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一週間後、子供達が来る前にチャーリーから話を聞いた。
「エナンだけど、父上に話したら一日で何が分かる、一ヶ月体験させろって言われて、今はお祖母様の家で住みながら体験してるよ」
「一ヶ月も?」
「一ヶ月も働けば作業も覚えるだろ?自分に合う合わないも分かるし、暮していけるかも分かる。それに考える時間もある」
「確かにそうね」
「本人もそれで良いって言ったし、お祖母様も毎日楽しそうだよ」
「そうなの?」
「若い子はよく食べるのねって朝晩ご飯を大量に作ってるらしいよ」
「それも大変ね」
「だろ?それでもお祖母様は作り甲斐があると言ってるよ」
「それなら良かったわ」
「ああ」
「セナムは?」
「昨日王都を出たよ」
「そう」
「隣国に行くまで俺の都合が空いた日に孤児院まで訪ねて言葉使いを何とか直したけど、客の前に出すにはまだまだだな。だから隣国に着いたら先ずは言葉使いの教育からだ」
「それは仕方がないわね。 言葉使い、対応、態度、どれも大事なものよ?」
「ああ。それも本人には伝えてある」
「そう」
「絵は毎日描くように言ってあるから客の前に出れるのは本人次第だな」
「努力をしないといけない事は必ずあるわ」
「ああ」
コンコン
「チャーリー様にお客様です」
「お通しして」
扉から入って来たのは、
「ディーナ!」
「エミリー様、ご無沙汰しております」
「こっちこそよ。元気だった?」
「はい」
「ギルとはどうなったの?」
「それは、その、」
「エリー、ギルと上手くいったみたいだよ」
「本当?」
「はい」
「良かったわ」
「私が幸せになって良いのか今でも分かりませんが、ギル様はそのままで良いとおっしゃるので」
「ディーナ、貴女は幸せになる権利があるのよ?お父様の罪は貴女には関係ないわ。子供だった貴女に何の罪があるの?貴女だってご両親から離されたじゃないの」
「ですが」
「貴女はこれから幸せになるのよ?いい?」
「はい」
「ギルなら大丈夫よ。ディーナにべた惚れなんだから。これからはギルに甘えれば良いの、分かった?」
「はい」
「それで今日はどうしたの?」
「俺が呼んだんだ」
「チャーリーが?」
「アイリーン様が言ってただろ?ほら針子になりたい子達が刺した刺繍を見せるって」
「ああ、あれね」
「今日持って来てくれるみたいだからエディーナ譲に見て貰おうかと思って」
「そう」
「エディーナ譲が認めれば商会で見習いだけど雇うつもりだよ」
「そうなのね」
「エディーナ譲、刺繍を見て思う所があれば断れば良い。こっちだって給金を出す以上腕が無ければ雇えないからね」
「はい、分かりました」
コンコン
「アイリーン様がお見えです」
「お通しして」
アイリーン様が入って来て、
「アイリーン様、早速で申し訳ないのですが」
「刺繍ですね」
「はい」
「こちらよ」
アイリーン様は鞄から刺繍を取り出した。
「エディーナ譲お願い出来るか?」
「はい、見せて頂きます」
ディーナは布の表面と裏面を見て、
「少し質問をしてもよろしいでしょうか」
「構いませんわ」
「ありがとうございます。では、こちらは何日で仕上げましたでしょうか」
「5日です」
「そうですか」
「こちらとこちらは同じ方ですね?」
「ええ」
「それなら2枚を5日で仕上げたと言う事でしょうか」
「ええ、その通りよ?」
「分かりました。ありがとうございました」
「エディーナ譲、はっきり言ってくれて構わない。エディーナ譲の見解は?」
「はい、初めに見た方だけ雇いたいと思います」
「一応理由を聞いても良いかな?」
「はい。確かにこの一枚で5日もかかるのは少し気になりますが、それも数をこなしコツを掴めばもう少し早く刺す事が出来る様になります。ですが、速さよりも大事なのは布を良く見る事です。ドレスの布はただでさえ高級な生地です。刺し方一つ糸の力加減一つで生地が寄ります。また何度も同じ場所を刺せば針穴が大きくなります。迷いは針を刺す前に考え、針を刺す時は一度だけ、それが綺麗に仕上げるコツでもあります」
「そうか」
「私の私感かも知れませんが」
「嫌、それで良い」
「5日かけて仕上げたと言う事は迷い考え、その上で迷いなく針を刺しこの絵柄を仕上げたのだと思います。とても丁寧に刺してあり仕上がりも綺麗ですし、糸の始末もきちんと出来てます」
「そうか。ならこっちは?」
「一見綺麗に見えますが布が寄ってる所があったり糸の始末もおざなりです。確かに教えれば治るとは思いますが、ですがどうしても慌てている時などに癖は出てしまいます。お客様の大事なドレスですので失敗は許されません」
「そうか」
「私がもし雇うなら時間がかかっても丁寧に刺せる子の方が戦力になると思います」
「分かった。言いにくい事は言わせた、すまない」
「いえ」
「それなら初めに見た子を見習いとして雇うつもりだがエディーナ譲は良いか?」
「はい」
「雇ったらエディーナ譲が面倒を見る事になる、それでも大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「分かった」
ディーナが部屋を出て行き、
「アイリーン様、ではお願いします」
「はい。本人に伝えます。一人の子は服屋等に声をかけてみます」
