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私はチャーリーから離れ、
「入って」
ガインが入って来た。
「お祖父様は?」
「大旦那様はもう少ししたらお見えになります。少し休憩なされませんか?」
「そうね」
ガインは部屋にあったお茶を淹れてくれ、私達は少し休憩を取った。
「美味しい」
「良かったです」
廊下がバタバタと…、
部屋の扉があきお祖父様が入って来た。
「どうした?」
「前侯爵、ご期待に添えず申し訳ありません。俺では良い案が浮かばなくて」
「チャーリーどうした?」
「お祖父様、チャーリーは全ての子達を助けられないと嘆いているだけです。そんなの無理なのに」
「そりゃそうだ。儂等は導く事は出来てもその先はその子次第の問題だ。全ての子達を助けようなど儂も思ってない。儂等はやる気はあっても術がない子達を助けるのが目的だろ? それを忘れてはならんぞ」
「はい」
「チャーリー」
「はい」
「これから時には厳しい事を言わないといけない。そして辛い判断をしないといけない。だがな判断を間違えるな。平等に与えられるのは学ぶ術であって職ではない。それを履き違えるな」
「はい」
「儂も皆に職を与えてやりたいと思う。だがなそれは無理だ」
「はい」
「今の孤児院の状況は文字の読み書きが出来ず学校に通う事が難しいからだ。本来ならシスターや年長者が下の子達に教え覚えていく。だが年長者も拙ければ教える事は出来ない。その手助けをする為の儂等だ」
「はい」
「儂に用とはなんだ」
「はい。セイリーン孤児院の子で名前はマーク。この子は両親を流行り病で亡くし、妹と弟とセイリーン孤児院に入りました。卒院後は孤児院の近くならどこでも良いから働きたいと言っています。お金を稼げればどんな仕事でもやると。ゆくゆくは妹と弟と暮らしたいと言っています。母親に妹と弟を頼まれたのもあるとは思いますが」
「そうか。お金が稼げればどんな仕事でも、か…」
「はい」
「それは例え犯罪でもお金が稼げればやるかもしれんな」
「はい」
「うん、一度話を聞いてみよう」
「はい、お願いします」
「ガイン連れて来い」
ガインは部屋を出て行き、暫くしてマークを連れて戻って来た。
「さぁ座って」
「何でまた呼ばれたんだ。俺は稼げればどんな仕事でも文句は言わないと言った」
「そうだね。でもそれでは駄目なんだよ」
「どうしてだ」
「もし働ける場所が見つからなかった場合、それが例え犯罪だと分かっててもお金が貰えるなら君はやるだろ?」
「それは…」
「捕まれば罰を受ける事になる。そしたら妹さんや弟さんとは会えなくなるし一緒には暮らせないよ?」
「それでも妹や弟にお金を残せてやれるなら俺は構わない」
「君の人生は?」
「俺の人生より大事なのは妹と弟だ」
「その大事な妹さんや弟さんだって身内に犯罪者がいたら卒院した後働ける場所はなくなるんだよ」
「それなら俺はどうすればいい。俺は貧乏でも父さんと母さん、妹達や弟と楽しく暮らせてた。それが流行り病のせいで何もかも失くなった。生き残った妹や弟だけでも俺は護らないといけないんだ」
「それはお母さんとの約束だから?」
「家族だからだ」
「うむ。マークと言ったな」
「ああ」
「お前さんは妹と弟と暮らせれたら何でもやると言ったな」
「ああ」
「それなら儂の領地に来るか」
「は?」
「妹と弟も一緒にだ」
「お金も稼げない今の俺にどうやって妹と弟を食わせていくんだ」
「領地で領民と同じように働けばいい。畑仕事は嫌か?」
「畑仕事?」
「儂の領地は小麦畑だ。力仕事も多いし泥まみれになるぞ。それでも妹と弟と一緒に暮らせる家も用意しよう。ただし条件付きだがな」
「条件?」
「足の不自由な婆さんと一緒に暮らしてほしい。爺さんを亡くしてな婆さん一人になった。息子夫婦も居たんだが流行り病で亡くなった。息子夫婦には一人息子、まぁ婆さんからしたら孫だ、居るんだが今は一緒に暮らしていない」
「孫がいるなら孫が面倒見ればいいだろ」
「孫は孫でやる事がある」
「なんだよそれ。自分の婆さんだろ?」
「孫のなりたい職業は医者だ。その為の勉強を住み込みで今必死にやっている。頭の賢い子ではないが、両親を苦しめた病を無くしたいと、後、領地には医者が居ないからな、病を患っても治す事は出来ない。儂等とて薬は高価な物だがそれでも領民の為に出し渋る事はしてない。それでも医者が領地にいたならと儂も思う事は多い。
あ奴は領地の医者になりたいと今必死に勉強しておる。ある程度の勉強が終われば他国へ留学し医師免許を取るには何年とかかる。それでも頑張ると、諦めないと朝から晩まで勉強漬けだ。儂等はあ奴が医者になるまでの費用と生活の補償をする。儂等が出来るのは勉強を習う環境とお金を出すだけだ。後はあ奴を信じ、あ奴が進むだけだ」
「婆さんは今一人なのか?」
「連れ合いの爺さんが亡くなったばかりでな、今は領民の手を借りて何とか生活はしているが。儂も心配だから領地にある邸に来いと言ったんだが、爺さんや息子達と過ごした家から離れたくないと言ってな、首を縦に振らんのだ」
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