな。どうしたものか…」
沈黙になり、
「その依存を他に向けさせたらどうでしょうか」
「エミリー、依存する者を変えても意味がない」
「なら神とかならどうです?」
「それも神に依存をし過ぎると変な方向に進んでしまう」
「神に仕えるシスターなら良いと思ったのですが。神はこちらの声は聞いてくれますが、神からは返事はありません。依存するのが人ならば意見を聞けば返事が返ってくるので同じ事の繰り返しになってしまいますが神ならばと思ったのですが…」
「それも危険なのだ。神を心酔するあまり自分が神になったように振る舞い信者を集め、いずれお金の亡者になる。良い行いをしている時は良いが、お金に囚われる様になった時は最後だ」
「それも怖いですね」
「まず他人に依存する事を止めさせなければ意味がない」
「確かにそうですが」
「誰かが根気よく諭していかなければならない」
「諭す?教えるのではなくて?」
「ああ。教えるのではなく諭すだ。先程話した子の中にも居ただろう、セナンが強いから側にいると言った子が」
「はい」
「あの子もある意味依存しているのだ。ただ違う所は個人ではないという事だ。あの子はセナンに依存しているのではなく強い者だ。強い者の側にいて自分の場所を確保する。孤児院ではセナンだったと言うだけで外に出れば出た所で見つけていく。
我々が自分で考えろと言った事によりセナンを早々に切り捨てた。計算してやっているのなら強かだが、己の保身の為にやるのであればいずれは破滅だ」
「破滅ですか…」
「強いものに巻かれろそれが悪い事ではない、出世術だ。だが己の心は己の物と芯をしっかり持っていればだ。目指すものがあり目指すものの為に権力者に取り入る、それ等は誰しもやる事だ」
52
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
【完結】2愛されない伯爵令嬢が、愛される公爵令嬢へ
華蓮
恋愛
ルーセント伯爵家のシャーロットは、幼い頃に母に先立たれ、すぐに再婚した義母に嫌われ、父にも冷たくされ、義妹に全てのものを奪われていく、、、
R18は、後半になります!!
☆私が初めて書いた作品です。
【完結】8私だけ本当の家族じゃないと、妹の身代わりで、辺境伯に嫁ぐことになった
華蓮
恋愛
次期辺境伯は、妹アリーサに求婚した。
でも、アリーサは、辺境伯に嫁ぎたいと父に頼み込んで、代わりに姉サマリーを、嫁がせた。
辺境伯に行くと、、、、、
「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です
リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。
でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う)
はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか?
それとも聖女として辛い道を選ぶのか?
※筆者注※
基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。
(たまにシリアスが入ります)
勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗
従姉と結婚するとおっしゃるけれど、彼女にも婚約者はいるんですよ? まあ、いいですけど。
チカフジ ユキ
恋愛
ヴィオレッタはとある理由で、侯爵令息のフランツと婚約した。
しかし、そのフランツは従姉である子爵令嬢アメリアの事ばかり優遇し優先する。
アメリアもまたフランツがまるで自分の婚約者のように振る舞っていた。
目的のために婚約だったので、特別ヴィオレッタは気にしていなかったが、アメリアにも婚約者がいるので、そちらに睨まれないために窘めると、それから関係が悪化。
フランツは、アメリアとの関係について口をだすヴィオレッタを疎ましく思い、アメリアは気に食わない婚約者の事を口に出すヴィオレッタを嫌い、ことあるごとにフランツとの関係にマウントをとって来る。
そんな二人に辟易としながら過ごした一年後、そこで二人は盛大にやらかしてくれた。
没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!
日之影ソラ
ファンタジー
かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。
しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。
ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。
そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。
こちらの作品の連載版です。
https://ncode.syosetu.com/n8177jc/
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~
日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。
十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。
さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。
異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる