妹がいなくなった

アズやっこ

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「お兄さんが言ってるのは普通の平民の話でしょ?私達は孤児院育ちなの。平民だからって普通の幸せが平等にあるとは思わないで」

「孤児院育ちの子は結婚しなのか?違うだろ」

「そうだけど、それでも働く場所がなくて働いてない人が結婚なんて出来ないじゃない」

「孤児院育ちの者達が働くのが難しいのは知ってる。それでも全くない訳ではない。きちんと学校へ通えば職を紹介して貰える」

「その学校へ通えないんだから仕方ないでしょ」

「なら何故平等に与えられた学校へ通わない。無料だからお金はかからないだろ」

「そんなの孤児院育ちだからって馬鹿にされるし嫌がらせだってされるからよ」

「孤児院育ちなのは事実だろ?これから先ずっと言われる事だ」

「誰が好き好んで孤児院で暮らしてると思うのよ。私だって孤児院で育ちたくなかった」

「確かに君達の境遇は君達が望んだものじゃない。君達が愛情を知らないのも分かる」

「愛なんかでお腹はいっぱいにならないわ。もし愛と言うのがあるならどうして私は捨てられたのよ。 シスターは良く言うわ、神が貴女達を愛したからこの世に産まれたって。神の愛が何よ、神は私を抱きしめてくれるの?欲しい物を買ってくれるの? 私は神に愛されるより親に愛されたかった」

「分かるわ」

「何よ、分かる訳ないでしょ。貴族のお姉さんは恵まれてるじゃない。親がいて何でも買って貰えて、全て持ってるじゃない」

「エリー!」

「チャーリーお願い。大丈夫だから」

「分かったよ」

「確かに私は貴族よ、親も妹もいる。こんな大きな家に住んで綺麗な服も着てる。美味しいご飯も食べてる。それでも与えられたのはつい最近よ。

私は両親が結婚する前に出来た子なの。婚約中の男女がそういう関係になる事はあるの。それだって別に悪い事じゃないわ。それでも私のお父様は自分の子じゃないと私を認めなかったし愛さなかったわ。お母様も私が産まれて直ぐに妹を身籠ったから自分の手で育ててないから愛せないって言ったわ。私はお祖母様やメイドに育てられたの。

お祖父様がお父様に当主を譲りこの家を出て行ってから私はいない者として育ったわ。与えられた部屋は物置部屋、食事は使用人達が食べさせてくれた。服だって何年も同じ服だったし、使用人のお古を直して着ていたわ。

私が自由に出来た事は本を読む事だけよ。部屋から出れない私に与えられたのは本だけ。メイドに分からない文字を聞いて毎日本を読む事しか一日が過ぎなかったの。読み始めると自然と文字を覚えたわ。見様見真似で文字を書いたわ。本の中の世界だけは私が自由に動き回れる世界だもの。有り難かったのは書物が多かった事ね、分からない事は調べれば良かったから。頭の中で空想して部屋から飛び出し誰にも文句を言われる事のない世界に行けるのよ?

どうして貴女達は文字を覚えようとしないの?分からなければ聞けばいいし、本を読んでたら覚えていくわ。教えて貰えないから?それなら誰かに聞いたの?何もしなければ覚えないのよ?

孤児院育ちだからって事を言い訳にして努力をしなかったのは貴女達でしょ? 学校だって教えてくれる先生方に理由を話したら親身になって教えてくれたはずよ?

平民の子に意地悪されるから? それでも働きたいと思う気持ちが強ければ気にならないわ。

孤児院育ちだから、働く場所がないから、文字が書けないから、それは理由にならないわ。努力をしていれば誰かが見ているの、手を貸してくれる人は必ずいるのよ?

シスターが言った貴女達は神に愛されたって言葉、神は平等に人を愛してるの。きっとシスターはこう言いたかったのよ、

「努力し正しく生きれば誰かが手を貸してくれる、だから清く正しく生きなさい」

って。善意には善意が返ってくるし悪意には悪意しか返ってこないわ。努力をし続ければ見てる人には分かるわ。環境のせいにして諦めた人のどこに魅力があるの? 働く場所がない訳ではないの、働く姿勢がないから雇って貰えないのよ?

それを育った環境のせいにして、学校へ通わなかったのを人のせいにして、貴女達はこれからも周りのせいにして生きていくつもりなの?

いい加減、目を覚ましなさい!

貴族でも私の様な環境で育つ者もいるの。それでも努力した結果が今の私よ。 貴女達はまだ若いわ、まだ努力をする事が出来るの。目の前の現実に目を向けて自分を認めて頑張ってみたら?」

「お姉さんはそれでも養って貰ってるじゃない」

「養ってるのは私よ?」

「お姉さんは女じゃない」

「女だけど私はこの家の当主なの。使用人や自領の領民を養い、ついこの前まで両親や妹も養ってたわ」

「そんなの信じる訳ないでしょ」

「信じて貰わなくても良いけど、お父様が働かない人だったから私は10歳の時から働きお金を稼いで使用人や領民、両親や妹を養ってたわ。それでもお金を使えたのは両親や妹だけだけどね」

「はあ?」

「お金を稼いでも私の生活は変わらなかったもの。いない者として扱われてたし、貴族なのにドレスや宝石を買って貰った事なんてなかったわ。勿論、お茶会や夜会なんて連れて行って貰える訳ないから行った事ないし」

「はあ?」


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