「お願いします」
「エナンだけど、父上に話したら一日で何が分かる、一ヶ月体験させろって言われて、今はお祖母様の家で住みながら体験してるよ」
「一ヶ月も?」
「一ヶ月も働けば作業も覚えるだろ?自分に合う合わないも分かるし、暮していけるかも分かる。それに考える時間もある」
「確かにそうね」
「本人もそれで良いって言ったし、お祖母様も毎日楽しそうだよ」
「そうなの?」
「若い子はよく食べるのねって朝晩ご飯を大量に作ってるらしいよ」
「それも大変ね」
「だろ?それでもお祖母様は作り甲斐があると言ってるよ」
「それなら良かったわ」
「ああ」
「セナムは?」
「昨日王都を出たよ」
「そう」
「隣国に行くまで俺の都合が空いた日に孤児院まで訪ねて言葉使いを何とか直したけど、客の前に出すにはまだまだだな。だから隣国に着いたら先ずは言葉使いの教育からだ」
「それは仕方がないわね。 言葉使い、対応、態度、どれも大事なものよ?」
「ああ。それも本人には伝えてある」
「そう」
「絵は毎日描くように言ってあるから客の前に出れるのは本人次第だな」
「努力をしないといけない事は必ずあるわ」
「ああ」
コンコン
「チャーリー様にお客様です」
「お通しして」
扉から入って来たのは、
「ディーナ!」
「エミリー様、ご無沙汰しております」
「こっちこそよ。元気だった?」
「はい」
「ギルとはどうなったの?」
「それは、その、」
「エリー、ギルと上手くいったみたいだよ」
「本当?」
「はい」
「良かったわ」
「私が幸せになって良いのか今でも分かりませんが、ギル様はそのままで良いとおっしゃるので」
「ディーナ、貴女は幸せになる権利があるのよ?お父様の罪は貴女には関係ないわ。子供だった貴女に何の罪があるの?貴女だってご両親から離されたじゃないの」
「ですが」
「貴女はこれから幸せになるのよ?いい?」
「はい」
「ギルなら大丈夫よ。ディーナにべた惚れなんだから。これからはギルに甘えれば良いの、分かった?」
「はい」
「それで今日はどうしたの?」
「俺が呼んだんだ」
「チャーリーが?」
「アイリーン様が言ってただろ?ほら針子になりたい子達が刺した刺繍を見せるって」
「ああ、あれね」
「今日持って来てくれるみたいだからエディーナ譲に見て貰おうかと思って」
「そう」
「エディーナ譲が認めれば商会で見習いだけど雇うつもりだよ」
「そうなのね」
「エディーナ譲、刺繍を見て思う所があれば断れば良い。こっちだって給金を出す以上腕が無ければ雇えないからね」
「はい、分かりました」
コンコン
「アイリーン様がお見えです」
「お通しして」
アイリーン様が入って来て、
「アイリーン様、早速で申し訳ないのですが」
「刺繍ですね」
「はい」
「こちらよ」
アイリーン様は鞄から刺繍を取り出した。
「エディーナ譲お願い出来るか?」
「はい、見せて頂きます」
ディーナは布の表面と裏面を見て、
「少し質問をしてもよろしいでしょうか」
「構いませんわ」
「ありがとうございます。では、こちらは何日で仕上げましたでしょうか」
「5日です」
「そうですか」
「こちらとこちらは同じ方ですね?」
「ええ」
「それなら2枚を5日で仕上げたと言う事でしょうか」
「ええ、その通りよ?」
「分かりました。ありがとうございました」
「エディーナ譲、はっきり言ってくれて構わない。エディーナ譲の見解は?」
「はい、初めに見た方だけ雇いたいと思います」
「一応理由を聞いても良いかな?」
「はい。確かにこの一枚で5日もかかるのは少し気になりますが、それも数をこなしコツを掴めばもう少し早く刺す事が出来る様になります。ですが、速さよりも大事なのは布を良く見る事です。ドレスの布はただでさえ高級な生地です。刺し方一つ糸の力加減一つで生地が寄ります。また何度も同じ場所を刺せば針穴が大きくなります。迷いは針を刺す前に考え、針を刺す時は一度だけ、それが綺麗に仕上げるコツでもあります」
「そうか」
「私の私感かも知れませんが」
「嫌、それで良い」
「5日かけて仕上げたと言う事は迷い考え、その上で迷いなく針を刺しこの絵柄を仕上げたのだと思います。とても丁寧に刺してあり仕上がりも綺麗ですし、糸の始末もきちんと出来てます」
「そうか。ならこっちは?」
「一見綺麗に見えますが布が寄ってる所があったり糸の始末もおざなりです。確かに教えれば治るとは思いますが、ですがどうしても慌てている時などに癖は出てしまいます。お客様の大事なドレスですので失敗は許されません」
「そうか」
「私がもし雇うなら時間がかかっても丁寧に刺せる子の方が戦力になると思います」
「分かった。言いにくい事は言わせた、すまない」
「いえ」
「それなら初めに見た子を見習いとして雇うつもりだがエディーナ譲は良いか?」
「はい」
「雇ったらエディーナ譲が面倒を見る事になる、それでも大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「分かった」
ディーナが部屋を出て行き、
「アイリーン様、ではお願いします」
「はい。本人に伝えます。一人の子は服屋等に声をかけてみます」
「お願いします」
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